第31話 橋本が喋る

「何で俺がこんな僻地に来て、尻拭いをしなきゃならんのだ…」


 国防軍の制服を着た小太りの男は独りごちた。


「本当だね。オッサン」


「!……おまッベブェ!?」


 小太りの男は振り向き様にレイカの手刀を首に食らい、意識を手放した。


「…確かコイツ等、自殺するかも何だよね…

…やっぱりね。あったあった…ばっちぃなもう…」


 レイカは小太りの男が奥歯に仕込んでいたカプセルを取り出し床に捨てて手を洗った。男を担ぎ、兵士達が建物を見てないのを確認して素早く階段を上がり、ヒロシとサウスが待つ部屋に入った。


「お待たせヒロシ君、サウス。何か縛る物とかある?」


「うーん…ガムテープで良いか?」


「ありがとう。早速、巻いてこう」


 レイカは男をドサリと床に落とし、手足をグルグル巻きにした。


「コレで良しと…持ってる拳銃は…おおマグナム弾のヤツ!貰っておこう!」


 レイカはホルスターごと拳銃を奪い取り、男の背中に膝でガッ!と活を入れて強引に意識を取り戻させた。


「……ぐっ…確か女が…ここは何処だ?……なっ、お前等何者だ!?こんな事をしてタダ済むと……ブッ!?」


 喚き散らしている最中の男の頬をサウスが2本の管を鍋つかみの形にして、両側から押さえ付けた。


「質問するのは俺達だ。答えるのはお前。理解出来たら頷け」


 男は青褪めた顔で、高速でブンッブンッと頷いた。


「よし。ヒロシとレイカ、質問だ」


「ああ。先ずは…アンタは何者だ?」


「国防軍南エリア中央群所属のグェッ!?」


 レイカが男の腹を蹴った。


「嘘付かないでよオッサン。演説聞いてたよ?ボサツの救済がナンタラカンタラ言ってたじゃない」


「う、嘘では無い…国防軍であり、ボサツの信者なのだ…国防軍の幹部クラスには信者が多い…」


「ふーん…じゃあ、もう1回自己紹介して?」


「…国防軍南エリア中央群所属の橋本だ。階級は大佐だ…」


「橋本さん、何で国防軍の幹部はボサツ信者が多いんだ?」


「お前…本当に日本人か?わ、分かってる!質問には答える!この国の与党がボサツと繋がりがあったのは公然の秘密だ。信者になると、様々な事が優遇される…軍や公務員は出世して、ボサツ信者になるのが世の中的に成功したと言えるのだ。民間は知らないが、公的機関は大体そんな感じだ」


「オッサ…橋本さんの奥歯のヤツは私が捨てたけど、ボサツにそんな忠誠を誓っているの?」


「!…いつの間に…あ、あれは戒めみたいなモンだな…異星人が攻めて来る前から奥歯に仕込んでいる…いや、仕込まされてる人間は多い。ボサツの首脳部は失敗を許さない。数年前から軍や公務員の所謂自殺が多いのはそれが理由だ。まぁ…逃げても確実に行方不明として処理される訳だが…俺の場合はお嬢さんにカプセルを取られたとしても、死ぬ勇気は無いな」


「言っている事が微妙にカッコ悪いなぁ…。港にいたオッサンは色々話す前にそのカプセルを噛んだよ?」


「港……C県の港か!?そ、そうか…お前等が異星人の物資や遺体の引き揚げを阻んだのか

…責任者の名前は覚えて無いが、あの任務が失敗すればどうせ殺されるからな」


「ボサツって、私達の事を知ってるの?」


「特殊部隊が名前も無い小島で正体不明の存在と交戦して全滅したと報告が上がっている…もし、それがお前等なら安心しろ。国防軍やボサツの情報はそんなもんだ。部隊の指揮官は処分されただろうしな…」


「じゃあ次の質問だ。橋本さん、アンタ達は異星人を捕まえていたのか?」


「そうらしいな…い、いや隠してる訳じゃないぞ!?俺も命令を受けて、H県からここに来ただけだ。異星人に埋めた発信機がF県内のこの周辺で反応したからこの施設に降りた」


「追っている異星人は何体だ?」


「4体と聞いている。国防軍の装備を盗んだ事と、発信機の周波数しか聞かされていない」


「何処から逃げたとかは?」


「本当に知らん。H県にいる俺に命令を出した

盾脇中将なら知っている筈だ」


「盾脇中将の居場所はH県の基地か、それとも教団施設か?」


「どちらも可能性があるな。今、U国のお偉いさん…ボサツの中でもかなり権力を持った人間が来ている。推測だが、盾脇中将はお偉いさんにピッタリ引っ付いて、基地や施設を行ったり来たりしていると思う」


「成程な…橋本さん、もう1つ質問だ。俺達はK県で住民に予防接種と嘘を付き異星人の血を注射して、亡くなった方達を袋に詰め球場に埋めていた現場を見た…そんな事をして、どれだけの人が生き残る?で、何故非人道的な事をアンタ等は平気に出来るッ!?」


 ヒロシは怒りに任せて、サウスを橋本に向けた。


「ヒッ!?わ、私はボサツの信者だが、そんな話は聞いていない!大佐と言えど、命令を受けて最低限のじ、情報で兵士とう、動き回る存在なんだ!この期に及んで嘘は言わん!」


 橋本は涙目になりヒロシに訴えた。


「ヒロシ君、このオッサンが知ってるのはここまでの様だよ?落ち着いて、ね?」


 レイカは優しくヒロシの左手を下げた。


「…橋本さん、俺達は無駄な殺生は好まない。アンタ達がこのまま、ここを去れば見逃してやる。どうする?」


 橋本はヒロシの提案に涙目超高速ブンッブンッブンッ!と首を動かし頷いた。




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