第30話 施設とヘリ
「レイカ、大丈夫か?」
「ヘーキヘーキ!それなりに鍛えているからね!それより、どうする?」
「ここから中の建屋まで50メートル位だな。門を壊して一気に走り抜けるか?」
「悩んだ所で、それしか無いか…」
「その前にこの門の扉は鍵が閉まってるのかな?……開くね、これ」
「……門の厳しさに勝手に閉まってると思い込んだな。じゃあ、今チラッと見えた建物まで走るか」
「うん。せーのであそこまで走ろうよ…せー
…のっ!」
ヒロシはサウスをレイカは小銃を構え、屋根がドーム状で四角い建物に小走りで向かったが妨害は無かった。
「静かだね…あ、中の明かりが点いてる。電気が通ってるって事?」
ガラス戸の入口から見える無人の受付カウンターから廊下の奥まで蛍光灯が点いていた。
「立ち寄った結婚式場や後ろの住宅街は停電していたからな。自家発電か太陽光発電が生きているか…人が居そうな雰囲気だが、サウスどうだ?」
「何も感じないな。中に入ろうぜ」
会議室やパンフレット、教義内容が書かれた本が置かれた資料室に30人程が入れる集会所や給湯室等が1階にあったが、人はいなかった。
「特に目を引く物は無いね」
「ボサツの教義には少し興味、と言うか軽く知識として頭に入れておいた方が良いかもな」
「ヒロシなら飯時に軽く見ただけでも頭に入るだろ?2階に行ってみようぜ」
受付横の階段を上がると、何も置かれていない敷地が見える2部屋と廊下の奥に太陽光発電のコントロールパネルがあるだけだった。
「見事に何も無いね…電気付けっぱなで、何処かに人は行ってしまった感じかな?」
「陽が暮れ始めたし、電気があるのは有り難いけどな。飲み水にするには怪しいが、給湯室の水道ポンプも動いていたし、IHコンロも使えるから今夜はここで1泊しても良いな」
「そうだな。潜水艇には明日戻ってH県を目指すか。それとなヒロシ、水のチェックは俺に任せろ。劇薬を取り込んで来たから、異物が混入していたら多分分かるぞ」
「どんどん出来る事が増えて行くな相棒…」
「凄いねサウスは…私がドゥメルクを手に入れても、サウスみたいになるのに時間掛かるだろうなぁ…」
「いや、多分大丈夫だ。ドゥメルクに管を刺す事によって情報交換は容易に出来る…と思う。本能的に分かるんだ」
「本当に器用な事で…水のチェックを頼む」
サウスの水チェックは異常無し。ヒロシはIHコンロで水を沸騰させて、スープを作りレーションと一緒に会議室でレイカと食べた。
「美味しかったぁ…明かりがあって、スープがあるだけで食事が美味しく感じるね!ヒロシ君、ボサツの経典?聖書?から何か分かった?」
「…宗教なんてモノにこれまで無縁に生きてきたからな…正直分からない。自分の目で見た…エセ国防軍に化けたおっさんがボサツの人間としか印象が他に無いな」
「アハハハ!そんな物だよね、私達目線から分かる事なんてさ。ページの最初に救済なんてデカデカと載せるなら、こんなになった世の中を救えってね!」
食事を終えて3人で雑談をしていると、サウスがいち早く異変を察知した。
「上空から音がするな。こっちに近付いてくるぞ」
ヒロシとレイカが急いで2階に上がり、そっと窓から覗くと大型ヘリが近付いていた。
「…国防軍はほぼボサツだね。降りて来そうだけど、どうする?」
「ここに何をしに来たか、少し確認しようかサウスはそれで良いか?」
「ああ。2人が苦戦するとも思えないし、様子を見よう」
大型ヘリはドドドッと音を立てて、芝生の敷かれた施設の敷地に降りた。
「目の前に降りた割には部屋の中は静かだね」
「防音ガラスか何かだろうな…という事はここはヘリが降り立つ前提で作られているかもしれないな」
「エンジンを切ったな。長い事、ここで作業をするつもりか…」
ヘリの後部ハッチが開き、フォークリフトが大きな荷物が載ったパレットを次々と地面に置いた。小銃を担いだ兵士が荷解きをして机や椅子を並べ、その上に色々な機械を並べて電源を入れた。最後にヘリから国防軍の制服を着た、小太りの男が整列した兵士の前に降り立った。
「なんか言ってるけど聞こえないね」
「任せろ」
サウスは防音ガラスに先端が尖った管で、小さな穴をピシュピシュッと複数開けた。
「……であるからして、この任務に選ばれた諸君は必ずや教祖様の救済を得られる!死を恐れずに逃亡した異星人を捕獲するのだ!」
「ハッ!」
小太りの男の演説が終わり兵士達は一斉に返事をした。半数は門を駆け足で出て行き、残りは機械の前に座り操作を始めた。
「え?…アイツ等ひょとして、私達が倒したグプ人を捕まえに来たの?」
「そうだろうな。偶々、俺達が4体倒しただけでまだいるかもしれないが」
「小太りの男が建物に入ろうとしてるな。捕まえて尋問だな」
「じゃあ、私が捕まえてくるよ。この部屋は外に音が漏れるかもしれないから、ヒロシ君とサウスは隣りの部屋で待っててね」
「分かった。レイカ、気を付けてな?」
「うん。あっヒロシ君、ライフルを預かっててね。そんじゃ行ってきまーす」
レイカは低い姿勢で、サッと部屋を出て行った。ヒロシは少々呆気に取られ、ノソノソと隣の部屋に移動した。
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