第29話 ダメ強化と教団施設

 夜明けと共にレイカは起きて、まだ寝ているヒロシの頬や耳たぶを触って優しく起こした。


「…ん…おはようレイカ、サウス」


「おはようヒロシ君。サウス、見張りありがとうね」


「おはよう2人共。朝飯食って、今日も元気にサバイバル観光だな」


 ヒロシとレイカは部屋を分けて、オフィスにあったウォーターサーバーの水で身体を拭いたり洗顔をして、朝食を食べる為に所長室に戻って来た。


「一緒の部屋で身体拭いたりしても良いのに…」


「揶揄うなって。俺も若い男だぞレイカ?」


「フフッ。知ってる…ヒロシ君なら良いよって言ってるのに…」


「……う、ん…」


「お熱い雰囲気出してないで、朝飯食って液体窒素の場所を調べたりしようぜ」


「はいはいサウス…何処から探すの、ヒロシ君?」


「今いる所長室だな。ここの1番のお偉いさんの部屋なら、大体何でも分かるだろうな」


 サウスが机の引き出しの鍵を壊すとヒロシの言った通り、社外秘の見取り図を発見。プラントの最奥、一見壁に見える場所の取手を押すと小さな容器に入った液体窒素が複数ある部屋に3人は入った。


「格子の網から換気は出来てる様だな。後は近くに容器のバルブを触れる手袋がある筈だが…」


「ヒロシ、ニトログリセリンの要領で俺が開けて中のをちょっと取り込めば終了だ」


「待てサウス!−200度だ……ぐっ…あ…さ…寒い…身体が凍りそうだ…」


「あ…こりゃ生命活動が止まるな…レイカ…ヒロシと俺を……」


 レイカはサウスが言い終わる前にヒロシを抱えて猛ダッシュでプラントを脱出して、オフィスに戻った。


「ヒロシ君!?サウス!?しっかりして!」


「湯を…沸かして…ヒロシを……」


「うん待ってて!」


 レイカは所長室に置いてあったヒロシのリュックから固形燃料とマッチを取り、給湯室にあったヤカンで湯を沸かしてサウスとヒロシの身体にぶっ掛けた。その後、災害用アルミシートを被ってヒロシを1時間程抱きしめ続けた。


「う…あ…レイカ?…ああそうか、心配を掛けたな」


「こんな所で死んじゃうかと思ったよ…また1人にしないでよ……」


 泣き顔のレイカを見るのが辛かったので、ヒロシは抱き締めてレイカの頭を撫でた。


「ヒロシ…悪かった…ニトログリセリンを難なく取り込めるから、イケると思った俺の慢心だ。本当に済まない」


「良いさ。液体窒素は身を持ってヤバいとお互い理解したって事でな。これからも俺とレイカを支えてくれよ、相棒」


「ああ。ありがとう相棒」


「その前に2人は私に心配させない努力をしてよ?戦いの中での生死は仕方無い事だけど、こんな事で私を孤独にしないでね!?」


「はい…」


「レイカ、悪かった」


「うん…分かってくれたなら許す!さぁまだ午前中だし、教団施設に行こう!」


 3人は装備を整えて冷凍施設プラントを後にした。車に乗り込み30分ほど走らせたが、片側3車線の道路を左右からビルが倒壊して道を塞いでいた。


「あちゃあ…コレは無理だね…」


「ブチ壊して通る事は出来るが、見つかる可能性も高いな。どうするヒロシ?」


「歩くか。人がいるかもしれないし、日本製装備のグプ人も見たから用心に越した事はないな」


 倒壊したビルを迂回して、下町に繋がる道路を歩く事にした。


「施設がある住所までは…後12キロか。私達なら慎重に歩いても2時間半位だね!」


「のんびり慎重に。だな」


「それは面白い造語だなサウス。良い景色や安全そうな建物があれば積極的に寄って見なきゃな」


 幹線道路から町道に降りた3人はヒロシの言う通り、あまり破壊されていない町の風景を楽しみ、無人になった美しい西洋建築の結婚式場で昼食を食べたりした。


「ここから20分程でボサツの施設に到着するな。油断するなよ2人共?」


「勿論だサウス。しっかり構えさせて貰うさ」


「私も新しい武器で気分がアガっているからばっちり敵が現れたら仕事しちゃうよ!」


 結婚式場を出て3ブロック程の住宅街を抜けると緩やかな坂道に入り、左右は雑草の生えた原っぱだけになった。


「急に雰囲気が変わったし、身を隠す場所が無くなったな…俺が右を警戒しよう。左を頼むなレイカ」


「うんヒロシ君!」


「俺はこの体勢から正面を見るよ」


「頼むなサウス」


 ヒロシとレイカが背中合わせになり、坂道を蟹歩きで登り切った。


「はぁ…長い坂に感じたな」


「うん…それにしてもデッカい門だねぇ…」


 F県のボサツの施設は4メートルの壁に四方を囲われ、正面にある門は壁と同等の高さで山型で木製、両開きの門が鎮座していた。壁や門の色は何とも形容し難い、暗い緑色で異質感を強調していた。


「中の想像が全く出来ないな。サウス、人の気配は?」


「この辺は間違いなく無いが、中は分からんな…管を伸ばし切っても届かないな」


「私がヒロシ君を肩車したらどうかな?」


「えぇ…重たいぞ?」


「午前中にヒロシ君とサウスを抱えて助けたんだけどな?私、結構力あるよ!」


「そうでした…じゃあお願いしようかな」


 ヒロシはリュックを降ろしてブーツを脱ぎ、レイカの肩に登った。左手を目一杯伸ばすと、サウスはニョーンと伸びて壁の中を見た。


「見える限りは無人だ。中央やや後方に屋根が丸い四角い建物があるな」


「了解サウス。ありがとうレイカ」


 レイカの肩からヒロシはストンと降りてブーツを履き、リュックを背負った。









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