第19話 交渉と対話
ヒロシがキーレスのスイッチを押して、潜水艇を海の中に隠した。
「まだ明るいから、出来るだけ姿勢を低くなヒロシ」
「ああ。周りの草木を利用して、アイツのアジトまで辿り着こう」
2人は四方が1キロメートル未満の島のほぼ中央を突っ切る様な形で捜索。島の3分の1を歩いた所で、ヒロシがしゃがんだ姿勢で身を隠していた木がバチィッ!と音と共に揺れた。ヒロシは慌てて頭を隠して対話を試みる。
「話がしたい!君は俺と同類らしい!……わっ!?」
もう1発狙撃されて、念の為被っていた折り畳みヘルメットを掠め削れた。ヒロシは四つん這いで隣の太い木に身を隠す。
「君はグプ人の血を取り入れても平気な体質ではないのか!?俺もなんだ!俺は国や組織と関係無い人間だ!話がしたいだけだ!」
3発目の銃弾は飛んで来なかった。
「…今から手を挙げて前に出るぞ!?…サウス、グローブに変身してくれ。武器は見せない方が良い」
「分かった。気を付けろヒロシ」
サウスが素早くオープンフィンガーグローブに変身したのを確認して、ヒロシは両手を挙げて木の前に出てゆっくりと歩いた。
「武器を持っているなら捨てろッ!」
女性の怒鳴り声が聞こえた。
「グプ人の使う手榴弾を地面に置く!ポケットに手を入れるぞ!……置いたぞ!」
「左手のグローブも外せ!」
「ですよね……彼の名前はサウス!グプ人から俺に寄生した相棒だ!捨てれない!敵対の意思は無い!信じてくれ!」
数秒間シーンとしたが、やがて人の気配がしてザッザッと歩行音が聞こえ、黒髪長髪で全身黒い服を着た女性がライフルを構えて姿を現した。
「動くなよ……ヒロシ……君?」
「へ?……レイカ……か?」
レイカはライフルを下ろし、ヒロシをマジマジと見た。
「ヒロシ君だ……撃ち殺さなくて良かったよ
…何やってたの?」
「レイカがロケット?を撃った港の近所の町で働いていて、サウスが仲間になって一緒に行動して、今に至るって感じだな。手を降ろして良いか?」
「うん。要するに施設を出て、一般人をしてたんだね…ヒロシ君に会えて嬉しいよ」
「俺もだレイカ。10年振り位か?」
「そうだね。この先に小屋があるから、そこで話そうよ。沢山話をしたいし、聞きたい事も沢山あるよ…」
「そうしよう。手榴弾拾うな…」
「グプ人のって言ってたね。何個か頂戴?」
「2個やるよ。ああサウス、大丈夫みたいだ」
「その様だな。宜しくなレイカ」
「わっ!?喋るんだ……宜しくねサウス」
久しぶりの再会と簡単な自己紹介の時間を終えて、島の中央付近にある木造の小屋に3人は移動した。
「何も無いけどリュック降ろして寛いでよ、ヒロシ君」
「ありがとうレイカ。……羊羹でも食べるか?」
「わぁ!ありがとう!ここでの甘味は貴重だよ……はぁ…染み渡るよ…」
「喜んでくれて良かった。水も飲んでくれ…
さて、どっから話したもんか…」
「……ふぅ。水飲んで落ち着いたよ。そうだなぁ…ヒロシ君と私が離ればなれになって7年位は経つでしょ?その日から今までをギュッと纏めて話して欲しいな?」
「微妙に無茶振りだなぁ…先ずは……」
ヒロシは極力、高校時代から今に至るまでをコンパクトに纏めてレイカに話した。当然だが、グプ人の攻撃を経験してサウスと出会い経験した事を重点的にレイカに聞かせた。ヒロシは1時間近く1人で話したが、レイカは集中を切らさず黙って聞いていた。
「…と、まぁこんな感じだ。1人で話してごめんな」
ヒロシは水を飲み、レイカの言葉を待った。
「私の話す番だね。ヒロシ君みたいに頭が良く無いから、上手く話せる自信は無いけど…
ヒロシ君も適応者だったんだよ」
「適応…者?」
「そう。ヒロシ君さ、17才か18才位に注射をされて、気を失ったの覚えて無い?」
「……あったな。予防接種の後に倒れて、目が覚めたら3日位経ってて…起きたら一緒に施設に過ごしていた子達が数人いなくなってた事があった。レイカも他所の施設に移ったって聞いた…」
「うん。あれって異星人の名前がグプ人って今日初めて知ったけど、その血を施設の子達に注射して反応を見たんだよ…それで気を失わなかったり、死んだりしなかった子達が国の隔離施設に移されたんだ」
「死んだ…?」
「そう。ヒロシ君に懐いていたサナちゃんとか、一緒に遊んでいたマナブやトウコ、コウタ君なんかは亡くなったんだ。他にも沢山の子が…拒絶反応を起こしてね。ヒロシ君はその子達も他の施設に移されたって聞いた?」
「ああ…元からレイカも知っての通り、クソみたいな施設だったから、別れの言葉も言わさずに人を移動させる事は有り得ると思っていたんだ」
「そう思うよね…現実は殆どの子達が亡くなったよ…気を失って施設に残ったヒロシ君、他3人とグプ人の血に拒絶反応が起きなかった私とあんまり会話した事が無かった2人の女の子の7人しか生き残らなかった…」
「…真実を教えてくれてありがとう」
「うん…続きを話すね。国の隔離施設に移った私はいずれ訪れる未曾有の危機に対処する存在だ!とか言われて、訳のわからないまま軍事訓練を14歳から6年間受ける事になったんだ」
「訪れる未曾有の危機って、やっぱりグプ人の侵略か?」
「多分ね…7年経ったある日、施設は環境保護団体を名乗る連中に襲われたんだ…」
レイカは記憶を思い出す様に小屋の天井を見つめた。
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