第4話 これからどうするか

「また夜か…サウス、見張ってくれてありがとう。グッスリと眠れたよ」


「そりゃ良かった…って、俺が見張っているのが分かったのか?」


「ああ。左手から感覚って言うか…サウスが何をしているかは分かった」


「なんつー親和性だ…グプ人よりも高いぞ…

身体に異常は無いか?」


「ああ元気そのものだ。こんな世の中を生きて行くんだ、少しくらい人外の方が良いかもな…」


「強い精神力の宿主に寄生出来て誇りに思うよ…で、どうする?まだ休むか?」


「いや、少し動くよ。昨日取り損ねた応急処置セットを拝借して…それから何しようか?」


「屋上に上がらないか?ここを拠点に何処を見回れば万全になるかとか、その後何処に向かえば良いかとかを検討しようぜ。俺は夜目が効くから心配するなよ」


「便利な相棒を誇りに思うよ…行こうか」


 応急処置セットをポケットに入れて屋上へ上がった。植物園が広がり、子供用の遊具やゲーム機が申し訳程度に置かれていた。開けっ放しの従業員控室の机から周辺地図を見つけた。


「おっ、これは使えるな」


「控室の2階に上がろう。1階と造りが一緒なら、四隅の壁に窓がある筈だから街を一望出来る……うん、やっぱりな」


「これは見やすいな。ヒロシ左腕の甲を窓に向けてくれ」


「こうか?」


「サンキューな。…海方面は駄目だな、グプ人の拠点がある。旗艦を水上に置いているな

…」


「移動する事は?」


「しばらくは無いだろうな…海底のガスを奪っているだろうからな。地球の海水も栄養素がタップリだし、採取や採掘が終わるまではあのまんまだ。次は東西の町並みを見てみようか?」


「じゃあ東側から…」


「瓦礫の山だな。歩くのも難儀しそうだ」


「西側はどうだ?」


「東側より幾らかマシだな。ここを拠点に探索する時と町を出る時は西側を経由して、北側の山方面に入るか」


「北側も一応見るか?」


「頼むヒロシ……破壊された場所が少ないな

…高確率で人がいるな。どうする、近い内に見てみるか?」


「辞めておこう。問答無用で襲われて反撃をしたら、こっちが悪者になりそうだ。数十人に襲われても勝てたりするだろサウス?」


「ああ。好き好んでヒロシを大量殺人者にするつもりは無いよ」


「そりゃ助かるよ。所でグプ人と遭遇したらサウスは攻撃出来るのか?」


「全く問題無い。俺みたいな生き物はアイツ等に利用されてただけだ。今の宿主はヒロシだしな。心配するな、命が危険に晒された時は全力で戦う」


「そうか。その時は頼むよ。テントに戻って明日の朝から西側の町を探索するって事で良いかな?」


「ああ。戻ってゆっくり休んでくれ」


 ヒロシはテントで休み、サウスはまた管を伸ばして周囲を警戒した。


「ヒロシ、朝6時だ。起きれるか?」


「ああ。おはようサウス。起きて朝食を食べるよ」


 ヒロシは消費期限間近のあんぱんを齧り、缶コーヒーを流し込んだ。


「ふぅ…ご馳走様。出来れば、身体を拭いたり歯を磨いたりしたいな…」


「周りは警戒しておくからトイレでやったらどうだ?水はまだ出るかもしれんし、清潔に出来る時はした方が良い。余談だがな、ヒロシはグプ人の血液が入って細菌やウィルスの抵抗力が強くなっている。普通の人間よりは頑丈だな」


「そうなのか…生きて行く上では有り難い事だな。あっ…サウスは嗅覚はあるのか?」


「ああトイレを気にしてるのか!本当に優しい宿主だな…全く気にならんから好きにやってくれ」


「そうさせて貰うよ」


 ヒロシはトイレに行き、バケツに水を溜めて身体を拭いて歯を磨く。


「ん?…腹筋が割れている!?」


「さっきの話だな。グプ人の血のお陰で、身体能力が上がっている。左手に俺がいるから分かりにくいかもしれんが、右手の二の腕何かも逞しいぞ」


「本当だ…これは生きるのに希望が湧くな」


「とは言え過信は禁物だ。食える時に食って休める時に休めよ?」


「了解だ、相棒」


「良いな、その呼び名…まぁ無理するなよ相棒」


 服を着てヒロシとサウスは慎重にデパートの裏口から出た。


「先ずは何処に向かう?」


「壊れて無い建屋を探索しよう。入口やドアの前では遠慮無く俺を構えろ。いいな?」


「ああ…!」


 ヒロシとサウスが最初に入ったのは町の文房具屋だった。店内は全く荒らされてなく、無人と化しているだけだった。


「ペンや筆記用具は助かるな。まぁデパートにもあったんだろうが…」


「使える物だけ貰っておこうか…ここの生活空間はどうだ?」


「入ってみようか…失礼します」


 店の奥の扉を開けると一般家庭の生活空間、キッチンとリビングに繋がっていた。冷蔵庫の中は電気が止まり、乳製品が傷んだ臭いがした。


「次に行こうか…」


「ああ」


 ヒロシ達がいる場所は商店街の入口だった様で、背の低い建物が多く破壊を免れた様だった。最初に見た文房具屋の様に店舗や家屋を見て回ったが、特に目ぼしい物は無く人の姿も無かった。


「ある意味、この道の安全がある程度分かっただけでも今日の所は良しとしよう。明日はこの道の先を見てみようか」


「ああ。明日も頼むよサウス」


「相棒、だろ?」


「失礼しました。明日も頼む相棒」


「頼まれた相棒」


 認め合った2人はデパートの7階に戻った。

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