第3話 やりきれない初戦闘
「折り畳みが出来るヘルメットにLEDのライト、燃焼時間が長い固形燃料にコンパクトに持ち運び出来る食器セットとワンタッチで開く、1人用のテント。後は作業用ナイフとマッチ…こんな物かな?」
「まぁ、何でも揃っている事に越したことは無いがヒロシが楽に持ち運べるのはこの辺が
限界だな。ああ、応急処置セットは?」
「おお…本当に大事なヤツじゃないか。持って来なきゃな」
展示品の4、5人用の広いテントの中でランタンを灯し、ヒロシはサウスとここをしばらくの拠点として生きていく為の装備を整えていた。応急処置セットを取りにフロアの真ん中の棚にライトを当てて物色していると、止まっているエスカレーターからカツンカツンと足音が聞こえた。
(!!)
ヒロシはライトを急いで消して身を潜めた。カツンカツンと足音は下に降りて行った。
「ふぅー…誰かいるな。人間かな?」
「間違い無くな。伝わってくる振動から人間の女だ。あの特徴的な音はヒールってヤツだな」
「女性か…助けるか?」
「ヒロシの好きにして良い。この建物はしばらくはグプ人の攻撃対象にならないからな」
「分かった。慎重に近付いて話し掛けてみよう」
急に鉢合わせて、お互いが吃驚としない様にフロアを1つ1つ確認。結局ヒロシとサウスは地下1階まで降りた。
「なぁ、呼び掛けてみていいか?」
「一晩中、探し続ける訳にもな…襲われたら撃つぞ?」
「頼むよサウス…誰かいませんか!?怪しい者ではありません!」
ヒロシの呼び掛けの後はシーンとした静寂だった。
「ここじゃないのか…?」
パンッ!と音がしたと思ったら、後ろの洋菓子屋のブースのショーケースがガチャンと割れた。
「銃だヒロシ!遮蔽物へ!」
ヒロシは慌てて柱の裏へ。
「話を聞いて下さいッ!わっ!」
キュンッ!チュインッ!とヒロシの身体の近くを跳弾が襲った。
「ヒロシ…アレは駄目だ。殺意しか感じないぞ。生き残る為には、分かるだろ?」
「どうすれば良い?」
「相手が見えたら俺を構えろ。撃つのはこちらでやる。後は隣の柱に行け。距離を詰められている」
ヒロシは急いで隣の柱へ。パンッと鳴る度に撃たれた様な錯覚に陥る。銃を撃っている人物の姿が非常灯の緑の光に入り姿を見ると、乱れた髪、薄汚れたスーツに低いヒールを履いた女だった。
「どうせ…どうせ…アンタもアタシを乱暴しようとするんでしょッ!?あー!腐れ◯◯◯
ガアッ!?その前に…その前に…弾丸ブチ込んだらァァァッ!」
ヒロシのいる柱に向かって、3発の弾丸がボッボッボッと命中した。
「ヒロシ…今!」
サウスの合図でヒロシは柱から飛び出し、左手の銃口を女に向けるとドンッ!と音と共に球体が撃たれ一瞬の内に女の胸に命中、上半身は消えて無くなった。
「アレはしょうが無い。弾切れまで待ったとしても、ヒロシを拒否し続けて他の方法で襲っていたな」
下半身だけになった女の足元には銃と一緒に刃渡りの長いコンバットナイフが落ちていた。
「…外で嫌な事を経験したから、こんなになって…最適解とは思わないけど…」
「モヤモヤする気持ちも伝わっているよ。けど、俺達も生きなきゃならない。助けれる命は助ける努力をする。そのスタンスでいようぜ。
俺も協力するからさ」
「ああ。ありがとうサウス」
「キツイが片付けをしよう。後は食い物を7階にもっと持って行こう。いっその事、デパートの正面入口を閉めるか?」
「いや、鍵を閉めると誰かいると勘繰られて…んー…どっちが良いんだろうな?」
ヒロシは答えが出ないまま、サウスの言う通りに襲って来た女の身体の残りを箱型の代車に載せ、寝具売り場から持って来たシーツを被せて地下2階の駐車場に持って行った。銃やコンバットナイフは回収した。買い物カゴに消費期限の長い食べ物を満載して7階のテントに持ち込んだ。全ての作業が終わった頃には店内の時計が朝の9時を回っていた。
「お疲れヒロシ。少し休め」
「遺体の片付けやら食料の運搬をやってる方が気が紛れたよ…デパートの入口はどうするか…それが決まったら休むよ。サウスはどう思う?」
「発狂して武器を持った人間がここに来たのは、滅多に起きない不幸を引いたんだと思う
…そのままにしておくか」
「じゃあそれで…少し…休むよ」
ヒロシは座った体勢からゴロンと仰向けになると、秒で眠りについた。
「独り言だが、俺はあんまり睡眠を必要としない。お前が眠っている間は周りを警戒しておいてやる」
サウスはヒロシの左腕からスルスルと黒く細い管をテントの隙間から出した。
(これでこのフロアに侵入する者は分かる。ヒロシは同族を殺した事なんて無いから精神的ダメージが凄いな…しかし、グプ人の血を吸収するか…お前は何なんだヒロシ?記憶を少し読んだが親兄弟無し、親戚もいない。苦労して生きて来た位しか分からん。一緒にいれば謎は分かるかな?好奇心ってヤツだな、この気持ちは。考え事に耽るのも生きてる感じがして悪くないな…)
フロアの柱の時計が夜9時を過ぎた頃にヒロシは目覚めた。
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