第2話 自己紹介
攻撃は食らってはいるが、デパートが倒壊していないのは今のヒロシからは奇跡的に見えた。
「サウス、知っていたのか?」
「いや、ただグプ人の総攻撃はしばらく無いだろうから生きて行く為の拠点がある事は幸運だな」
「…グプ人ね…」
中に入ると非常灯が点灯していて薄暗い雰囲気。人の気配は無い。止まっているエスカレーターを降りて地下1階へ。高級弁当を売っているブースで適当に弁当2個とお茶を取り、フロアから死角になる階段前の柱にもたれてガツガツと食べた。
「ふぅー…落ち着いた。サウス、話を聞かせてくれないか?」
「寄生しといて何だが…割と落ち着いているよな、ヒロシ」
「そりゃあ生きたいし、あれだけ街を破壊されて人の血や遺体を見て…侵略者を殺した…極め付けはサウスが引っ付いてる。そうだな…取り敢えず、自己紹介からかな?」
「それならヒロシの事は分かるよ。何せ寄生しているからな。宿主の考えや精神状態も分かるぞ」
「便利な事で…じゃあ、サウスの事とか全身黒かったヤツの事とか教えてくれ」
「何処から話したもんか…ヒロシが頭を潰したヤツ、あれは異星人。地球へ侵略行為をした尖兵だな。それがさっき言ったグプ人だ」
「尖兵…複数の異星人から地球は侵略を受けていると?」
「みたいだな。グプ人の記憶を読み取っただけだから親玉の種族までは分からんが、豊かな場所を求めて侵略行為をしている様でな…元々グプ人は戦争とは無縁の種族だったが、交戦的な種族に無理矢理従わせられた。そんな精神状態は読み取れた」
「感想がすぐに出て来ない話だな…サウス自身の話を聞かせてくれないか?」
「元々、俺は名も無い星で単に他の生物に寄生して生きているのをグプ人が発見した。アイツ等は俺達を研究した様でな、気付けば身体に寄生して宿主の便利屋になる存在になっていたよ」
「便利屋…武器だけじゃ無く?」
「ああ。形はある程度変えられるぞ」
サウスはグニャグニャと変形してドライバーやレンチ等の工具になったり、鍋やフライパン等の調理器具になって元の銃に戻った。
「ヒロシの記憶にある物を形にしてみた。こんな感じで、グプ人の生活の一部として暮らしていた訳だ」
「今みたいに会話しながら?」
「まぁ少しはな…そしたらある日、武器に変形するのを教え込まれて今に至る感じだな」
「…あのバチャチャチャってなる武器か…」
「地球人にはそんな風に聞こえるんだな。あれはグプ人の血液と地球の空気を混ぜて化学反応を起こした球体を連射したんだ。地球の物質を破壊出来て、人体に当たると拒絶反応で破裂して吹っ飛ぶ兵器だな。原因は分からないがグプ人の血液を浴びて、尚且つ吸収したヒロシにも使えるぞ」
「あの音は嫌だな…」
「気になる所はそこか!?…分かった。宿主の要望には応えるさ。ヒロシが危なくなったら、地球の兵器風の音がする様に撃とう」
「ありがとうサウス」
「ああ。ヒロシ、最初に会った時にお前が弱い何て煽って悪かったな。興味を引いて貰う為に言った言葉だ。気にしないでくれ」
「戦闘経験が無い人間に寄生して良かったのか?サウスがいてくれて頼もしいが、生きていく上で足を引っ張るかもだぞ?」
「さっき言ったが、グプ人の血液を吸収して生きていられるヒロシに興味が湧いたし、何て言うか…生物的な本能で寄生したいと思ったんだ。気にするな」
「…そうするよ。所でサウスが撃つと俺はどの位、消耗をするんだ?」
「3食食べれたら、1日100発位は撃てると思うぞ。グプ人のアーマーを撃ち砕く程度の威力でな。!…確かに撃てなくなった時の武器は必要だな」
サウスはヒロシの考えを読んで、銃口の下にグニャグニャとナイフを作った。
「対応が早いな…」
「お互い生き残ってナンボだ。宿主の御要望には、それなりに応えてみるさ」
「ああ。ありがとう…満腹になった。これから何をするべきだと思う?」
「ヒロシの考えで良い。デパートにある服や鞄を拝借して、身軽に動ける様にしようか。それと食べた後のモンは片付けておこう。人の痕跡を追う者が、人間の可能性の方が低いからな」
ヒロシは頷き、弁当屋のブース内のゴミ箱に空になった弁当箱とペットボトルを捨てて、慎重に階段を上がり4階の紳士服売り場に到着した。そこでスーツから頑丈そうなジャケットとワークパンツに着替えて、ロングブーツと大きなリュックを拝借した。
「これで周りを探索する準備は整ったな。後は当面の寝床と地下に戻って腐らない食べ物の確保、火を起こせる道具もいるな」
「食べ物を取りに行って、寝床は7階のアウトドア用品売り場の展示テントをそのまま使おうか。火を起こす道具と調理用具なんかも、そこで揃うかな…」
デパートの案内板を見ながらヒロシはサウスに呟く様に言った。
「ヒロシは俺に相談してくれる良い宿主だな…楽しいよ」
「そ、そうか。どうした急に?」
「俺には喋れる能力はあるが、どうせ考えている事が分かっているんだろ?みたいな感じで、グプ人は道具としか見なかったからな…ちょっとした愚痴だよ」
「俺達は生きなきゃならない。会話は頻繁にするに越した事は無い」
ヒロシとサウスは地下1階で、消費期限が長い食料をリュックに詰め込んで7階のアウトドア用品売り場へ向かった。
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