ヒロシは地獄でも楽しく生きたい
マロッシマロッシ
第1話 なんで?
田中ヒロシ26歳は人並の幸せを感じたいだけだった。生まれた時から親や兄弟、親戚はおらず施設をたらい回しにされ過ごした。高校を卒業して、奨学金を受けながら大学へ。社会に出て借金まみれになりたくなかった為、恋愛やサークル活動には目もくれずバイトと単位を取る日々を貫いた。
努力の甲斐あってか、誰もが知る会社に就職出来たが酷いパワハラとノルマで気が狂いそうだった。
3年後、パワハラと部下の手柄を横取りする上司が内部告発により左遷された。ヒロシはこれ迄の努力が認められて、社内最年少で課長に昇進した。
(やったぞ!俺の人生はこれからだ…幸せになってやる!必ずな…)
課長の机で心の中でガッツポーズをすると何かがカッ!と光った。自分の後ろの窓を見るとオフィス街にクレーターが出来ており、上空の巨大な三角の飛行体からワラワラと小さな三角の飛行体と人型の黒い物体が降りて来て、こちらに向け金色の球体を一斉に放った。バチャチャチャチャッ!と音がして社内を見ると、これからヒロシの部下になる者達の姿が原型を留めず飛び散っていた。
我に返って一目散に逃げた。人でごった返すエレベーターを尻目に階段を一気に駆け降り裏口から外へ。縁もゆかりも無い町工場の扉がパッと見た目が頑丈そうだったので中へ入った。人が3人入ると身動きが取れなくなりそうな何に使うか分からない部屋で、バチャチャチャチャッ!の音が消えるのを身体を小さく丸めてひたすら待った。
(静かになった…どの位時間が経った?電話は…圏外。21時16分…約12時間ここにいたのか…扉は…問題無く開く)
ソロソロと扉を開けると、不快な臭いが鼻を付いた。
「うっ…くっさぁ…ぐっ…!」
口から胃液が出そうなのを必死に耐えて、辺りを見渡すと、高層ビルは殆どが崩れ落ちて瓦礫の山。人間だったと思われる血と肉。正体不明の敵と戦ったのか、パトカーや戦車にヘリコプターの残骸から煙が出ていた。ヒロシは自分がいた場所を改めて見た。町工場は全壊していたが、避難した場所は縦長の立方体のまま残っていた。
「奇跡だけど…何でだ?」
ヒロシの口から色んな意味の何でだ?が出た。孤独を耐えてきたのに…子供をゴミにしか見てない施設でも腐らずにやってきたのに…遊びや恋愛もせず、ひたすらに自立を目標に生きて来たのに…一流会社に入社してパワハラにも耐えてきたのに…やっと認められて、課長に昇進したのに…これは?
「何でだぁぁぁぁぁッ!?」
ヤケクソに叫んだ。
その時、ヒロシの斜め前方の瓦礫がゴグン!と動いた。
「ヒッ!?」
感情任せに大声を出した事を後悔した。瓦礫の下には街をグチャグチャにした一体が苦しみ踠いている様だった。遠目からでも金色の塗料みたいな体液がピュピュッと漏れて身体が痙攣していた。ヒロシは落ちていたコンクリートが付着した鉄棒を持って近付いた。全身黒で兜にフェイスマスク、映画のポスターで見たヒーロー風のボディスーツを着ていた。右手には癒着したパッと見、銃が付いていた。
(アレがバチャチャチャチャッて音鳴らして街を壊して、人を殺したのか…?)
心に、せめてコイツ位はどうにかしたい、平たく言えば殺したい気持ちが蠢きヒロシは鉄棒を全身黒にブオッ!と振り下ろした。
「ベビャアッ!」
付着していたコンクリート部分が全身黒の顔面に直撃した。金の体液を噴き出し動きを止めた。その際、ヒロシの身体に体液が付着してスーと体内に入る様に消えた。
「ヒッ!?身体に入った!?」
気持ち悪さに耐えかねて地面に四つん這いになって胃液が出た。12時間以上飲み食いしていないのが仇になり、喉が焼けそうだった。
「ハー…ハー…クソが…クソがっ!何なんだよコレはよ!?」
情け無さと虚しさで涙が出た。
「そりゃ貴様が弱いからだよ…」
嫌な幻聴だと思った。
「無視すんな。聞こえてるんだろ?」
目を擦って前を見ると、全身黒の銃と思われる部分が赤く光りながら喋っている様だった。
「お前…グプ人の血液浴びて死ななかったな俺を使い熟せる。一緒に生きないか?罠じゃない。俺は武器だが、歴とした生物なんだよ。お前達みたいなサイズの生き物に寄生しないと死んじまう哀れな者だ」
「…何で言葉が通じる?」
「お前等の返り血を浴びたからだな。質問は後にしてくれ、死んじまう…寄生させてくれ…早く…」
ヒロシは自分をこんな目に会わせた存在の復讐心と、もうどうとでもなれの半々の気持ちで利き腕の左を喋る武器に近付けた。
「移るぞ!」
喋る武器は細い管をヒュバッ!と広げ、シュルシュルと巻き付き、ヒロシの腕と一体化した。
「先ずは栄養補給だメシを探そう」
「あ、ああ。…その、何て呼べばいい?」
「お前が決めてくれヒロシ」
「!…名乗ったか俺?」
「一体化したから大体分かる。良い名前を頼むな」
「……サウスはどうだ?」
「サウスポーの省略か…響きは良いな。俺はサウスだ。よろしくヒロシ…ところでメシには有り付けそうか?」
「コンビニやデパートの地下、飲食店があった場所を回る。破壊されてないといいが…」
「デパ地下に行こうか。身も隠し易い」
「分かった。最寄りの場所に行こう」
ヒロシとサウスの過酷な旅が始まった。
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