第5話 複雑な感情

「おはようサウス。警戒してくれてありがとうな」


「気にするな。身支度して昨日の道の先を探索しようぜ」


 ヒロシは昨日と同じく、消費期限間近のパンと缶コーヒーを流し込み洗顔とトイレを済ませた。


「身体は拭かなくていいのか?」


「毎日じゃなくていいさ。さぁ行こうか」


 デパートの裏口から外に出て、商店街を通過した。


「住宅街だな。アパートが多いな…何処を見てみる?」


「調べていたらキリが無さそうだな。北側に抜ける、最短の道を探そうか」


 サウスの意見にヒロシは頷き、地図を見ながら瓦礫等に邪魔をされない道を探した。


「ヒロシ、飯時だ。何処か建物に入ろう」


「ああ。目の前に丁度良い一軒家がある」


 電信柱が折れて、2階の屋根を破壊、もたれ掛かっている家だった。


「間違い無く避難してそうだな。とは言え慎重にな」


 割れた窓から中に入ると仏壇に消費期限が長い羊羹やペットボトルが複数置かれていて、ヒロシは手を合わせ有り難く頂きリュックの中に収めた。キッチンの磨りガラスから見えたのはプロパンガスのシルエットで、ヒロシは軽くガッツポーズした。


「ガスが使えるな。温かい物が食べれる!貴重な固形燃料を節約出来るな。ラーメンを作るか」


 サウスはヒロシの感情とラーメンの記憶を読み取った。


「成程…塩分も強めで、こんな時なら食べておきたい一品だな」


 ヒロシはこの家にあった鍋を拝借、水筒代わりのペットボトルの水を沸かしてラーメンを作り、鍋のまま勢い良くスババッと食べた。


「ふぅ…落ち着いたよ」


「そりゃ良かった。少し休憩したら…!ヒロシ、落ち着いて身を隠せ。足音が聞こえる」


 ヒロシはサッとリュックを背負い、静かに素早く2階へと上がった。


(何処か身を潜める場所は…ベタだが、大丈夫か…?)


 入った部屋のクローゼットの中にリュックをソッと入れて、ベットの下に潜り込んだ。


「ヒロシ、少しでも危険を感じたら撃つ。左手を入口に向けてくれ」


 ヒロシは黙ってサウスの指示通りにした。下ではドカドカと複数人、家に入って来た気配が嫌でも伝わる。


「4人だな…体重移動から察するに全員、中肉中背の男だ。1歩動く度にヒロシ風に言うとカチャカチャ鳴っている。武装しているな…遠慮は要らないと思うがどうだ?」


「生きてやる…任せるよ、相棒」


「承知した相棒。任された」


 ヒロシが床に耳を当てると話声が聞こえる。


「飯食ってますね…飲み干してるから…分からない…」


「若い…だったら…無いっしょ!…そうぜ!

 …せ!…がせ!」


 パンッ!パンッ!パンッ!と銃撃音が鳴った。


「ヒロシ、撃たれてないか?…お前…怒っているな…」


「アイツ等がデパートに会った女性に乱暴をしようとした、若しくはしたと思われる会話が聞こえて来た。サウス…遠慮は要らないよ容赦無く撃ってくれ」


「ああ。そろそろ2階に来るな…」


 ドカドカと足音が聞こえて、バーンッ!とヒロシとサウスのいる部屋のドアが蹴破られた。


「何だ…どう見たってヤロウの部屋じゃねえか。つまんねー…そっちはどうだ?」


「どう見てもジジイ、ババアが住んでた家だろ?食い物もロクなモンが無い。他の場所に行こうぜ」


「次は何処に行くよ?」


「奥の方はオフィス街で瓦礫の山だ。学校に戻ろうぜ」


「チッ…面白くねえ」


 4人は足を踏み鳴らして階段を降りて行った様だ。


「学校か…避難場所にいた国防軍が暴徒と化したかな…」


「ヒロシ、ヤツ等を倒したい。だろ?」


「気持ちを読まれたな…その通りだ」


「生きて行くのに、あの様な手合いをいちいち相手にするのもどうかと思うが、ヒロシの気持ちを整理する為に手伝うよ」


「ありがとう相棒…」


「いいって事よ、相棒。追うぞ…後ろから奇襲を掛けて一気に倒す。リュックはここに置いていけ」


「ああ。行くか!」


 2人はベットの下から出て外の通りへ。


「相手はちょっと先を横に広がってゆっくりと歩いている。姿を確認次第、俺をヤツ等に向けろ。曲がり角を左、すぐに見える」


「了解…」


 ヒロシは躊躇無く大股で歩き、左に曲がって止まること無くサウスを翳した。


「ん?何だアイツ…バッ!?」


「は?ラッ!?」


「きさっ…まッ!?」


「何だテメェ!…アギャッ!?」


 サウスはヒロシの感情に呼応する様にドドドドンッ!と連発して球体を撃ち出し、3人は上半身を吹き飛ばして1人は両膝から下を吹き飛ばして行動不能にした。


「1人には話を聞きたいと思ってな」


「気を遣わせたな。ありがとう。…さて、アンタ方はこの国の…国防軍だろ?何で強盗じみた真似をしていた?」


 ヒロシはサウスを構えたまま、油断無く質問した。


「な、な、何だ、て、テメェは!?」


「サウス、手を吹き飛ばせ」


「あいよ」


「ま、待て!待てぇ……アギャァッ!?」


 ドンッと撃って、右手を付け根から消滅させた。


「き、貴様はッ!アイツ等の仲間か!?」


「そんな事を質問して無い…何故、強盗まがいの行為をしていた…いや、この質問も違うな

…何故、女性を暴行したりしているんだ?アンタ達は国防軍だよな?」


「あ、あ、あんなヤツ等に敵う訳が無いッ!す、す、好き勝手にあ、あ、暴れて、い、生きた方がら、ら、楽だろうがよ!?」


 ヒロシの何とも言えない感情がより複雑になった。






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