第14話 魔法のお勉強
そして考え抜いた結果。
私は勉強することにした。
だが。
「それでは、今日は水魔法の続きをやっていきましょう」
水魔法のシーランド先生は、きれいな青みがかった髪をひとつにまとめている。
「本にある通り、まずは水をイメージしましょう。イメージも色々あるわよね。小さな水滴、大きな海、まずは表現したい水のイメージを明確に頭に描くこと、それが大事です」
教室の一番後ろ、なるべく目立たないようにノートをとる。
あの薬を飲んでから先生のあたりも強いので、とにかく目立たないようにしているのだが。
「エマさん」
「は、はいっ」
「あなた、まだやってなかったわよね、ちょっとやってごらんなさい」
「は、はあ」
教科書で顔を隠しつつ立ち上がった私に、先生は「本はおろして、さあ」と促した。
「……はい」
と答えて頭の中で水をイメージする。
水、水、水
水道の水、雨、海、井戸。
井戸といえば、井戸から出てくる怖い映画あったよなあ。古い映画だけど、有名でサブスクで見ちゃって、怖くて怖くて。
「キャーっ!」
びっくりして顔をあげると、シーランド先生に人型をした水が、まるで長い髪の女のような水がまとわりついている。
ご令嬢もご子息たちも「うわあ」「きゃーっ!」と大騒ぎ。
「え?! まじ? あれって、さ、さだ……」
先生がぱんっと手を打つとまとわりついていた女がぱっと消えた。
「エマさん!」
こちらに近寄ってくる先生の顔が、それじゃなくとも怒っているのに、怒りで目まで充血してお化けより怖い。
「ご、ごめんなさい!」
そこは先生と呼べる人だからなのか、息を吸ってはいてして息を整える。
ふうううううと息を吐きだすと、こちらを見て、
「エマさん、特別に宿題を出してあげますから、明日までにやってきなさい」
やたら分厚い本を机に置いて教壇に戻った。
ものすごく大きなため息をついた私は、めったに人の来ない中庭の古びたベンチに座っていた。
これで、今日出された特別の宿題は3つ。
本の章を書き写すこと。土人形を作る魔法のおさらい、前回のテストを問題と答えを10回ずつ書くこと。
えーん、現世と同じような宿題は勘弁してほしい。高校時代が懐かしくなってくる。
ともかく、書き写すのと10回書くのは何とかなる、何とかするしかないとして。問題は土人形よ。
土を扱う魔法の授業で、どれだけやってもばらばらの土しか出現しなかったのよねえ。
と嘆いていても仕方ない。
「さあ、やるわよ!」
私は目をつぶると、土を頭に思い浮かべる。
土、土、土、といえば、ベランダでプランターに土を入れて野菜を作ろうとして全然育たないわ、花は枯れるわで、全く才能がないのがよくわかったのよね。あの土って100均で買って、結局普通ごみで捨てれなくて。
バラバラバラバラ。
いきなり目の前に土がぱらぱらと降ってきた。
「ひゃあ」
またやっちゃった。ぱらぱらと降ってきた土。だけど土にしてはさらさらで砂のような作り物みたいでもある。
ああ、とため息をついていると、
「エマ様」
声がかかり、顔を上げると、ベシーがにこにことした笑顔で近づいてきていた。横にはもう一人、ご令嬢がついてきている。
「あ、そのまま、そのあたりで」
「わかりました。大丈夫ですわよ、後ろに座りますね」
そういうと、背の高い植え込みを回って、私が座るベンチの後ろに向かう。
後ろには背中合わせで古いベンチが置いてある。どちらもすっかり古くなって、ペンキが剥げて、それもあって誰も使わなくなってしまったようだ。たぶん、昔は内緒で恋人同士が待ち合わせなんかに使ったんじゃないかなあと想像してる。
そこに座ったベシーは、
「これなら大丈夫ですわ」
「本当ですか? もし気分が悪くなったらすぐに離れてくださいね」
嫌われ薬の効果が顔を見なければ大丈夫なのか、そこのところがよくわからない。遠くにいればだいぶ違うようなのだが。
「宿題でしょう?」
「そうなんです」
同じ授業も多いから知っていて当然だ。
「土の魔法でしょう?」
「はい。なかなかうまくいかなくて」
「土魔法のイメージはできてますか?」
ベシーとは違う声の主がはっきりとした声音で聞いてきた。
ロザリン様だ。ロザリン・ウッドハウス子爵令嬢。彼女も生徒会の一員だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。