第15話 土の魔法

 土のイメージはできてるつもりだが。

「あ、はい、一応」

 と答えた私に、うーんと唸ったロザリンは、うしろにも落ちている土を触る。


「エマ様」

「はい」

「イメージをするときに実際に土を触ってはどうでしょう」

「触る、ですか」

「ええ、手に少しでいいから持って、イメージしてみてください。土人形ですから、遺跡で出てくるようなものとかそういうものをイメージしてみたら」


 なるほど、今、私が出したバラバラの土は、土のような作り物のような変な感じがしていたが、本物を手に持つのはいいかも。それに土偶ね、土偶。

 私はアドバイス通り、地面の土を少しだけ手のひらに持ち、頭の中で土偶を想像した。


 ぽんっ!

 と目の前というか足元に、それはそれは小さな土の人形? 土偶の成れの果てのようなものがちょこんと現れた。


「やった! やりました、ロザリン様!」

「本当に? どれです?」

 ふたりが一斉に振り返る。私はあわてて土偶ちゃんもどきをベンチに置くと、急いでその場から距離を取った。

「あら、かわいい」

「本当に、よかったですわね、エマ様」

 ふたりに褒められ頭をかく私。

「いやあ、もう少し大きい方がいいとは思いますけど」

 なんせ、親指ぐらいしかなく、某ウサギの人形より小さい。

「練習すれば大丈夫ですわよ、ねえ」

 ベシーがロザリンに笑顔を向けている。そういえば、ロザリンは土の魔法では上位成績者だ。


「ロザリン様の教え方がよかったんですわ、ありがとうございます」

 ぺこぺこと頭を下げる私に、ロザリンは不思議そうな顔を向け、ベシーは横で「ねっ」と囁いているのが口の動きでわかった。

「エマ様、お座りになって」

 そう言って手招きしたベシーがロザリンの腕を取ると、反対側に向いているベンチに座りなおした。

 私もそそくさとベンチに戻ると小さな土人形を手に取った。


 魔法の授業は水、木、火、金、土と5項目ある。

 昔と違い、国同士の大きな戦いは格段に少なくなっている。昔は魔法の力も借りての戦いが多かったらしい。

 私たちの国もそうだが、大きな国は平和協定を結んで戦争に終止符を打った。

 というわけで魔法の必要性もなくなってきたが、勉強は必要だということで、学校には授業が組み込まれている。


 魔法の力は遺伝する。特に貴族に多いが、庶民にも力を持つ者はいる。うちのルーカスがいい例だ。ルーカスもカロリーナも魔法全般に強いが、普通は一つ秀でている傾向にあるみたいで、ロザリンは土に秀でているわけだ。

 かくいう私は、どれも平均以下。原作から考えると、癒し魔法なるものが得意なはずなのだが、いまのところそれも小さな擦り傷を治せる程度。それぐらいなら木の魔法に強ければできるらしい。だって木や植物の生長を促す魔法なわけで、てことは皮膚の再生もできるというわけ。

 なんとか、原作では得意と言われていた癒し魔法に特化していきたい。

 と思って魔法の授業に力を入れようと思っているんだけど、なかなかうまくいかない。


「大丈夫ですか?」

「お疲れになったんじゃありません?」

 ふたりが気にしてくれていることがありがたい。私は「いえ、ありがとう。もっと練習します!」と人形を持ち上げた。

 いつかは動く石像ぐらいでかいのを作ってやる。


 野望にメラメラしている私を、ロザリンが、

「以前のエマ様とは別の方みたいですわね」

 思わず振り返りそうになる。ベシーが、

「説明しましたの、ごめんなさい」

 とこちらに向かって言ってくれる。


「いえ、いいんです」

「フレディったらあんなに追いかけていたのに」

 フレディ・ハサウェイ伯爵令息のことだ。

「そうでしたわ! フレディ様とロザリン様は幼馴染みでしたわよね」

 ふたりは気の置けない間柄で、傍から見てもいつかは一緒になるんだろうと思うような仲だった。それをぶち壊したのは誰あろう、エマなんだよなあ。

 でも、嫌われ薬で私は心底嫌われてるし、元に戻ったのかも。

 ちらりと後ろを見ると、ロザリンは小さくうつむいている。


「幼馴染みですけど。あの人は、かわいらしい人がお好きだから」

 なんてことを言う。ロザリンは、焦げ茶色の髪にちょっとだけつり目気味。でもきりっとした顔はとてもきれいだし、肌の色は透けるように白い。かわいいというより大人っぽい美人系だ。

「そんなこと言われたんですか!?」

「いえ、そういうわけではないけど、わかるから」


 わかるからって。

 完全に振り返って見つめる私をベシーが、

「お二人、お似合いだと思うんですけど」

「そんなことないです。あの人は私のことなんてなんとも」

 首を横に振るロザリンを、ベシーも困った表情で見つめている。

 あの野郎、こんなにかわいい人が側にいるのに、どこ見てんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る