第二幕 成人前夜の思量

その後は案の定、この時期には珍しく大雨が降りました。


明日に備えて今日は早く眠ることにしましたが緊張のためなかなか眠ることが出来ませんでした。


この雨が明日まで続くかもしれないと考えると、とても憂鬱な気持ちになりましたが、それはそれで忘れられない誕生日になると前向きに考え、許嫁の王子のことを考えることにしました。


彼は隣国の王家シモンズ家の三男でした。


彼との結婚は私が物心ついた時には決まっており、一年に一度はお互いの王室に相手を招待するパーティーが催されていたため、お互いのことはよく知っていました。


彼は名前はディーツといい、優しい瞳をした端正な顔立ちの青年でした。


とても控えめな性格でしたが、皆に分け隔て無く優しい彼は、私の心を強く惹きつけるのに時間はかかりませんでした。


彼は私より二つ年上で私が十七歳になったら直ぐに結婚することが決まっていました。


何度も夢に見てきた彼との生活。


彼のことを考えただけで私の心音は高まり、幸せな気持ちになるのでした。


しかし、彼との結婚は爺や以外の皆とは頻繁に会えなくなってしまうことも意味していました。


それは私にとってとても悲しい事でしたが、新しい家族も増えるのです。


シモンズ家の人々と上手くやっていけるかの不安より期待の方が上回っていました。


そして爺やはついてきてくれることは決まっていたので私は何も怖くありませんでした。


しかし、まずは結婚式の前に明日の誕生日の準備をしなければなりません。


私の国では十七歳が成人年齢と定められており、私は明日一人前の大人の姫として認められる、国を挙げてのお祝いの式が催されることが決まっていました。


国民の方々に一人前の姫として認めてもらい、安心感を与えなければなりません。


緊張こそしていましたが、きっと皆は私の成人を大いに祝ってくれると信じていました。


私は国民の皆も大好きでした。


純粋で勤勉な心を持った人々でこの国を皆愛している人が大半を占めていたからです。


でもそんな私にも少し苦手な人々がいました。


それはこの国を守ってくれている兵隊の人々です。


この国は税収の大半を福祉に使ってい居たため軍事予算があまりありませんでした。


そのため、国防の約七割を少ないお金で国内の民間軍事会社に委託しているという現実がありました。


彼等は粗暴な人々が多く、町で暴力事件を起こすことが度々ありました。


そうして罪を犯した人々は裁判にかけられ、重い罪を起こした人は恐ろしい魔女が住むという禁足の魔女の森に送られることになっていました。


魔女の森に入って再び国に戻ってきた人はいません。


この魔女については国のタブーとされており、そのことを口に出すことを皆嫌がったので私には、彼女の詳細は一切知らされることはありませんでした。


なぜ彼女、はたまた彼女らが差別を受けているのか私はとても気になりました。


いつか彼女たちとも和平を結び皆仲良く暮らせるようになったらいいなと心のどこかで思っていました。


しかし、現実は残酷であることも、既に知っていました。


私一人の力ではどうすることもできないことは明らかなのです。


私は不思議と魔女のことは怖いと感じたことはありませんでした。


私は心は寧ろ彼女らに対する興味でいっぱいだったのです。


それともう一つ苦手な人々がいました。


国内の貴族のゲルアノート一家の人々です。


彼等はこの国一番の資産を持つ貴族でしたが、私たちカウノディール家を敵視していました。


その資産形成の方法は黒い噂が尽きず、お父様も彼等の行動には目を光らせていました。


そして国から重税を課されている彼らは身もふたもない王家の悪い噂を吹きまわっているという話も聞いています。


しかし、私はそのことについてそれほど心配していませんでした。


国民のことを信頼していたので彼らの悪質なデマに流されるようなことはないと信じていました。


そのような色々なことを考えているうちに少しずつ眠気に誘われていきました。


明日はきっと忘れられない一日になる。


そう確信していました。


様々な思いを巡らしているうちに気づけば激しい雨音を子守歌に私は眠りに落ちていました。

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踏みにじられた花々 桐山死貴 @SHIKI_KIRIYAMA

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