第5話「微笑みの裏に」
エリザ・ローズウッドは、貴族としての生活に少しずつ慣れてきた。しかし、エマが学校に行っている間、一人で勉強していると、今まで一緒に過ごしていた時間を思い返し、少し寂しさを感じていた。そんなある日、執事から驚くべき提案を受けた。
「今度の土曜日に、お茶会がございます。同年代の子が集まる場です。大人の女性としてご参加なさいますよね。」大人という言葉が妙に引っかかる。しかし、エマ以外の友人はいない。新しい人間関係を築く機会が訪れたのかもしれないと思い、彼女は心を決めた。
「お茶会に参加できるの?私も行けるの?」とエマが尋ねると、エリザは嬉しそうに頷いた。「もちろん。貴族の社交の場としては大切なイベントだから、ぜひ参加しなきゃ。同年代だから、新しい友達ができるかもしれないよ!」エリザの目は期待に満ちていた。
土曜日、会場はヴィンセント伯爵が仲良くしているというアナベル家の一室で行われることになった。豪華絢爛な装飾が施された空間には、金色に輝くシャンデリアから柔らかな光が洩れ、壁には優雅な絵画が飾られている。大きな窓からは温かな陽射しが差し込み、外の庭に咲く色とりどりの花々が見える。その景色にエリザとエマは思わず息を呑んだ。
「わぁ…素敵なところね!」エマが目を輝かせて呟く。彼女は大きな窓の近くに立ち、外の景色に夢中になっていた。「本当に美しいわ。」エリザも微笑みながら周囲を見渡した。この空間にいるだけで、彼女たちはまるで別世界に迷い込んだかのような感覚を覚えていた。
エリザとエマは華やかなドレスに身を包み、お茶会の会場へと向かった。会場には同じ年代の貴族の子供たちが集まり、華やかな笑い声やおしゃべりが賑やかに響いていた。エリザは少し緊張していたが、エマと一緒なら安心だと思った。今までの自分なら、お茶会どころか飲み会もパスしていたが、少しずつ人と関わることに慣れていこうと決心した。
「私たちも自己紹介してみよう!」とエマが言ったが、会場の雰囲気はどこか硬い。しばらくすると、美しい少女アナベルがグループに加わってきた。彼女は周囲の注目を集め、まるで王女のように振る舞っていた。
「あなたがエリザ・ローズウッド?私の父はあなたのお父様と親しい友人なのよ。」アナベルは自信に満ちた笑顔を見せたが、その背後には明らかな優越感が隠れていた。自分の親を鼻にかけて、まだまだ子供ね。16歳だから当たり前か。
「そうなんですね。お会いできて嬉しいです。」エリザは緊張しながらも、明るく答えた。「で、隣のお嬢さんは誰かしら?ローズウッド家に姉妹なんていたかしら?」アナベルが尋ねる。
「彼女は私の友人で…」
「メイドをしているエマと申します。」エマは彼女なりに丁寧に挨拶した。
周りがざわつく。「お茶会の会場にメイド?随分内気で中々社交界に現れないと思ったら、お茶会会場にまでメイドを連れてこないとお話もまともにできないなんて。」
会場からくすくすと笑い声が聞こえ、エマは涙ぐむ。「エマは外で待っています。」そう言ってその場を後にしようとしたが、エリザは思わず叫んだ。
「エマはここにいて、私の友達として同席したんだから。」
「エリザ様…」
しかし、アナベルは次第にエリザを侮辱するような発言を続けた。その声は冷たく、まるで彼女の存在を否定するかのようだった。エマはその様子を見て、恥ずかしそうに顔を赤くし、少し後ろに下がった。エリザは不快感を覚え、心の中で反発した。「こんな稚拙な社交界に失望したわ。まるでおままごとのよう…。」
その瞬間、アナベルの友人たちがエリザの背後に寄ってきて、彼女を取り囲んだ。「ねえ、そんなに言われて悔しくないの?」と皮肉を交えながら言った。その言葉にエリザは冷静に彼女たちを見つめ返し、内心の動揺を隠すように強い口調で言った。「私は身分の差など関係なく、エマの人柄に引かれて彼女をこの場に連れてきたの。父同士が友人だからと言って、私たちが仲良くなるきっかけになるとは思わない。」
あぁ、これじゃ今までの私と変わらないじゃない。どうしていつもこうなのかしら…。不安が胸を締めつける。そんな時、アナベルが突然エリザの髪を引っ張った。驚いたエリザは、思わず「やめて!」と叫んだ。その声は会場の笑い声を打ち消すほどの強さがあった。エマはすぐに駆け寄り、「やめてください!エリザ様に何をするんですか!」と泣きながら叫んだ。
すると、会場の扉が開かれ、一人の貴族の青年が微笑みながら入ってきた。彼は場の雰囲気を和らげようとするかのように言った。「女性たちの楽しいお茶会だと聞いて来たが、まさか喧嘩が見れるとは思わなかった。どっちに賭けようか。」その言葉に場は一瞬の沈黙に包まれた。
その瞬間、彼の友人の一人が彼を窘めた。「やめろ、アレクシス、下品だろ。」友人の言葉にアレクシスと呼ばれた男は苦笑いを浮かべたが、その表情は少しぎこちなく、周囲の緊張感が彼の心に影を落としているようだった。エリザはその言葉の裏にある軽やかさとは裏腹に、彼の目に一瞬冷たい光が宿ったのを見逃さなかった。彼は美しい青年であったが、内面に何か問題が潜んでいると感じた。
アナベルは周りの取り巻きに抑えられ、エリザから引き離された。アレクシスはエリザに向かって、「気を取り直し手続きをしようじゃないか?とはいえ、アナベルはこんな様子でお茶会を続けられるか?」と言った。彼の言葉に、アナベルは不満そうな顔をしながらも、「大丈夫です、今から支度し直してくるので、皆様にはお茶を楽しんでください」と言いつつ、エリザと目が合った瞬間、そっぽを向いた。
その時、アナベルの冷たい視線はまるで「あなた、アレクシス様の前で恥をかかせましたわね」と訴えているかのようだった。彼女の周囲には取り巻きが控えているが、エリザはその視線を無視することにした。
「エリザ様、大丈夫ですか?」とエマが心配そうに問いかける。エリザは冷静さを取り戻し、「うん、大丈夫」と手を振りほどいた。彼女の心の中には不安が渦巻いていたが、今はそれを表に出すわけにはいかない。
「なぜ私のこと知ってるの?」とエリザは警戒心を抱きながら、思わずキョトンとしてしまった。アレクシスは微笑みを浮かべ、その反応を楽しむかのように見えた。彼の明るい笑顔は、どこか軽薄さすら感じさせる。
「それは、ローズウッド家のご令嬢が参加するというだけで、みんなどんな子が来るのか楽しみにしていたからさ。まさかこんな勝ち気で弁が立つ16歳の少女とは思えないね。こんな生意気な子、家から出さないのは正解だ。」彼の言葉には冗談めかした調子があったが、エリザの心には違和感が残った。彼女は褒められているのか貶されているのか分からず、戸惑いが募る。「貶されてるに決まってる」と心の中で反論しながらも、薄い笑顔を浮かべてみせた。
「そうですわね、私のような生意気な小娘にはこのような社交場は早すぎたようです。」と、彼に冷たくあしらう。エリザは心の中でふてくされていた。**第二の人生に向いてない私は、結局変われないんだ。おとなしく勉強して過ごせばいいんでしょ!**という気持ちが、彼女の胸を重くした。周囲の人々が自分を見ていることを感じながら、ますます孤独を深める。
その時、アレクシスは軽やかな笑顔を浮かべ、「ああ、自己紹介を忘れていたね。俺はアレクシス・フォン・セレスティア、君、俺と婚約しない?」と明るく自己紹介のついでにノリで婚約を申し込んできた。その言葉は冗談のように聞こえたが、彼の表情には本気が宿っていた。
エリザは驚き、思わず「は?」と声を上げた。その瞬間、周囲の空気が凍りつくように静まり、エマの驚きの声が響き渡る。「ええええええええええ、何ですって?」彼女の声は、まるでその場の緊張を一層引き立てるかのようだった。
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