第5話 人生とは選択の連続である

 『迷ったら左の法則ね』


 彼女の言葉とともに俺たちは左手に続く階段を昇る。この選択は果たして正しかったのだろうか。しかし悩む暇もなく床を這いつくばるゾンビたちが勢いよく飛び掛かってくる。


 「うっ……喰らった!」


 彼女がそのうちの一体から攻撃を受ける。しかしここで止まるわけにはいかない。俺たちは攻撃を食らいながらもこの研究所のような建物から脱出すべく、どんどんと奥へと進んでいく。

 

 「体力大丈夫か?」

 彼女――を操作している椚田くぬぎだ達也が俺に問いかけてくる。

 「なんとか!」

 俺が答えると、アニメーションとともにここのボスが現れた。


 ――そう、俺たちは今ゲーセンで「ホーム・オブ・ザ・デッド」というアーケードゲームに勤しんでいる。

 一言でいうとゾンビを撃ちまくってゴールを目指すゲームだ。


 「デカくね!?」

 後ろでプレイを見ている矢川がボスを見て呟く。

 「でもこれ逃げながら撃つだけっしょ?」

 達也が少し余裕そうにそう言い放った瞬間、壁の脇から突如攻撃を喰らう。

 「やべっ!」

 「よし!」

 何とか敵を振りほどき攻撃を続け、俺たちは無事に第一ステージをクリアした。


 【ランク:C】


 俺のプレイヤー側に今回の戦績がそう表示される。


 「よーし! 俺はBー!」

 達也のほうが俺よりもランクが高かった。何回か俺が助けてるのになんでだよっ!


 「ウラは多分、敵は倒してるけど無駄弾が多いんだと思う。逆に達也は攻撃喰らいすぎ」

 客観的に見ていた矢川が総評する。


 。それがこのメンバーの中での俺のあだ名だった。


 羽村たちが俺を呼ぶときはだが、椚田、もとい達也曰く「長くね?」ということでウラと呼ばれ始めた。

 ちなみに椚田のことは下の名前で達也と呼んでいるが、矢川のことは何故かそのまま苗字呼びで定着した。


 俺たちの通う明神みょうじん高校では月に二回、午前だけの土曜授業日が設定されており、今日は五月の一回目だ。本来なら午後は部活動に充てられるが、今日は学校側の都合でお昼で完全下校となった。

 ちなみに達也はバスケ部、矢川は野球部、そして俺はバドミントン部に入部した。普段部活のオフが合うことはあまりなく、せっかくだからと今日は一緒に遊ぶことにしたのだ。

 

 俺たちは再びホーム・オブ・ザ・デッドのステージを進めて行く。最初は敵も弱く順調だったが徐々にHPゲージの減りが早くなり、ついに最初の命が尽きる。そして最終的に400円を使い切ったところでコンティニューを放棄した。やはり高校生の俺たちにとってはゾンビよりも金欠こそが敵だ。

 それからレースゲームで峠を駆け抜け、ギターとドラムのリズムゲームでセッションに興じて、俺たちはゲーセンを後にした。


*


 「この後どこ行く? まだ三時前だから飯までは全然時間あるな」


 達也の問いかけに俺たちは次の目的地を考え始める。

 今日は夕飯も一緒に食べる約束をしていたので、夜までどこかで時間を潰す必要があった。


 「そうだな……あ、カラオケは? ちょうどこの上にあるし」


 ビルを出たところにある看板を見つけた俺はそう提案してみる。実はカラオケは小六の時に初めて行って以来、友達同士でたまに行っている。


 「お、いいんじゃね? 賛成!」

 「じゃカラオケ行くか!」

 「オッケー!」


 矢川も達也も乗り気でよかった!

 こうして俺たちはゲーセンの入口横にあるエレベーターで八階へと上がり、カラオケルーム「歌プラザ」へと入った。



 「あれ、北浦くん!?」


 受付ロビーに着くとそこにはなんと天ヶ瀬あまがせさん、柚木ゆぎさん、そして何故か和田さんも一緒にいた。


 「え、天ヶ瀬さん!? カラオケ?」

 俺は驚きのあまり、声が裏返りそうになっていた。


 「うん! 今日部活なかったし、千夏ちなつとご飯食べてたら歌いたいねってなって!」

 ねー? と柚木さんの方を向きながら天ヶ瀬さんが答える。


 「へぇ、そうだったんだね」

 俺は頷きながらも自然と和田さんの方へと視線が向く。この二人との接点があまり思いつかない。


 「あ、和田さんは私たちが受付の順番待ってたらちょうど部屋から出てきたんだよ! フルートの練習してたんだって、すごいよね!」


 フルート? そっか、そういえば和田さんは吹奏楽部だっけか。


 「うん。今日は部活無かったから自主練しようと思って。カラオケだと音も気にならないし、飽きたら歌えるしね」

 和田さんが少し淡々と、でもどこか楽しげにそう教えてくれる。


 「こいつ歌めっちゃ上手いよ!」

 矢川がすかさず乗ってくる。

 何で矢川が知ってるのかとか、和田さんはどんな曲の歌うのとかとか、わちゃわちゃし始めたところで、受付の店員さんから呼ばれた。


 「すみません、人数を六人に変更ってできますか?」

 天ヶ瀬さんが店員に尋ねると、「少し狭くてもよろしければ」ということでOKが出た。


 「だって! ね、よかったらみんなで一緒に歌おうよっ!」


 天ヶ瀬さんの満面の笑みに拒否権を行使する人は誰もいなかった。


 さぁ、いざカラオケルームへ!

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