第9話 ヴァンパイアは化け物か
僕と桜子は植物園を散策して帰りは桜子の病院まで送った。
そこはかなり大きな病院だ。
車を降りて桜子の病院の入り口まで送ろうとして僕と桜子は病院の玄関を目指して歩いていた。
すると病院の玄関から一人の女性が出て来る。
「あ、お姉ちゃん!」
桜子が声を上げてその女性に手を振る。
その女性は僕たちに近付いて来た。
この人が桜子のお姉さんか。
雰囲気は違うけど顔立ちは桜子に似ているな。
初めて会った桜子の姉を見てそんな感想を持つ。
「桜子。また、出かけてたのね。そちらの方はどなた?」
桜子のお姉さんは訝し気に僕を見た。
「この方が昨日話したサイファよ。サイファ、こちらは私の姉の
「初めまして。サイファ・アントンと申します」
「桜子の姉の陽子です。貴方のことは昨日桜子から聞いたわ。妹が我儘を言ったようでごめんなさい」
「いえ、我儘なんて。僕は桜子さんの力に少しでもなってあげたいんです」
僕はそう言いながらも陽子が左手首につけている時計型の機械に視線が向く。
あれはヴァンパイアを見分ける機械だ。
ジョセフにファミリーキルは機械に反応しないと聞いているけどやはり緊張する。
正体がバレたらヴァンパイアハンターの陽子と戦わなければならないかもしれない。
ヴァンパイアハンターに自分が負けるとは思わないが相手は桜子の姉だ。
むやみに戦うべきじゃない。
「妹の面倒を見てくれてありがとう。サイファさん」
陽子は機械が反応しないせいか僕のことを人間だと思っているみたいだ。
そのことにとりあえず僕は安堵する。
「さあ、桜子。早く病室に戻りましょう。サイファさんも良かったら来ませんか?」
「あ、はい」
僕たちは病院の桜子の病室に向かう。
桜子の病室は個室だった。トイレも付いてるタイプの部屋だ。
「お姉ちゃん。今日はサイファと植物園に行ったの。とても楽しかったわ」
「そう、良かったわね」
陽子は桜子を目を細めて見つめ微笑んでいる。
本当に妹のことを愛してる感情が伝わってくるようだ。
「でもあなたは病人なんだから無理はダメよ。今日はゆっくり休みなさい」
「はい。お姉ちゃん」
桜子も素直に陽子の言うことを聞いている。
姉妹の仲はとても良さそうだ。
「じゃあ、桜子。僕はそろそろ帰るから」
本当は桜子と一秒でも長く一緒にいたいけど陽子が言ったように桜子に無理はさせられない。
「うん。今日はありがとう」
「また体調のいい時に出かけよう」
「うん。分かった」
僕は桜子の病室を出てエレベーターに向かった。
すると陽子が僕の後を追って来る。
「あの、サイファさん。少しお時間いいかしら?」
「え? あ、はい。少しなら」
どうしたのだろう。まさか僕の正体に気付いたのか?
僕は少し緊張しながら来客用の椅子が置いてあるスペースに陽子と一緒に行った。
陽子が椅子に座ったので僕も隣の椅子に座る。
「何かお話ですか?」
さりげなく僕は訊いてみた。
だが、陽子から突然攻撃を仕掛けられてもいいように逃げられる体勢だけは整えておく。
こんな病院内でヴァンパイア狩りを始めるとは思えないけど念のためだ。
「実は……桜子から聞いていると思うけど、あの子は以前ヴァンパイアに襲われたの」
「ええ。知っています」
「私はあの子の病はヴァンパイアに関係しているモノじゃないかと思うんだけどそれを裏付ける証拠はまだ無いし、あったとしてもあの子の病を治せるか分からない」
陽子は溜息交じりに苦し気な表情になる。
確かに陽子の考えは当たっている。
桜子の病にヴァンパイアが関係しているのは事実だ。
桜子を助けるにはヴァンパイアにするしかないとファデスは言っていた。
でもそれを仮に陽子に告げたところで桜子をヴァンパイアにするのに陽子が賛成するわけがない。
彼女はヴァンパイアハンターなのだから。
「サイファさんはヴァンパイアのことを知っている?」
「いえ、あまり詳しくは………」
自分の心を悟られないように僕は気を付けて言葉を選ぶ。
「ヴァンパイアは人間の敵よ。あんな化け物なんてこの世から消えてしまえばいいのよ!」
陽子の顔には心底ヴァンパイアへの憎しみが宿っていた。
その言葉を聞いて僕は心のどこかにチクリと針が刺さった感じがする。
化け物………か。
ヴァンパイアは確かに人間には脅威な存在だし基本的には人間を襲う化け物と認識されても仕方ない。
でも僕もファデスもそれは食事をするために必要だから獲物を襲うだけ。
人間が家畜を殺して食べるのと変わらないし僕もファデスも相手が死ぬまで血を飲むことはほとんどない。
そう説明したところでヴァンパイアハンターの陽子が納得するわけないことは分かっているが。
「ごめんなさいね。あなたに愚痴を言っても仕方ないのに」
「いいえ。気にしません」
僕はニコリと笑みを浮かべてその場を取り繕う。
「それでね。サイファさんに話しておきたかったのはサイファさんにとても感謝しているってことなの」
「感謝ですか?」
「ええ。桜子が余命一年なのは変わらないけどあの子が昨日素敵な男性と出逢ったってそれはそれはとても喜んでいたのよ」
「そうですか」
桜子の笑顔が僕の脳裏に浮かぶ。
僕と出逢えて桜子が喜んでくれたのならとても嬉しいことだ。
「だからこれからもあの子のことをできるだけ支えてあげて欲しいの。よろしくお願いします」
陽子は僕に頭を下げた。
「いえ。僕は自分の意思で桜子さんの側にいるので陽子さんが頭を下げることはありません」
「サイファさん」
「大丈夫です。僕が桜子さんと一緒にいたいんです」
「ありがとうございます。サイファさん」
陽子との話を終えて僕は病院を出る。
人間とヴァンパイアって恋しちゃダメなのかな?
ヴァンパイアは人間から見たら本当に化け物でしかないのだろうか。
でもファミリーキルって人間とヴァンパイアの間の子供なんだよね。
記憶のない自分の両親のことをふと思った。
両親はなぜ僕という子供を産むことになったんだろう。
今まで自分の両親のことを深く考えたことはなかった。
ファデスに訊いてみようかな。少なくとも母親が一緒なのだから母親のことはファデスも知ってるはずだ。
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