第37話 懲らしめるための作戦会議③

「水城君、何か思いついたの?」


「あぁ。ただこの作戦も上手くいくかは分からないし、リスクもある。ただの一つの案として聞いてくれ」


 不安そうな進藤さん達の表情を見ながら、俺は考えた作戦について話し出す。

 俺が話す事で皆が安心してくれるかは分からないが、何か解決の糸口にはなって欲しいと思う。何でも言ってみる事が大切だろうとは思うしな。


「まずは音野先輩の事を色々と調べようと思う。これからは大型連休もあるし、この期間で決着をつけたい。玉島先輩、音野先輩は一週間ぐらいこっちに滞在するんですよね?」

「うん。一週間は帰省を楽しむって言ってたかな。大学生だからある程度自由だし、大学の友達も呼んで遊ぶ、みたいな事も言ってたかも」

「なるほど。何とか二日ぐらいはこっちの問題で確保したいですね。まぁそこら辺は音野先輩の様子を見ながら、考えていければいいかなと思います」

「それは分かったけど……たっくんはどうやって調べるつもりなの?」

「進藤さんの考えた案でいきます。玉島先輩は前の生徒会や音野先輩の同級生、進藤さんはSNSから音野先輩と仲がとても良い人、音野先輩の事を詳しく知っている人を狙ってください。それで良さそうな人がいれば、グループにも共有する流れで」


 音野先輩を調べる方法については、進藤さんの案を採用した。


 色々な観点から音野先輩と関係がある人を調べ、参考になりそうな人がいればこちらのグループに引き入れたい。


 しかしこの案には……いくつかリスクもある。



「私の考えてくれた案を採用してくれるのは嬉しいけど、上手くいかない可能性の方が高いと思うよ。情報が手に入らない、良い人がいない、音野先輩にバレるリスクもある……」

「進藤さんが言うようなリスクを俺も考えてたよ。だからそのリスクを最大限減らせるよう、俺も色々と考えた」

「というと?」

「まずは情報が手に入らない事について。これはまぁ……調べる人を増やすのが一番だと思う。さっき連絡したんだけど、俺の友達の琉生や誠一たちもできる限りで協力してくれるらしい。進藤さんや玉島先輩を中心として、色々と調べていってほしいかな」

「ふむふむ。でもさ、それで上手くいくかな? それに水城君や岩田先輩は?」

「その懸念点がやっぱり思い浮かぶよね。それもちゃんと考えてるよ」


 協力してくれる人は多い方がいい。琉生たちが協力してくれるのはこちらとしても非常にありがたいし、大きな力になる。本当に……頼りになる奴らだ。

 

 そして俺は進藤さんの言葉を受け、懸念点について更に引き続き話していく。


「岩田先輩に一つお願いがあります。俺と一緒に、音野先輩と会っていただけませんか?」


「それはいいが……どういう狙いがあるんだ?」


「音野先輩と会って情報を直接手に入れる事、そしてこれはできればの話になりますが……尾行もしたいと思っています。音野先輩は俺や進藤さんの存在を知らない。それも活かす事ができればな、と」


「なるほど。でも音野先輩を呼びだすとして、どうやって呼びだすんだ?」


「何個か考えはありますが……最悪の話、玉島先輩の話を出せば必ず食いついてくるとは思っています。直接話す事で何か聞ければベストですし、雰囲気からも何か読み取れるかもしれない。それに尾行も大成功する可能性もありますからね。リスクを最大限減らすために二人にしましたし、尾行についても色々と考えています」


「確かにこれなら何かしら情報も手に入りそうだし、リスクも少なそうではるな。俺で良ければ是非とも協力させてくれ」


 これが俺の考えたもう一つの調査方法。音野先輩を調べたいなら、音野先輩に直接会ってしまえばいい。


 音野先輩の出方次第では色々な情報も聞けると思うし、尾行も可能性は無限大。この作戦がハマれば、一気に音野先輩を瀕死状態まで持っていけると思う。


 一応の話、単に浮気をした、みたいな話だったとしても、直接話せば解決できるしな。


「音野先輩にバレるリスクについては、水城君はどう考えてるの?」

「バレない事が理想ではあるけど……そのリスクもちゃんと考えないといけないよな」


 進藤さんが『バレるリスク』について俺に問いかけてくる。


 音野先輩に俺たちが動いている事がバレれば、誰かに危害が及ぶ可能性がある。逃げられてしまうならまだいいが、危害が及ぶことだけは絶対に避けなければならない。



「俺や進藤さんといった二年生の存在は気づいていないはずだから、そこを最大限に活かそう。それに変に勘付かれたとしても、基本は逃げる選択肢を取るはずだと思う。露骨に攻撃したら、逆に音野先輩も追い詰められるわけだし」


「それもそっか。ここで複数人で行動する事も効いてくるって事ね。それと水城君、ネットでの調査組は主にどうしたらいい?」


 「音野先輩が異変を察知したとしても違和感程度だと思うから、慎重に行動していけば基本は大丈夫だと思うよ。あと連休って事も活かして、玉島先輩は家から極力出ないようにお願いします。外出する時は絶対に一人で行動しないように」


「分かったよたっくん! 危険……だからだよね?」


「そうですね。玉島先輩は音野先輩と特に関係が深いわけですし、音野先輩とバッタリ会ってしまうと危険ですから。連絡が来ても基本無視でお願いします」


 音野先輩と唯一関係が深い玉島先輩だけをケアし、他の人は慎重に行動する事でリスクを減らす。これが俺の考えた最善策だ。

 

 まぁこういう時、複数人での行動が基本にはなってくるよな。複数人で行動すれば、臨機応変に対応する事ができるだろうし。



「調べる方法については分かったけどさ……たっくんはそれからどうするつもりなの?」

「玉島先輩が音野先輩と話せるよう、皆で集まる機会を作ろうと思っています。前生徒会の集まりとか、生徒会を気になっている人の集まりとか……」


 俺が考えているのは、何かの集まりで音野先輩を呼び出した後、玉島先輩が遅れてやってきて……逃げ出せない状況を作る。

 そして逃げ出せない状況になったところで、玉島先輩に気持ちをぶつけてもらって終了、といった流れだ。


「いいんじゃないかな? その水城君の考え、私も最大限協力するよ」

「進藤さんも本当にありがとう」

「いいよいいよ。私も水城君や玉島先輩に助けてもらったわけだし、を私も返さないとね?」

「……そっか」

「集まる作戦使うならさ、私の家使っていいよ。結構広いと思うし」

「本当に大丈夫なのか? 無理はしなくていいんだぞ?」

「全然大丈夫。何ならお父さんにも協力してもらってもいいしね。まさかここで役に立つとは思わなかったけど」



 進藤さんの力を借りる……か。


 確かに進藤さんの力を借りる事ができたなら、作戦の幅も色々と広がると思う。音野先輩をこっちのフィールドに持っていけるのも大きい。


「使えるものは全て使う、でしょ。私の中のヒーローさんっ?」

「……だな。ここはお言葉に甘える事にするよ」

「いいよ。それにそもそもの話、私たちは協力関係だしね」

「おぉ。頼れる仲間すぎる」

「でしょ」




 

 音野先輩を懲らしめるための計画は着々と進んでいく——

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