第36話 懲らしめるための作戦会議②

「玉島先輩が納得できる形でどうしたらいいか、色々と考えていきましょう」


 音野先輩を懲らしめるための作戦会議は続いていた。


 音野先輩の基本情報などをまとめて、俺たちはいよいよ本題へ。どうしたら音野先輩を懲らしめられるのかについて、だ。


 上手くいく保証もないし、慎重かつ相手よりも上の作戦を考えないといけないだろう。進藤さんが言っていたように、今回は厄介な相手の可能性もある。


 進藤さんの件は色々とラッキーな事もあって上手くいったが、今回は明確に相手を超えなければならない。

 能力があって優秀な音野先輩を、俺たちは超えなければならないのだ。


「進藤さんの言っていた事を加味すると、音野先輩に勝つのは相当難しいと思う。逃げ道も用意しているだろうし、強引に力で抑えてくるパターンもあるからなぁ」

「まぁ……私の言っていた事も確定ではないけどね? ただやっぱり感じるんだよね。色々な事を考えていそうというか、別に目的があるというか」

「でも確かに、音野先輩の態度は今思うと少し気になる。本命、とかだったら、浮気したとしてももう少し焦るもんな」


 本命であろうがなかろうが、悪事がバレると少しは焦るものだ。


 俺は改めて、音野先輩と玉島先輩の様子を見ていた時の事を思い出す。確かに焦ってはいたが、何か演技っぽかったというか……あまり気にしていないような様子だったような気がしてしまう。


 それに、音野先輩がどこまで考えているかも非常に重要だ。


 快楽に負けてただ単に浮気をした、なら話は早い。音野先輩と話をした後に関係を切れば、それで終わるからだ。


 ただ音野先輩には、何か別の考えがある可能性もある。その場合は非常に厄介だ。


 玉島先輩に危害が及ぶ可能性もあるし、音野先輩に逃げられる可能性もある。音野先輩が想像よりも凶悪な敵であれば、難しい戦いになるだろうなとは思う。


「一つ質問なんですが、音野先輩と特に仲が良い人とかいました? 音野先輩が大学生になった今でも、関係が続いている人とかいれば……」

「うーん。まぁ前の生徒会メンバーとかは仲良かったけど……どうなんだろ。岩田君はどう思う?」

「俺も音野先輩とはある程度の関係があるが、特段仲良しって感じでもないな。学校で特に仲が良さそうな人はいた気もするが、詳しくは知らない。役に立てなくてすまん」


 玉島先輩たちと音野先輩にも学年の差があるわけだし……この点から攻めるのは難しいか。

 音野先輩と特に仲が良く、こちら側についてくれそうな人がいると心強いんだけどなぁ。


「水城君さ、SNSとか使ったら探し出せないかな?」

「進藤さん、それはどういう事?」

「音野先輩のSNSのアカウントから、仲が良さそうな人を見つけて繋がる事ができないのかなって。それに前の生徒会メンバーとは少なからずも親交があるわけだし、そこから数珠繋ぎとかでもいけそうじゃない?」

「……なるほど。確かに今は簡単に繋がれる時代だし、色々と調べてみるのはありだな」


 ネットの出会いからリアルの出会い、みたいな事も今の時代では普通になった。

 簡単に多くの人と繋がれるようになった今の時代、ネットを最大限利用するのは確かにありかもしれない。



「情報が色々とまた必要だな。音野先輩についてはある程度調べておきたい」


 俺は改めて、皆に音野先輩についての情報が必要だと思う事を話す。


 やっぱり、リスクは出来るだけ減らしておきたい。俺が心配症だからこう思ってしまうのかもしれないが……嫌な予感がどうしても頭をよぎってしまう。


 本当の音野先輩はどういった人なのか。そして何を考えているのか。この二点はハッキリとさせておきたい。

 俺は色々な事を頭に入れながら、何が最善策になるかを慎重に考えていく。


「皆ごめんね。こんなダメな私のせいで……」


「涼香のせいじゃないだろう」

「そうですよ。先輩は何も悪くないです」


 岩田先輩と進藤さんが、申し訳なさそうにしている玉島先輩をフォローする。


 玉島先輩については何も悪くない、と俺も思う。俺から言ってみれば、玉島先輩は前の進藤さんと同じように……人生の難しさに苦しんでいるだけ。


 ゲームとかでも難しいところ、よくあるでしょ? 


 ただゲームと違うのは、ルートが無限にある事と攻略の手がかりがないこと。

 何が正解になるかも分からないし、攻略本や解説サイトみたいなものも人生にはない。それに人がいればいるほど、ルートは無限に増えていく。


 でも人生とゲームって物凄く似ているというか……自分というキャラを動かしている感じはするよね。


 それと人生には失敗も多い。どれを失敗とするかは人それぞれだが……後悔している事が、誰しも一つはあるのではなかろうか。


 ゲームに置き換えると、その失敗は敵からの攻撃のようなもの。失敗の大きさで自分の体力が削られていき、ゼロになるとゲームオーバーになる。


 どうにかなるとか努力は報われるとか……そういった言葉もあるが、そういった言葉は全て『傲慢』だと俺は思う。


 結局、自分の事は自分にしか理解できない。そういった優しい言葉は安心材料にはなるかもしれないが、幸せな立場から言われてもなぁ、と俺は思ってしまう。

 

 人生はゲームのように甘くない。一度の失敗が致命傷になる危険もあるし、ゲームのように状況を全てリセットすることもできない。


 まぁ俺がこう思うのは、人生の難しさに苦しんでいるからなんだろうけどな。


 人間は単純な生き物だ。俺がめちゃくちゃ幸せになれば、きっとまた考えも変わるんだろう。

 何なら、『どうにかなる』とか普通に言ってそう。



 ちょっと脱線しすぎたので、話を少し戻そう。


 玉島先輩は今現在、『恋愛』の面で色々と辛い思いをしている。

 

 俺もこんな事があれば辛くなるし、また逃げちゃうんだろうな。へこんで弱っている俺の姿が、めちゃくちゃ簡単に想像できる。


 ただこの問題も視点を変えれば、そんなに重く考えなくてもいいのでは? と思う。


 あっ、決して俺が浅はかになったとかそういうのじゃないからね!? ちゃんと考えがあっての事だからね!?



 まず第一に、好きになる人は一生の内に一人とは限らない。告白してフラれたりとかすると、多くの人は次の恋愛に移るだろ? 


 諦めない人もいるにはいると思うが、その人の方が少ないとは思うし……今まで一人しか好きになった事ない、みたいな事もあまり聞いたことがない。


 それに、綺麗とか優しいとかカッコいいとか可愛いとか……たった一人だけに思うわけでもないだろ? 

 初めて出来た恋人と結婚する、みたいな事もなかなかないわけだしさ。



 ただ、そんな恋愛に対する感情が色々と狂ってしまうと、音野先輩みたいになるんだけどね。

 生物の生まれ持つ欲求って、ちょっと怖いまであるよね。そう考えると、音野先輩だって人生の被害者と言えるのかもしれないな。


 あとこの問題、まだ音野先輩と付き合う前の話じゃん。付き合う前に知れた、という点だけを考えると、かなりラッキーだったとは思う。



 しかし、これはあくまでだ。人間には多くの感情もあるし、この世界は正論だけで成り立ってはいない。


 俺は音野先輩を許すつもりもないし、玉島先輩を助けたいと思っている。モテているのも腹が立つので、何ならボコボコにしたいぐらいの気持ちだ。



「考えが少しまとまったから、ちょっと俺の話を聞いてもらってもいいですか? 音野先輩の事をもっと調べて、ちゃんと懲らしめて……スッキリしましょう」



 俺は皆の視線を集め、自分の考えた事を話し始める。



 体育祭の『借り』も、ちゃんと返さないといけないしな——




◇◇◇



 作者の都合により、更新の方がしばらくはまた不定期になる予定です……!

 更新を楽しみにされている方、本当に申し訳ありません!


 引き続き楽しんでいただけるような話を書いていきたいと思っていますので、よろしくお願いします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る