第34話 借り
俺と進藤さんは玉島先輩の話を聞くため、玉島先輩と共に三人で学校に来ていた。
そして生徒会室に行き、玉島先輩が生徒会室の扉を開けると、一人の男子生徒が先に生徒会室で作業を行っていた。
「あっ、
「後で話す予定だけど、ちょっと色々あってね。あと
「分かった。俺は、
どうやら、生徒会室で作業を行っていた男子生徒は生徒会副会長の岩田先輩のようだ。 生徒会副会長という事もあって、名前ぐらいは流石に知っている。
それに俺と進藤さんは体育祭での一件があったので、岩田先輩も俺たちの事は認知しているらしい。
「岩田先輩も、玉島先輩と同じように生徒会の引継ぎの準備ですか?」
「そうだな。特に会長と副会長は色々とする事が多くてな、今日もこうして学校に来ているわけだ」
俺が岩田先輩に質問すると、ある程度予想していた答えが岩田先輩の方から返ってくる。
やっぱり、会長と副会長は生徒会の中でも特に忙しいんだな。
「じゃあ、私の事について色々と話しながら作業しよっかな。せっかくだから、岩田君も聞く?」
「まぁ聞いてもいいのなら。何かあったのか……?」
「実はね、さっき音野先輩と会ってきたの。でも最悪だった。私と約束したのに……」
「音野先輩、ってあの音野先輩?」
「うん。はぁ……本当に私の憧れだったのになぁ。私は音野先輩に憧れて、ここまで生徒会長としても頑張ってきたのにさ。本当にショックだよ」
「確かに涼香、音野先輩に少し憧れてたもんな。まぁ、音野先輩は確かに凄かった。仕事もできるし、皆を引っ張っていくカッコイイリーダ―みたいな感じだったよなぁ」
先輩たちの話を聞くに、音野先輩は本当に凄かったらしい。
大学生になって変わってしまったのか、ただ本当の自分を隠していただけなのか……。
実際の所は分からないけど、ちょっと裏切られた感じがして嫌な気持ちになってしまうなぁ。仕方がないっちゃ仕方がないんだけど。
「それで涼香、音野先輩との約束って何なんだ?」
「私が大学生になったらね、音野先輩と恋人関係になるみたいな約束をしたの。一緒の大学に通おうって思ってたのになぁ。パァになっちゃった」
「……お、おう。そ、そうなんだ。ま、まぁそれ以外にも良い道はあ、あると思うぞ」
「そうかな? でもさ、先に大学生になったからって浮気みたいな事する!? しないよね!?」
「ま、まぁ普通はないな」
岩田先輩の反応などを見るに、玉島先輩と音野先輩の関係については詳しく知らなかったようだ。
玉島先輩の強い気迫に、岩田先輩も少し押されている。
そんな先輩二人の会話を俺と進藤さんは静かに聞いていたが……俺は一つ思った事がある。
進藤さんも俺と同じ事を思ったようで、俺の方を見てコソっと話しかけてくる。
「ねぇ水城君。岩田先輩ってさ、その、あれだよね」
「おそらくな。様子を見てもそう思う」
岩田先輩は玉島先輩の話を聞き、表情に色々な感情が浮き出ていた。
困惑、驚き、安心……たぶん、いやきっとそうだろう。
「分かりやすいよね。ここは流石に水城君も分かったか」
「流石に、ってなんだよ。俺はラブコメ大好き人間だぞ」
「え―でも、水城君は鈍感だよ。ぜんっぜん気づいてないもん」
「何か俺が気づいてない事とかあったのか……?」
「結構ね。ま、それも水城君の良さだからいいんじゃない? とりあえず今は先輩の話だよ」
いや急に投げやりになるなよ! 色々と不安になるだろ!
まぁ進藤さんの言うように、先輩たちの話に戻ろう。
岩田先輩の様子を見るに……岩田先輩は玉島先輩の事が好きなんだろうと思う。
そう思った理由はいくつかあるが、一番分かりやすかったのは岩田先輩の反応だろう。
玉島先輩が色々と話し始めた時、岩田先輩は驚きながらも少し安心していたように思えた。
この気持ちは玉島先輩の不幸を喜んでいるような悪い気持ちではなく、玉島先輩がフリーな事に対する安心の気持ちだと思う。岩田先輩の様子を見ても、何かホッとしているような様子に見えたしな。
そしてここからは俺の推察になるが……岩田先輩はまず、玉島先輩が音野先輩の事を好きだった事に驚いた。
しかし玉島先輩が音野先輩と上手くいっていない事を知り、『今は恋人関係じゃないのか……』と安心した、って感じかなたぶん。
先輩と後輩の関係もあれば、そりゃあ同級生の関係もありますよねって話で。これはこれは、どんどんとラブコメっぽくなってきました。
「たっくんや真紀ちゃんにも聞きたいんだけどさ、私はどうしたらいいと思う? 音野先輩を懲らしめる? それとも関係を切る? 逆に関係を修復する?」
「うーん。あくまでも俺の考えですけど、玉島先輩がどうしたいかが重要だと思いますよ。今、音野先輩とどうなりたいのか。それが一番だと思います」
「私も水城君と同意見ですね。ちょっと私も腹が立つので、ボコボコにはしたい気持ちもありますけど」
だから進藤さん怖いのよ! 強力なお父さんがいるから尚更怖いのよ!
でも玉島先輩の話に関しては、自分がどうしたいかという気持ちが全てかなぁと思う。世の中の行動原理の基本だよね。
何をしたいか、どこに行きたいか、何を食べたいかなどなど……自分の気持ちがこの世界で生きるための軸になる。まぁ自分の気持ちに全て従ってたら、それはそれで問題は起きるとは思うけどね。何事も塩梅が重要ってことだ。
「正直言うとさ、ちょっと分からないんだよね。ずっと好きだった気持ち、裏切られた気持ち、そして冷めた気持ちが色々と混ざってごちゃごちゃになってる。でも……もう好きな気持ちは薄れちゃったかもなぁ」
「じゃあ、気持ちをぶつけたいとか懲らしめたいっていう気持ちはあります?」
「あ~気持ちをぶつけたい、っていうのはあるかも。言いたい事はまだめちゃくちゃあるし」
「なるほどです。じゃあその目標に向けて、色々と計画を立てましょうか。玉島先輩、まだ音野先輩とは会えます?」
「うん。あと一週間ぐらいは連休もあるからこっちにいる、って言ってた気がする。たっくん……協力してくれるの?」
「もちろんです。玉島先輩との関係も大切ですし、何せ体育祭の借りがありますから。ここは素直に甘えておいてくださいよ」
玉島先輩の協力がなければ。体育祭の成功はなかった。
今度は——俺が借りを返す番だ。
「私も協力しますよ。玉島先輩のおかげで私も家族と仲直りできましたし……困った時はお互い様ってやつです」
「お、俺も協力する。涼香の力になりたい」
「真紀ちゃんと岩田君も!? ありがとっっ!!」
「じゃあさっさと生徒会の仕事を終わらせて、作戦会議に移りましょう……!」
こうして、音野先輩を懲らしめ隊(仮)が結成されたのであった——
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