第33話 先輩キャラ

「改めて今日はありがとう。じゃあ、私は仕事があるからこれで。真紀と遊んだりするのはもちろん許可するが、変な事はしないように。万が一の事があれば、社会的な力で制裁するからな」

「あっ、はい。分かりました。今後ともよろしくお願いします……」


 おい何だよ。孝蔵さん、本当にどこにでもいそうな娘が大好きなパパじゃねぇか!


 あと怖い! 普通に権力者だから怖い! 変な事はしないけど、普通にめちゃくちゃ怖い!


「真紀~! 水城君との話が終わったから、仕事に行ってくる! 何かあれば連絡するように!」

「分かったー! いってらー!」


 孝蔵さんは仕事に行き、そして孝蔵さんと入れ替わるような形で進藤さんが二階から降りてくる。


 ん……待てよ? 結局二人きりになってるやんけ!


「そういや進藤さん、お父さんとちゃんと仲直りしたみたいだね」

「ん~まぁね。あとは自分のしたい事とかを探していかないと」

「なるほど。進藤さんなら多分。何でもできると思うよ」

「それは私を買いかぶりすぎじゃない?」


 進藤さんなら理解力も高いし、色々とセンスもありそうだから何でも目指せそうな気がする。


 問題も解決して自由になったわけで……これから進藤さんはどんとんと色々な世界を知って、飛躍していくんだろうなぁ。


 それにしても、俺は誰目線で話してるんだ? 俺はただの仲が少し良い人ですよ?  



「それよりさ、この後どうする? もうご飯とか食べちゃった?」

「食べちゃったなぁ」

「んーじゃあさ、駅の近くのカラオケとか行かない? せっかく来てもらったのにごめんね。私の家、あんまり面白そうなものがないの」

「そ、そうとも思わないけど……ま、まぁ俺が見ても分からないか」


 見た事ないようなオシャレな家具、センスのない俺から見れば何が描いているか分からない絵画、意味が分からないぐらいに大きい観葉植物……。


 見た事がない世界で少し興奮はしているけど、芸術的センスや知識が皆無だから、確かに面白くはないかもしれない。


 お金持ちの人って、何で絵画とか時計とか外車とか買うんだろう? 俺はそこら辺に興味が全くないから、いつも不思議に感じちゃうんだよね。


 まぁ俺がお金持ちになったら……推しのヒロインのグッズ買いまくろうかなぁ。漫画やラノベもたくさん買えるし、旅行もできるから最高ですね。

 あ~働かずにお金貰えないかなぁ~!


「せっかくの休みだしさ、水城君もこれで帰っちゃうのはつまんないでしょ?」

「そうだな。じゃあカラオケ行くか」

「おっけ。行こ行こ」



◇◇◇



 そして俺と進藤さんは、駅の近くのカラオケに行くことになった。駅と進藤さんの家の距離は徒歩五分ぐらいで、結構近い。



「なんで! 私が好きだって言ってたじゃん!」

「い、いやそれはその」

「私は先輩に憧れてたんだよ!? せっかく今日会う事ができたのに……こんな結末ないよ」

「大学の奴とは別れるから! 涼香すずかが一番可愛いよ」

「卒業式の時もそんなこと言ってた癖に」


 カラオケの方に行くと、自動ドアの前付近で何やら揉めているようなカップルが目に入った。

 ほんと、恋愛って本当に難しいねぇ。


 ——あれ? 何か聞いたことがある声だぞ? 


 それに俺の知り合いに、涼香すずかという名前の人が一人いるんだが?



「ね、ねぇ水城君。あれって」

「あぁ間違いない。男性の方は分からないけど、女性側は間違いなく……玉島先輩だ」



 俺らの学校の現生徒会長で体育祭の時も色々とお世話になった、玉島たましま 涼香すずか先輩が、何やら男と揉めていた。


 玉島先輩は男女どちらの生徒からも支持が厚く、美人であることから人気も高い。


 恋人については話していなかったけど……まぁ流石に彼氏はいるんだろうと思っていた。学校でもめちゃくちゃモテてるイメージだしなぁ。


「どうしようか進藤さん。一応は止めた方がいいのかな」

「んーまぁそうだとは思うけど、気になるしもうちょっと隠れて見ておこうよ。危なそうになったら、止めにいけばいいわけだし」

「そうしようか」



 そして俺と進藤さんは物陰に隠れ、玉島先輩たちの様子を見守る。


 生徒会長という事もあって何か威厳がある玉島先輩は、順風満帆な生活を過ごしているものばかりだと思っていた。


 結局は玉島先輩も一人の普通の人間、ってことか。


「私が大学生になるまで待ってくれるって言ってたじゃん! あんまり連絡してくれないしさ!」

「お、俺も色々と忙しいんだよ! 何なら友達とかにも涼香の事を紹介するし!」

「もう今日のところは帰って! また連絡するから」

「お、おう」



 玉島先輩が強く言った事で話が終わり、知らない男性の方が駅へと向かっていった。


「水城君、とりあえず玉島先輩の方に行こっか」

「だな」


 俺と進藤さんは一人になってぼんやりしている玉島先輩を見かねて、玉島先輩の方に近寄る。


 俺たちが近寄ると玉島先輩も俺たちに気付いて気まずそうに笑い、小さく手を振ってくる。


「たっくんと真紀ちゃん……やっほ。も、もしかして見てた?」

「すいません。たまたまだったので……何が何だか」

「そう、だよね。急に私のあの姿見たら戸惑っちゃうよね」


 落ち込んている様子の玉島先輩に、俺と進藤さんはどう反応していいか分からず、進藤さんとお互いに顔を見合わせながら気まずそうに笑うしかなかった。


「はぁ……体育祭めちゃくちゃ頑張ったのになぁ。それに今から生徒会もあるし。引継ぎの準備とかしないといけないからさ」


 俺たちの学校では毎年五月に生徒会の選挙が行われ、そこから生徒会は新体制に移行する。中間テストの少し前、ぐらいだった気がするな。


 じゃあテストも近づいてるってことじゃん。やばいじゃん。


 ま、まぁテストの話は一旦置いておこうか! だ、大丈夫だよな!


「今から生徒会だから、一緒に学校来てくれるなら色々と直接的に話せるけど……」


「俺は予定ないですし、全然大丈夫です。進藤さんもいい?」

「もちろん。それに先輩の話を聞けるせっかくの機会ですし」


「じゃあ電車に乗って学校行こうか。さっきの男の人と鉢合わせないように、一本遅い奴で行くね」


「じゃあ学校に行く前に。私から少し質問していいですか? あの男の人って……彼氏ですか?」



 進藤さんが玉島先輩に質問すると。玉島先輩はその質問に微妙な反応をした後、「うーん」と深く考え始めた。


 玉島先輩にとっては微妙な立ち位置の人なんだろうか?


「彼氏、ではないんだよね。話すと長くなるんだけど……私の憧れかつ大好きな先輩なんだ。去年の生徒会でも一緒だったし、もしかしたら知ってるかも。音野おとのじゅんって言う名前に、聞き覚えない?」


「あー確かに聞いたことあったかもです。水城君は?」

「ちょっと思い出したかも。入学式とかの時に顔を見たような気がする」


「その音野先輩とね、去年約束したの。私が大学生になったら正式に付き合って、一緒の大学で楽しいキャンパスライフを過ごすって。今は受験勉強とかで忙しいし、去年は先輩は忙しかったからね」


 確かに受験があると精神も不安定になりやすいし、恋愛は中々難しいか。


 そんな中で玉島先輩たちは約束をし、音野先輩は無事に大学生になったが……そこで問題が起きてしまったんだろう。


 大学生については俺もあまり詳しくないが、人生で一番時間がある時なんだろうとは思う。それに加えて色々と自由になるし、サークルなどもあって楽しい事が増えるんだろうなぁと感じる。


 だからこそ……音野先輩は誘惑に負けてしまったのだろうか?


「それでさ? 音野先輩が大学生になって……今日初めて会ったの。正直に言うとさ、髪とかも染めててめちゃくちゃ驚いた。まぁそれだけなら良いんだけど、ちょっと先輩のスマホの通知が見えちゃって」


「「あー」」


 浮気とかの典型的なバレ方だなぁ。俺と進藤さんの声が偶然にも合わさっちゃったよ。


 まぁ、遠距離恋愛はなかなか会えないし、恋人と遠距離なので浮気とかもバレにくいだろうな。


 相手がいる、大学生になって環境が変わる、遠距離……様々な要因が重なってこのような事態になってしまったのかなぁと思ってしまうね。


 ——憧れの先輩、か。


 ラブコメキャラでは先輩キャラも絶対出てくるけど、この展開は予想外過ぎるのよ。


 普通はこんな感じのキャラじゃないのよ。大人のお姉様みたいな感じなのよ。進藤さんといい玉島先輩といい、俺の周りの人たちがレアケースすぎないか?



「簡単に話すとこんな感じかな。あとは学校で話すね。友達もいるし」




 玉島先輩の秘密を偶然にも知ってしまった俺と進藤さんは、玉島先輩と共に学校に向かった——

 


 

 



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