第2章
第32話 二人でお話し
体育祭の次の日。
今日は休みという事もあって、俺は昼に起床。これが休みの日の特権である。昨日の体育祭の疲労もあってか、身体はまだ少し重い。
俺は重い身体を何とか起こし、まずはスマホの通知を確認する。起きてからまずスマホの通知を確認するの、いつの間にかルーティン化してたんだよな。我ながら現代っ子すぎるぜ。
『水城君起きてる?』
『おーい』
『休みだからまだ寝てる?』
『むー』
『おーきーてー』
充電器を外してスマホを見てみると、メッセージアプリの通知が何件か表示される。
スマホのロックを解除してメッセージアプリを確認すると、進藤さんからのメッセージや着信の通知が結構溜まっていた。何か急用があったのだろうか?
『今起きた。どした?』
俺はとりあえず進藤さんのメッセージに返信をし、すぐにメッセージが返ってくるかもしれないと思って少し待ってみる。
『あ、やっと起きた』
俺がメッセージを送るとすぐに既読がつき、進藤さんからメッセージと可愛い女の子のスタンプが送られてくる。
進藤さんとはあまりメッセージのやり取りをしていなかったが、メッセージのやり取りも何か可愛いな。トーク画面は永久保存しておくべきですかねこれ。
『ごめん。それで進藤さん、何か用?』
『休みのところ申し訳ないんだけど……ちょっと二人で話したいなっていうのがあって。私の家に来てくれないかな~なんて』
『い、家!? 急に最難関ミッションきたんだけど』
『大丈夫大丈夫。二人で話すだけだし、そんな長い時間でもないから。家の住所おくったらさ、水城君は来てくれる?』
『ま、まぁ予定はないからいいけど……』
特に断る理由もないので俺は進藤さんの誘いを受け、進藤さんの家にお邪魔することになった。
二人きり……二人きりで話すねぇ……。
◇◇◇
進藤さんから家の住所を送ってもらった俺は、電車に乗って進藤さんの家の前までやってきた。
お父さんの孝蔵さんが経営者であることから大方予想はしていたが、進藤さんの家……物凄い立派だな……。
『進藤さんの家の前まで来たよ』
『了解! ちょっと待ってて』
俺が家の前で進藤さんにメッセージを送ると、家のドアがガチャっと開いて進藤さんが家の中から出てくる。
進藤さんの服装は、ベージュのパンツにカジュアルなスウェットといった、少しボーイッシュな感じでとても似合っている。
普段は制服な分、私服を見るとどうしても少しドキッとしてしまうよね……。
「あっ、水城君。今日は急だったけど、来てくれてありがとね」
「いやいやこちらこそ。予定もなかったし」
「それならよかった。……なんかラブコメっぽくない?」
「確かにこのイベントもよくあるけど!」
ヒロインとかのお家にお邪魔するイベントは定番だけども!
隣の部屋に住んでいたりとか、看病イベントとか、ヒロインと喧嘩した時とか……。
「まぁまぁ。とりあえず中に入って入って」
「あ、じゃあお邪魔します」
それにしても、進藤さんの用事って本当に何なんだろう。二人で話したいみたいな事言ってたけど……体育祭の時にかなり話したしなぁ。
「へぇ。やっぱり、進藤さんの家ってめちゃくちゃ広くて綺麗なんだなぁ。じゃ、じゃあ改めてお邪魔しまーす……」
「おぉ、水城君いらっしゃい。よく来たね」
うん? 何か大人の男性がいるぞ? しかも見た事があるぞ?
「あ、あれ? どうして孝蔵さんがここに」
「真紀から詳しく聞いていなかったのかい? 今日は二人きりで話したいと思っていたのだが……」
俺が進藤さんの家の中に入ると、大きいソファーに孝蔵さんがどっしりと座っていた。
いや二人きりってそういう事かい! 確かに嘘はついてなかったけど! 孝蔵さんとラブコメ始まっちゃう?
「あれれ~? もしかして水城君、私と二人きりなの期待してたのぉ~? あれれれれ~?」
「ま、まぁ人間的には大切な事であるし、どうしてもと言うなら止めはしない。ただ万が一のことがあった場合、責任はとってもらうからな?」
くそっ。また進藤さんに一本取られた!
それに孝蔵さんも何かと真面目に答えなくていいですから! 万が一とかないですから!
進藤さん親子、かなりの難敵だ……。
距離感が縮まった分、カロリーが更に必要になっているというか……消費カロリーが高すぎるっ!
「真紀。水城君をあまり困らせるんじゃないぞ?」
「はーい。じゃあ一旦、私は自分の部屋で何かしてるね」
「あぁ。話が終わったら呼びに行く」
えっ、何? これから俺は何されるの? ボコボコにされない?
「驚かせてすまない。実は……お礼を言おうと思ってな。本当はこちらから出向くべきなんだが、仕事が忙しくて申し訳ない」
「あっ、それで今日はお家の方に」
「そういう事だ。それで……真紀とはいつもあんな感じなのか?」
「ま、まぁだいぶ打ち解けたとは思います」
「恋愛は早い方がいいとは思うが、早いゆえに失敗も多くなる。気を付けるように」
「何で孝蔵さんはそもそもが乗り気なんですか!」
いつの間にか孝蔵さんがキャラ変してる……。何か娘大好きお節介お父さんになってる……。
それにしてもお礼、か。
進藤さんのお父さんである孝蔵さんも、義理堅いというか何というか…‥本当にこの親子はよく似ている。
まぁとりあえず怒られることはなさそうなので、安心安心。
体育祭の時もその場の雰囲気で勢いに乗って色々と言っちゃったから、ちょっと気まずいなぁと思ってたんだよね。
「あれから、娘さんとは色々とお話されたみたいですね」
「昨日体育祭が終わった後、真紀とゆっくり話をしたよ。久しぶりに話をゆっくりとしてみると、子供の成長に驚かされた。真紀にしても水城君にしても倉島君にしても……昔の私よりも何十倍も立派だ」
「倉島は何か言ってましたか?」
「倉島君は君に強く当たったことを反省していたし、君の言う事は正論だったと言っていたよ。まぁ色々とあったが、素直に自分の間違いを認めたのは凄いと思うよ。私が高校生だった時は、自分が絶対正しいと思っていたぐらいだからね」
「はははっ。でも僕もそんな感じですよ。自分が一番理解しているんだ! とか、この考えが正しいんだ! とかは思う時あります」
協調性がないと言われた事もあったし、頑固だと言われた時もあった。
ネガティブな性格にしてもそうだが、過去の経験が蓄積されていった事で今の自分が形成されたのだと思う。
いじめられてほとんどの人が敵になったからこそ、自分に縋るしかなかった。
自分を否定されたからこそ、自分を強く見せるしかなかった。
——この生きている世界では、何が起きるか分からない。
正解が定義されていないからこそ、色々と文化は発展していくのだろうと思うし、それぞれの個性が形成されていくのだと思う。
人生の難易度はベリーハードだが、明確な正解がないからこそ……色々なルートが生まれていく……。
本当によく出来ている世界だ。
「改めてにはなるが、私たちを救ってくれて本当にありがとう。色々と話し合いも出来て、問題も解決したよ」
「いえいえ。全ては自分の為ですから。俺は進藤さん……娘さんの真紀さんが苦しんでいたのが、少し嫌だっただけです。良い事をしたのも、自分が優越感に浸って気持ちよくなりたいだけですから」
「そうか。水城君は人間らしくていいな」
「心はひん曲がってますけどね」
「ふふっ。それはそうかもしれない」
こうして進藤さんの問題も完全に解決したようで、親交を深める事もできた。
……トラブルや問題はもう懲り懲りだっ!
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