第31話 体育祭のエピローグ②
「お~い男子! このテント運んで!」
「これはどこに持っていったらいい?」
「暇になった奴は装飾外して~」
「帰ったら絶対寝よ。疲れた」
体育祭が終了し、俺たちは体育祭の後片付けを行っていた。
こうして後片付けをしている今も、生徒の色々な声が聞こえてくる。学校行事の準備や片付けについては学年ごとでローテーションになっているので、仕方ないと言えば仕方ないんだけど……とにかく怠いよねぇ。
そんな俺は体育祭の競技で使われた学校の備品を片付けるため、リレーで使ったバトンやら大縄跳びで使った縄などを持ち、体育倉庫へと向かう。
べ、べ、別にサボりたいわけじゃないからね?
一応はちゃんと仕事をしているのだから、その点は少し褒めて欲しい。テント運びもちょっとはしたし……何もかもサボってるわけじゃないからな! 体育倉庫でちょっと休むだけだ!
◇◇◇
「真紀ちゃんさ、そこのところどうなのどうなのっ?」
「うーん……もう少し、といった感じですかね。というか、私ばっかりじゃないですかっ! 先輩のお話も聞きたいです!」
「えぇっ? じゃあまた今度ね」
「二人とも……何してるんだ?」
体育倉庫の方に行くと、聞きなれた二人の声が耳に届く。倉庫の中を覗いてみると、進藤さんと玉島先輩が何やら楽しそうに会話していた。
「あっ、たっくん!」
「噂をすれば何とやらですね。水城君と同じで私たちも少しサボってたの。流石にちょっと疲れたからね」
「……俺はサボってないけどな? それに定義上、これはサボりではない」
玉島先輩や進藤さんも考えていた事は俺と同じなようで、体育倉庫の方に行って後片付けから逃げ、ここで話しながら少し休んでいたらしい。話の内容についてはあまりよく分からなかったけど、何か楽しそうな雰囲気だったしね。
ってあれ? ちょっと待てよ? んんんっ?
「玉島先輩と進藤さん、いつの間にそんなに仲良くなってたの?」
「「さっき!」」
いやさっきかいっ!
まぁ特に、玉島先輩の方は圧倒的陽属性のキャラだからなぁ。茜にしてもそうだけど、本当に誰とでも仲良くなれるんじゃないか? と思うぐらいだ。
そのコミュ力、オラにも少し分けてくれ!
ただこの状況、体育祭が終わったことで玉島先輩には全てバレているのが、ちょっと気まずい。何かめちゃくちゃ質問攻めとかしてきそう。
体育祭が終わった今になって振り返ると、結構恥ずかしい事を言っていたような気もするしなぁ。
進藤さんと協力関係になってはいるが、素直な自分の気持ちなんて絶対に本人には聞かれたくない。俺がどう思われるか不安になるし、素直にめちゃくちゃ恥ずかしいからだ。
これは玉島先輩の口をチャックしておかなければ!
「たっくんの言ってた子が、まさかこんなにも美人だなんてねぇ。でも熱くなって色々と頑張っている姿、本当にカッコ良かったよ。私も好きな人とかに、こんなかっこいい事されたいと思っちゃったなぁ」
「そ、そんなにカッコいいとは思いませんけど……あ、ありがとうございます。それとまさかとは思いますが、先輩と話した事を進藤さん本人に言ったりしてないですよね?」
「……ごめん。全部言った。めちゃくちゃ言った」
そうかぁ。全部言っちゃったかぁ。しょうがないよなぁ。
うんうん。うんうんうんうん。
「恥ずかしすぎて、蒸発して気体になって消えていきたい……」
「そんな恥ずかしがることじゃないと思うよ。ねっ、真紀ちゃんっ?」
「そう、ですね。水城君の気持ち、素直に嬉しいよ」
「もうやめてくれぇ。俺を攻撃しないでくれぇ。どんな言葉でも効いちゃうからぁああああぁぁぁっっ!」
もう色々と恥ずかしくて逃げたい。
しばらくは体育祭の事をふいに思い出して、恥ずかしくなって色々と後悔する、みたいな事ばっかりだろうな多分。
黒歴史とかとは違う、なにか別の恥ずかしさがこみあげてくる感じがする。一応は進藤さんの問題を解決できたから、良い事ではあるんだろうけども。
「まぁまぁ。たっくんも真紀ちゃんもお疲れ様。二人とも体育祭は楽しめた?」
「私はめちゃくちゃ楽しかったです!」
「俺も今年は楽しかったですね」
「ならよかった。運営している身としても、ほんとにめちゃくちゃ嬉しいよ。じゃ、私は先にグラウンドの方に戻るね。二人はまだサボってていいと思うけど、私って生徒会長じゃん? 流石にやばいかなって」
「自覚はあったんすね」
「そりゃあねぇ。生徒会長だって、サボりたい時はサボりたいよ? でもさ、仕事なり日常生活なり、効率よく最大限に楽しむのが一番でしょ? それじゃ、私は先にグラウンドの方行くね~! これからも仲良くしてくれると嬉しいな!」
俺と進藤さんはお礼の意味をこめて軽くお辞儀をした後、グラウンドの方に戻っていく玉島先輩を見送った。
ということは必然的に……。
「水城君、二人になっちゃったね」
「そうだな」
「押し倒したりとかしないでよ? ラブコメの定番イベントじゃないんだから」
「進藤さんが、何か変な知識を身に付けている件について」
「へへん。茜に色々と教えてもらった」
まぁ体育倉庫って何かとイベント起きがちだけど、現実はそう甘くない。
てかそもそも、体育倉庫に閉じ込められるイベント多すぎな?
あのイベント、現実で起きてたら問題になりかねないからなぁ。
ただラブコメ好きである俺の個人の感想としては、少しエチチなシーンも見れるので非常に大満足しております。世界中の全てのラブコメ作家に感謝。
「皆はテントとか装飾の片付けの方に行ったし、人もあんまり来ないと思うから、水城君もここで休んでいく?」
「そうだな。それではお言葉に甘えさせていただきます」
「あははっ。じゃあさ、何かお話ししよ! 水城君が今日、茜や玉島先輩にデレデレしていた件について!」
「俺はデレデレなんかしてないっ!」
「ふーん? 表彰式前はずいぶん楽しそうにしてましたけどねぇ?」
「いや進藤さんにも見られてたんかいっ!」
浮気をして彼女に詰められる彼氏のように、俺は進藤さんに色々と追求される。
べ、別に変な事はしていないから無罪だ! 俺は何も悪くない!
「水城君は私の問題をいい事に、茜に玉島先輩、それに松家さんもか。随分と楽しまれたようですねぇ」
「俺は無罪だ! ちゃんと進藤さんの事を一番に考えてたから! 信じてくれ! 前にもこんな事言ったと思うけど、本当だから!」
「……ふーん? ま、今日のところはとりあえず合格かな」
「た、助かった……」
「本当の事を言うと、私は全然気にしていないからいいんだけどね。たださ、水城君は恋愛するつもりにならなかったのかなぁって」
いや全部冗談なんかい!
やけに気持ちがのっているような感じがして、めちゃくちゃ怖かったけど……それは気のせいか。気のせいだよね? そうだよね? 本当に大丈夫だよね?
——恋愛、か。
したいかしたくないだけで言えば、したい気持ちが勝つ。
それは別に卑猥な気持ちとかではなく、純粋に色々と経験してみたいという気持ちが俺にはあるからだ。一回きりの人生なんだから、多くの事を経験したいと思うのは普通の事だろうと俺は考えている。
結婚して子供が出来て……そういった幸せな生活に憧れちゃうよな。
ただそう思うと同時に、俺には絶対無理だなとも思う。
本当の自分を受け入れてくれる人はいるのか、そもそもの出会い、様々な障壁……。
ネガティブでだらけている俺には、恋愛なんて無理だなぁといつも思ってしまう。
他人と付き合うのは、本当に難しい。価値観やら生活やら能力やら……何もかも違う二人が一緒になる事って、よくよく考えると物凄い事だよなぁ。
「俺なんかが、恋愛なんてできるんかね」
「んー、何やかんやで水城君は尽くすタイプだと思うから大丈夫だと思うよ。自信持ちなって」
「進藤さんは本当の俺も肯定してくれたけどさ、やっぱり常に思っちゃうんだよな。俺なんか、って」
「まーそう病んじゃう気持ちも分かる。私もそんな感じだったこともあるしね。ただ少なくとも、私は水城君に救われたよ? だからさ、私の世界の中だけでもいいから……水城君はヒーローでいてよ」
「私だけの世界、か。上手い言い方だな」
「でしょ? それに私たちは協力関係なんだからさ、気軽に色々とこれからも話そうよ!」
——協力関係。
傍から見れば、『何だそれ』と笑われるかもしれない。都合が良いだけの何てことない関係かもしれない。
ただ俺たちにとっては、この関係が心の支えになっている。俺たちにとっては、特別で大切な関係なのだ。
「は~私、ちゃんと親と話せるかなぁ。まぁ今日ぐらい、何も考えずに無邪気に喜んでおくか」
「いいんじゃないか? 俺も今日は疲れたからダラダラしまくるわ」
「それもいいね。まぁとりあえず一件落着ってことで、水城君もお疲れ様!」
「こちらこそお疲れ様。進藤さんもめちゃくちゃ頑張ってたと思う」
「ありがと。これからもずっとよろしくね」
「もちろん」
体育祭は無事に閉幕し、進藤さんの問題もほとんど解決することができた。
俺はこれからの学校生活に少し期待をしながら、今日のところは体育祭の成功を喜ぶことにしようと決めた——
◇◇◇
【あとがき】
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
これで第一章は完結となりまして、次話から第二章が始まる予定となっています。
今回の章では主に進藤さんについて触れましたが、これからも色々なキャラにスポットライトが当たる予定なのでお楽しみに! 君の推しはいったい誰かな?
そしてレビューやコメントなど、いつでもお待ちしております! もしよければになりますが……応援してくださると幸いです!
また頑張って書いていきますので、更新をゆっくりとお待ちください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます