第21話 決起集会①

 時が経つのは早いもので、いよいよ来週は体育祭本番だ。



 そんなわけで体育祭が行われる前の週の金曜日の夜……決起集会という事で俺たちはファミレスに集まっていた。

 ファミレスは安価なので、俺たち学生の味方でとても心強い。


 そしてメンバーは……前回の部活の勧誘の時のファミレスメンバーに、誠一と彩夏ちゃんの只野兄妹、そして進藤さんも加えた八人の大所帯だ。


 いつの間にか、グループのメンバーがかなり増えた気がする。まぁ実際に増えてはいるんだけど……。



 そして今回の席は奥から、進藤さん、俺、彩夏ちゃん、誠一。そして対面は、晴菜、茜、琉生、松家さんとなっている。


「この前までは私に絡んでくれてたのに……兄貴ったら、今は進藤さんに夢中になっちゃって……」

「別に夢中になってないわ! 二人三脚のペアで練習する事が多いから、自ずと一緒にいる時間が増えてるだけだって」

「ふーん? 兄貴が何か楽しそうに話してるとこ、私は見ちゃったけどなぁ」

「だから誤解だって! ほら、進藤さんも何か言ってよ」

「あれっ? 水城君は私に夢中になってないの?」


 席に座るやいなや、俺の正面に座っている茜が少し不満そうに俺に話しかけてきた。


 進藤さんというイジリ役が増えた事もあって、余計にこのグループで俺がイジられるようになってしまった。解せない。


「まぁ兄貴はともかく、進藤さんとも仲良くなりたいからさ、進藤さんも名前で呼んでいい?」

「もちろん。私も茜って呼ぶね。皆も好きなように呼んでくれていいよ」


 相変わらず、茜のフレンドリーなところと距離感の詰め方は凄いな。俺にはいつまでたっても真似できない芸当だ。


「拓海と進藤さんに関係があったのは、本当に驚いたよなぁ。玲奈も結構驚いてたよな?」

「琉生君の言う通りですね。拓海君が思った以上にやり手でした。それに私のポジションも奪われるとは」


 次から次へと俺をイジるのもうやめて? 俺のライフがもう尽きちゃうよ? 


 あと松家さんは勝手に何か納得しないでくれる? 俺そんな悪くてチャラい奴じゃないよ?



 俺は心の中で色々とツッコミながら、進藤さんの方をチラッと見る。進藤さんも俺の視線に気づき、俺の方を見て少しだけ笑った。



 俺と進藤さんは、体育祭練習を経て協力関係になった。


 ただ、この進藤さんとの協力関係を話すとなるとかなり難しいよなぁ。

 どこまで話していいかみたいな問題もあるし、余計にややこしくなってしまう可能性もあるからな。


 そんな進藤さんとの事を考えていると、注文した料理がまた猫型の配膳ロボットによって運ばれてくる。


「おぉ兄貴見て見て! 猫山田ちゃんだよ!」

「何でまた名前付けてるんだよ。それに前と名前変わってない?」

「おぉ流石は兄貴。待ってましたよそのツッコミ」

「そんな名人芸みたいに言うな。あと無言でポテトをガッツリと取っていくな」

「前もくれたんだがらいいでしょ~!」


 そんな俺と茜の会話を聞いたからなのか、進藤さんが隣からひょいっと俺のポテトを取る。


「いただきぃ。私も水城君のポテト貰うね?」

「その言葉は普通、取る前に言うんだけどな?」


 あと何で進藤さんはそんなにドヤ顔なの? まぁシェア目的で注文したから、別にいいはいいんだけどね?


「私も負けじと拓海先輩のポテトを取らないと! ほらっ、彩夏も誠一先輩も早く早く!」

「彩夏ちゃんまで巻き込むんじゃないよ全く……」


 進藤さんに続いて、晴菜もなんで対抗心を燃やしているんだよ……。


 ほらほら、天使の彩夏ちゃんがちょっと困ってるじゃねぇか。まぁそれも癒されるのでよし!



 そして俺たちは届いた料理を食べながら、来週に迫った体育祭の事について話し出す。


 クラスの雰囲気や各々の出る競技が話題になるなか……注目の的になったのはやはり進藤さんだった。

 

 クラスのマドンナ的存在で急に俺との距離感が縮まっていたら、そりゃ気になるよな。


「進藤さんさ、を言ってもいい?」


 俺は、進藤さんに倉島の事などを話していいか尋ねた。


 皆も進藤さんについては気になっているだろうし、このグループのメンバーなら信頼できると思う。

 進藤さんにとっても、もしかしたら大きな力になるかもしれない。


「いいよ。このグループの皆なら信用できるし、仮に噂が流れたとしても特定しやすいから。水城君もでいいでしょ?」


「うん、俺はでいいよ。進藤さんにとっても、役に立つと思う」


 俺と進藤さんは話しながら、互いに思っている事を再確認する。


 俺たちは協力関係になった後、お互いに色々な事を話した。


 俺が弱い自分を隠している事、そして隠している事を多くの人に言いたくない事、自分の意思を無視して行動する親を進藤さんが嫌っている事、俺の個人的な意思もあって進藤さんの力にはなりたいと思った事……。


 そして俺たちは色々話した後、出来る限りでお互いの意思や考えを尊重しようと決めた。

 先ほどの進藤さんとの会話は、お互いの気持ちの最終確認みたいなものだ。


「あの事、って何だよ拓海?」


 琉生が俺の言葉を待ちきれないといった様子で、問いかけながら真っ直ぐと俺を見つめる。


 そういや体育祭のメンバー決めの時も、琉生は進藤さんの事を何か気になっているような様子だったな。

 流石は主人公キャラ、といった感じだろうか。


「どこから話すのがいいんだろ。えーと、進藤さんは恋愛関係とかで何かと話題になるんだけど……実は既に相手がいるってところからかな」


 俺が進藤さんの事に対して口を開くと、先ほどまでの明るい雰囲気から変わって少し緊迫した雰囲気になる。

 

「私は俗に言う、許嫁って奴。ちなみに相手は五組の倉島くらじまね」


 俺の言葉に進藤さんが少し補足する。


 琉生や茜たちは、その俺たちの言葉と状況がまだよく分かっていない様子だった。

 『許嫁』という部分はかなり驚いている様子だったが、流石にこれだけじゃ状況が分からないか。


「私さ、本当は倉島の事なんか一ミリも好きじゃない。私の親はね、色々な事を勝手に決めて、いつも私を縛ろうとしてくるの。自分の利益しか考えてないんだよ」


 そう。これが俺が勘違いしていたポイントだ。


 勉強をしない事や倉島の事を俺はスルーしていたが、進藤さんは納得なんかしていなくて。


 進藤さんは一人で親に反抗しようとしている、少し強い女子高生だっただけなんだ。


「あっ、じゃあ拓海と補習で一緒になったのは」


 琉生が進藤さんの事に気付いたようで、沈黙を破って口を開いた。琉生の他にも、松家さんや誠一も気づいている様子だった。


「鋭いね。私ってさ、イメージもあって真面目な人みたいなイメージじゃん? でも私は私の好きなように生きたいし、親の言いなりにはなりたくないの」


「なるほど……? 何となく真紀ちゃんの事が分かってきた気がする! だから兄貴と色々話してたのかぁ。良かった良かった」


「拓海が進藤さんと話していた時は俺も驚いたけど……そういう事か。まぁ、俺より玲奈の方が驚いてたけどな?」


「うるさいですよ琉生君。イジるなら、進藤さんを見て固まっていた誠一君にしてください」


「僕の扱いが酷い……。ビックリして固まってたのは事実だけどさ」


 茜たちも事情がある程度把握できたようで、俺と進藤さんの絡みに関しても納得したようだった。

 また後輩の二人も何となくだが大変な事情と理解したようで、進藤さんに対して優しい視線を向けていた。


 後輩の二人は仕方ない事でもあるが、置いてきぼりにしちゃったな。またあとで少し謝っておこう。


「それにだいたいさ、昔からの仲だからって好きになるわけがないよね。出会った期間とかは関係ないし、好きになる時は一瞬でしょ?」


 俺には昔からの異性の友達がいないのでよくわからないが、進藤さんが言うにはどうやらそういう事らしい。


 理解はもちろんしているが、改めて現実ってラブコメみたいな甘い世界じゃないんだなぁ……。



 そして俺は、チラッと琉生と松家さんの方を見る。


 この二人も幼馴染で昔からの仲と言えるけど、お互いにどう思ってるんだろうな……とふと気になったからだ。


「どうかしたか拓海?」

「拓海君、何か言いたい事でもありましたか?」


「いや、何でもない」


 琉生と松家さんにバレそうになったので、俺はそれとなく誤魔化して二人から視線を外す。 

 


 今後の二人の関係もどうなっていくのか気になるところではあるが、まずは進藤さんの問題が優先事項だ。



 この世界は物語のような綺麗な世界じゃない。


 


 本当に……人生は難しくて嫌になる——






 


 


 





 

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