第18話 今年は
体育祭のメンバー決めが行われている中、俺は進藤さんに誘われて男女混合で行われる二人三脚に出場することになった。
進藤さんの行動については疑問が残るが……今考えても答えは出ないのであまり考え込まないようにしておこう。
何かのいたずらにしては全く悪意が感じられなかったし、進藤さんが俺に恋愛感情のような特別な感情を持っている可能性もない。二人三脚が好きすぎて出場したかった、みたいな事もないとは言い切れないが、これもまた考えづらいだろう。
うーむ分からん。単純に仲良くなりたかっただけとかなのか?
「拓海と進藤さんが仲良いなんて、僕は知らなかったよ」
「あーいやその……補習の時に少し話した事がきっかけでな。まだ知り合ったばっかだけど」
「なるほどね。クラスのマドンナと関係が持てて、拓海もよかったじゃん」
「よかった、のか? 俺にはよくわからん」
進藤さんが女子達のグループに戻っていった後、固まっていた誠一が復活して俺に話しかけてくる。
誠一の考えるように、クラスどころか学年でも人気がある超絶美人の進藤さんと、関係を持つ事ができたらめちゃくちゃ喜ぶのが普通なのだろう。
ただ、俺は進藤さんの『秘密』を知っている。
彼氏どころか既に婚約も決まってるような相手がいたら、特別な感情なんて湧いてくるわけもない。仲良くなりたい、みたいな感情は少しあるけどな。
あと、どうしても倉島だけは好きになれないけどな!
野球部の館山にしてもそうだが、スペックが高いからって弱者にマウント取りやがって。
能力があるせいか、自分が正義だと偉そうにするのが気に食わない。
はぁ〜俺の人生、厳しすぎるだろ。
「でも、拓海と進藤さんの絡みって意外過ぎて面白いかも」
「うるせぇ……と言いたいけど、俺自身驚いているから何も言えねぇ」
「さっきチラッと見たけど、茜の顔が凄い事になってたよ。驚きすぎて放心状態になってた」
「ま、そもそも進藤さんって特定の人と仲良くしているイメージがないしな。誠一は何か進藤さんについて知ってる?」
「いや……僕もあまり知らないなぁ」
皆が驚くのも無理はない。
それに進藤さんは茜と同じように色々な人と接しているイメージがあるけど、茜に比べて何か少し、他人に壁を作っているように見える。
俺が進藤さんについてまだ詳しく知らないという事もあるとは思うが……。
まぁ進藤さんの場合、環境が普通じゃないので一概には言えないか。倉島みたいな特異な存在もあるわけだしな。
「おいおい拓海? いつの間に進藤さんと仲良くなってたんだよ!?」
今度は、俺と誠一が話している所に琉生が入ってくる。
琉生も俺と進藤さんの関係には興味津々の様子で、少し興奮しながら俺たちの方に近づいてきた。
「あっ、琉生。俺と進藤さんで二人三脚に出る事になった。メンバー表に書いておいてくれ」
「……いつの間にか、拓海がめちゃくちゃ強キャラになってやがる」
「琉生には言われたくねぇな。ちょっと進藤さんとは、この前の補習で少し仲良くなったんだよ」
人権キャラ級の強さを持つ琉生に言われても、ただの嫌味にしか聞こえねぇぞ。琉生に悪意が全くないのは、俺も分かってはいるけどね。
それにしても、進藤さんの影響力も改めて物凄いな。これ、体育祭当日になったら学校中の男子全員から呪われちゃうんじゃないの?
俺、体育祭が終わっても無事に生きているかな……。
本当に俺の周りは、サービス終了前のソシャゲのようなめちゃくちゃ強いキャラばっかりで溢れている。
幼馴染、同じ部活、義妹に後輩、更には許嫁と流石のラブコメ好きの俺も満腹だ。何作同時連載してんねん。
「てか、誠一と拓海は無理がないように俺が勝手にメンバー表に名前を書いておいたぞ。拓海は綱引き、誠一は玉入れに出場してくれ」
「「オッケー」」
どうやら、琉生が色々と俺たちの事を考えて出場する競技を先に決めてくれていたらしい。
俺は運動があまりできない事から体育祭では活躍できそうにないが、自分のベストは尽くせるように頑張ろう。
「あ、あとな? 誠一はいいんだけど……その、拓海がな?」
「おいおい、その話の出だし怖いって。琉生らしくもない」
いつもの明るい様子とは違い、琉生は俺を見ながら少し気まずそうな様子を見せる。
怖い怖い。いったい何があったって言うんだ。
「生徒会種目の借り人競争ってあるだろ? あれって他の競技とは違ってさ、何か雰囲気が違うじゃん?」
「おう、そうだな」
借り人競争は体育祭の普段とは違う『お祭り』の雰囲気をより感じる事が出来るし、色々なお題があって面白い。
去年は先輩の誰かが借り人競争を通して告白し、かなり盛り上がっていた事を思い出す。
「でもあの競技って盛り上がる分、かなり目立つだろ? それで出たい人がいなかったから、公平に男子全員のくじを作ってくじ引きをしたんだ。あっ、くじ引きに不正はなかったからそこは信じてくれ」
「おい琉生……まさか」
ここまでくれば、琉生の言葉を聞かなくても琉生の言いたい事が分かってしまう。
このくじ引きの結末が……どうなったのか。
「拓海にも話しかけようと思ってたんだが、誠一や進藤さんと話していた事もあってやめたんだよ。まぁ……確率も低いし、俺とか拓海や誠一は当たらないと思っていたんだが……その拓海のくじを綺麗に引いちまってよ」
「……まじかぁ」
俺が嫌だなぁと思っている時とか、何故か絶対に当たっちゃうんだよなぁ。
疫病神か、なんかの悪霊に取りつかれてるのかな俺。
「本当に嫌だったら断ってくれていいから。何なら俺がやるし」
「いや、やるよ。公正なくじ引きで文句は言えないし、琉生には新聞部の仕事もあって忙しいだろ」
俺が断っても何かとクラス内で揉めそうなので、ここは仕方なく受け入れる事にする。
琉生に助けてもらっている事も多いし、体育祭当日は委員や新聞部の仕事もあるみたいなので、琉生にあまり負担はかけさせたくない。
それに……もう進藤さんの二人三脚も決まってるしな。どうせなら、まとめて出場してぶっ倒れてやるよ。
——くそっ。
いつも通りの自分なら緊張や不安に押しつぶされてメンタルが落ち込むのに……何だよこの感情。
これじゃまるで、俺が少し体育祭を楽しみにしているみたいじゃねぇか。
少しだけ期待してんじゃねぇよ、本当の自分。
「おっ、体育祭のメンバー決まったか? 特に変更がないなら、このメンバー表で私が提出しておくぞ?」
俺たちの話が少し落ち着いたのを見て、座っていた新井先生が立ち上がって話をまとめる。
これで正式に、体育祭で俺が出場する競技が決定した。
今年の体育祭は借り人競争に進藤さんとの二人三脚もあって……色々と忙しくなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます