第17話 体育祭×ラブコメは何か起きるのが相場
補習の日から数日が経った。
二年生の授業も始まり、俺も高校二年生になったんだなという実感が少しずつ湧いてくる。
眠気と格闘しながらも、俺は何とか午前の授業を終え、俺は午後の昼休みを琉生たちとダラダラと話しながら満喫していた。
休み時間になると、途端に目が冴えるのってなんでなんだろうね?
ただ今日は昼休みが終わっても、午後からの授業はロングホームルームなので余裕だ。何ならそこで寝てもいいな。
ロングホームルームについては何をするのかは分かっていないが、新しいクラスになったという事もあるので、クラス内での係を決めたりするのだろう。
あとは……あれか。体育祭についても何かありそうだな。
俺たちの学校の体育祭はまだあんまり暑くない四月の月末に行われるので、準備期間に入るのもかなり早い。
体育祭が上手く行けばクラスの団結力も上がるし、琉生や茜みたいな運動ができるキャラの奴は楽しみにしているだろが……俺みたいな運動があまりできないキャラにとっては、いかに黒歴史を残さないかどうかの戦いになる。
何とか今年も適当にやり過ごそう。それが俺にとっては一番いい。
「そういや兄貴、補習は結局どうだったの? 前にも少し話したけどさ、理奈ちゃんにこってりと絞られたんじゃないっ?」
俺が今日の午後についての事を考えていると、俺の席の近くに来ていた茜が補習の事について聞いてきた。
茜は俺を弄る気満々で、少し意地悪そうな笑みを浮かべている。
ここで進藤さんの事について話すのは……色々とややこしくなりそうなのでやめておこう。
それに倉島からも、進藤さんが『許嫁』な事は内緒にしろって言われたしな。そんな重要な事のくせに、俺には軽く言ったのが腹立つけど。
「いやそんな事はなかったぞ? 解説とかで結構思い出したし、課題のプリントも案外早く終わったしな」
「えぇ~つまんないのぉ。兄貴の面白話が聞けると思ったのに」
俺の言葉を受け、茜は凄く残念そうな様子を俺に見せる。
ふはははっ、残念だったなぁ! 俺もそう簡単にはやられないのだよ!
「ちぇっ、拓海も肝心な所で面白くねぇな。これじゃ、俺がテストを頑張った意味がないじゃねぇか」
「何で琉生まで残念そうにしてるんだよ。もっと俺に優しくしてくれてもいいのではは?」
茜も琉生もたまたま補習にならなかったからか、めちゃくちゃ調子に乗りやがって。
定期テストで補習になった時、絶対にめちゃくちゃ煽ってやるからな?
「拓海君は何というか……もったいないですね」
「僕も松家さんと同意見だね。趣味の話とかの時の拓海は凄いのに」
今度は俺たちのグループで勉強できる組の松家さんと誠一が、俺をフォローしてくれる。
いや、これってフォローなのか? 遠回しに俺を攻撃していない?
「まぁ可哀想だから、兄貴の攻撃はこれぐらいにしといてあげよう! それよりさ、体育祭で何の競技に出るか決めたっ!?」
「可哀想って何だよ。俺は納得してねぇぞ」
「ごめんごめん兄貴。午後はどうせ体育祭の話中心だし、そっちの話しようよ」
「いいけど……運動できない俺にとっては、色々と体育祭は大変なんだよなぁ」
「大丈夫! 世の中パッション!」
茜の言葉で話題は変わり、体育祭の話に。
茜はどこぞの熱血テニスプレイヤーかなんかですか?
そんなキラキラとした目で『パッション!』って言われても、ちょっと困っちゃうんですけど。
「兄貴も私と一緒に全競技出場しようよ! 楽しいよ!」
「フィジカルモンスターやめて。マネージャーで運動神経抜群なの、卑怯だわ」
「卑怯って何っ!? 絶対楽しいから全競技出よ~う~よぉ」
「おおそうだな。あっ、もしかしたら体育祭当日に体調不良になりそう」
「サボっちゃダメだよ。大丈夫、兄貴は面白いから」
茜のそのフォロー……体育祭には何の役にも立たないが?
体育祭って、運動できるかできないかが重要だと俺は思うんですが?
確か、茜は一年生の時も体育祭では大活躍してたっけ。
その時の俺と茜の関係はまだ少し話したぐらいの希薄な関係だったから、俺はただ凄いなぁって見てただけだったけど。
ちなみに俺はと言うと……玉入れとかの楽な競技に参加して、あとは適当にゆっくりしながら琉生の応援をしていた気がする。
ちょうど琉生と仲良くなった時だったし、琉生もフィジカルモンスターでだいたいの競技には出場していたからな。恐ろしや恐ろしや。
体育祭では最低でも一種目の競技に参加しないといけないので、今年も楽な競技に参加して琉生や茜たちを応援することにしようかな。
「お前ら~そろそろチャイムが鳴るから、席に着けよ~」
俺が今年の体育祭はどうしようかと考え終わった頃、新井先生が着席を促しながら、何かのプリントを持って教室に入ってきた。
時計を見ると、時計の針はもう午後のロングホームルームが始まるほんの少し前の時間を指していた。休み時間はやっぱり早い。
そして新井先生の言葉に従ってクラス全員が自分の席に座ったのとほぼ同じタイミングで、午後の始業を知らせるチャイムが鳴った。
「えーと、今日のホームルームではうすうす分かっていると思うが、体育祭の話が中心だ。クラスの係とかも決めないといけないが、体育祭の方も色々と早く決めないといけないからな。なるべく早く決めるように」
新井先生はそう言うと、体育祭のメンバー表を黒板に貼る。俺の席からだと文字が少し小さくてあまり読めないが、去年とほぼ変わってないように見えた。
「お前らは去年経験しているから、体育祭の事もよく分かっているだろう。去年と特に変更点はないらしいので、最低一種目出場すればオーケーといった感じだな。とりあえず、体育祭のルールとかをまとめてるプリントを全員に配っておくな」
プリントを確認すると、体育祭の大まかな予定、競技とルール、そして生徒会がいつの間にか決めていた体育祭のテーマが書かれていた。
「詳しい事はプリントに書かれているから、一度は読んでおけよ〜? まぁ勉強の方に力を入れるとは言ってもこの時期の体育祭は早い気もするが……やるからには思い出に残る体育祭を目指そう」
確かに俺たちの学校は主に勉強に力を入れているため、学校行事の規模などに関しては他の高校より少し劣るかもしれない。
俺としては同じ中学の奴がいない事を中心に考えてこの学校を選んだので、別に後悔はしていないけどな。
まぁまぁ……そういった事はもう考えてもしょうがないので、とりあえずは体育祭の詳細が書かれているプリントでも読むか。
去年の体育祭のテーマなんて一文字も覚えていないが……今年のテーマはなんだろな。
今年のテーマは、『絶対に起こすんだ体育祭マジック! 青春のページを刻み込め!』らしい。ふむふむなるほど。
いや何かもうテーマの時点で陽の光溢れてますやん。もっと陰にも優しくしてクレメンス。
俺は心の中でそうツッコミながら、次に競技が書かれている欄を見る。
大縄跳び、台風の目、綱引き、玉入れ、男女別と男女混合のリレー、それに男女混合の二人三脚に借り人競争、部活対抗のリレーやパフォーマンスもあるらしい。
いかにもザ・体育祭って感じの競技ばかりだな。
ちなみに借り人競争だけは生徒会のオリジナルでの運営種目らしく、紙に書かれたお題に沿った人を探すという少し変わった競技で生徒からの人気も高い。
それと俺たちの学校の体育祭は、学年別でのクラス同士で戦うシステム。俺ら二年生のクラスは全六組で、優勝と準優勝のクラスは去年のように表彰されるらしい。
「私は順位とか気にしていないし、生徒であるお前らがしっかりと楽しめるイベントになればそれで満足だ。じゃ、あとは男女に分かれて自由に出場する競技を決めてくれ。体育委員よろしく~」
その新井先生の言葉で俺たちは席を立ち、男女に分かれて体育祭の話を始める。
ちなみにクラスの体育委員は、男子は琉生、女子は茜に決まった。この人選については全く異論がないな。
「拓海! 誠一! お前ら、俺と一緒にリレー走らないか?」
「「遠慮しておきます」」
琉生が明るい様子ながらも地獄の提案をしてきたので、運動があまり得意でない俺と誠一はその琉生の誘いをきっぱりと断る。
「拓海と一緒で、僕も運動はそんなに得意じゃないからなぁ」
「ありがとう誠一。お前だけが俺の味方だ」
「大げさだよ。それで拓海は何に出るか決めた?」
「うーん……適当に綱引きか玉入れかなぁ」
綱引きと玉入れは、仕事をしていなくてもバレにくい競技でお馴染みだ。大縄跳びや台風の目については、運動不足な俺はぶっ倒れる可能性もあるからやめておこう。
「拓海の言うように玉入れとかはいいよね。あと台風の目ってあれだっけ? チームで棒を握ってコーンを回るやつ」
「そうそう。俺や誠一みたいな運動不足マンにはめちゃくちゃきついやつ」
「はははっ……間違いないね」
そうして俺は、誠一と楽しく話しながら出場する競技を決めていた。
適当に玉入れの競技のメンバーの欄に名前でも書いて、あとはゆっくりしておこうかなと思っていると……俺のもとに意外な人物が一人。
「水城君。よかったらさ、私と一緒に二人三脚に出ない?」
「……し、進藤さん?」
誠一はそんな俺と進藤さんの絡みに驚き、どうしたらいいのか分からない様子で何も言わずに固まっていた。
体育祭のメンバー決めで教室内がザワザワとしているおかげもあって、俺と進藤さんが話している事はあまり注目されていない。
「断ってもいいよ? その時は水城君にペアになろって言ったらフラれた、って皆に言うけど」
「……悪い人だね進藤さんは」
「ふふっ。水城君は私の事を知ってるくせに」
「断るよりは……マシか。分かった。一緒に出るよ」
「水城君ならそう言うと思った。また練習とかよろしくね」
——今年の体育祭は、去年と大きく違う体育祭になりそうだ。
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