第14話 勧誘活動も終わって

 部活の勧誘活動も無事に終わって、夜。


 俺たちはご飯を食べに、電車に乗って市内のファミレスに来ていた。


 俺以外のメンバーは、松家さん、琉生、茜、そして先ほど知り合った後輩の晴菜で、合計五人だ。



 俺たちはファミレスの前で全員が揃った事を改めて確認し、入店して奥の広い席に座る。


 席順としては、奥から俺、茜、晴菜。そして向かい側は、奥から琉生、松家さんとなった。


 そうして席に座った後、俺たちは注文を手早く済ませ、雑談を始める。


「ね~ね晴菜ちゃんっ! 野球部のマネージャーは興味ないっ!?」

「ダメですよ茜さん。晴菜さんは、私たち新聞部に入部してもらうんですから」

「はははっ。本気の玲奈は怖いから気をつけた方がいいぞ?」

「琉生君? 余計な事は言わないでくださいね?」

「先輩たちの誘い、色々と頭に入れておきますね!」


 なんかさ……いつの間にかめちゃくちゃ仲良くなってない?

 

 こ、これがコミュニケーション力が高い強者たちの集まりなのか……。お、俺はもう恐ろしいぜ。


「先輩達はグループなんですかっ?」


 晴菜がそう俺たちに質問すると、何故か俺の方に皆の視線が集中する。


 え、えっ? 何故に俺?


「ま、まぁグループといえばグループだな。いつの間にか仲良くなってたって感じだ」


 視線が俺に集中したという事もあって、仕方なく晴菜の問いに俺が答える。


 俺が答えるとその答えに満足したのか、茜が笑いながら俺の肩をバンバンと叩いてくる。


 何故にいつも、茜は俺をバンバンと叩くのか。俺はいい音色を奏でる楽器じゃねぇぞ。


「そーだよ! 結局は兄貴のグループが一番落ち着くからねぇ」


 茜がそう言うと、琉生と松家さんもうんうんと頷いて肯定する。


 何で勝手に俺がリーダーみたいになってるの? 全然違うよ?


「俺を勝手にリーダーに押し上げないでくれます?」

「いけませんね拓海君。拓海君も少しは自信を持ってポジティブになるべきですよ」

「そうだよ! 兄貴、いつも宿題見せてくれるし!」

「俺も助かってるぜ。予定とか決めてくれるからよ」


 松家さんはともかく、茜と琉生はガッツリと私情が入ってますよねこれ。


 まぁ誠一は頭はいいけど何かと抜けてるところも多いし、琉生と茜はひたすらに突き進むので、必然的にバランサーがこのグループにおいて重要となる。


 松家さんもそのバランサーの役割を担っている所はあるが、一人では流石に難しくて大変な所もあるだろう。


 そこで俺は、自分の立ち位置についてふと考えた。


 そして色々と分析した結果、元々の俺が心配症で色々と考える性格だったという事と、今度は平穏かつ良い学校生活を送りたいという仮面を被った新しい自分の気持ちの二つの思考がマッチし、今の学校生活での俺のキャラが出来上がった。


 どの学校でも絶対に一人はいる、グループに何となくいてバランスを保つ存在。それが俺の見つけた一つの答えだった。

 俺の場合は周りの奴らが最強すぎて、例外かもしれないが……。


 まぁともかく、本当の自分と仮面を被った自分が上手くマッチした結果、こうして今の俺のキャラが出来上がったというわけだ。

 

 それに漫画やラノベ、アニメで登場したキャラクターも大きく参考になったしね。

 自分の見せ方であったり、コミュニケーションの取り方については大きく学ばせてもらったし、今もその学んだ事を応用したりして使わせてもらっている。


 ちなみに素を出しすぎると、ネガティブ思考でただ病んでいる面倒な奴がひょっこりと出てくるので封印。シッシッシッ。


「先輩たちのそういった関係、素敵だと思います! 私も学年は違いますが、もしよければこのグループに入りたいです!」


「「「「もちろん」」」」


 晴菜の要望を否定する人がいるわけもなく、彩夏ちゃんに続いて晴菜もこのグループに加入することになった。


 学年は違うので制約される面も多いが、先輩との関係が出来るのは非常に大きい事だろうと思う。


 同級生との良い関係も非常に重要ではあるが、先輩との良い関係も学校生活では有利に働く事が多い。

 勉強面や学校行事、進路の考え方など、先輩からの話はかなり参考になるし、安心できる材料にもなる。


 部活に入っていない帰宅部の俺には関係ないけどね!


 

 こんな風に雑談を楽しんでいると、飲食店などで最近増えた猫型の配膳ロボットが、俺たちの注文した食べ物を持ってきてくれる。


「おぉ~可愛いぃっ! 兄貴も可愛いと思うでしょ!?」

「いや猫とかは好きだけど……これって可愛いに入るのか?」


 女子高生の可愛いの基準、本当に分からん。



 俺たちはともかくとして、小さい子は背の高くてスススッと来る配膳ロボットに怖がっている様子をよく見るなぁとふと思い出す。

 あの怖がってた子も、成長したら可愛いと思うようになるのかね。


「持ってきてくれてありがとねっ」


 食べ物を全てテーブルに置き、茜が話しながら配膳ロボットに設置されているタッチパネルを操作すると、配膳ロボットは明るい音を出しながら戻っていく。

 考えるにあのロボットは、キッチンとかに自動的に戻るように設定されているんだろう。便利な世の中になったもんだ。


「あぁ……私の猫次郎が帰っていった……」

「いつの間に名前を付けたんだお前は」


 悲しそうにする茜に、いつものように俺がツッコむ。


 それに名前をつけるにしても、何で次郎やねん。もしかして、あの猫型の配膳ロボットを全て家族として捉えてる?


「ごめん兄貴。今日のボケはイマイチだったね」

「いやそんな真顔でボケについての反省をされたら、こっちが困るんだが?」

「てか兄貴、フライドポテト頼んでるじゃん。めちゃ出来る男じゃん。少しもらっていーい?」

「そう言うと思ったわ。ん」


 俺は取りやすいように、テーブルの真ん中にフライドポテトが盛られている皿を置く。

 何人かでご飯を食べに行ったときは、シェアしやすいものを一品は注文するのが俺流だ。


 率先してシェアをする事で、誰かからも何かシェアをしてもらって色々なものを食べられるというメリットもあるし、何か仕事ができる感じも出るので一石二鳥だぜっ!

 

「あ、あの先輩の皆さんは恋人とかいたりするんですか?」


 その俺たちの様子を不思議そうに見ていた晴菜が、俺たちを見回して問いかける。


 晴菜以外の俺たち四人は、その晴菜の問いを否定するように首を振る。


 茜が既に付き合っているという可能性も少し考えたが、まだ誰とも付き合ってはいないらしい。琉生と松家さんも、相変わらずの関係といった感じだ。


「あっ、そうなんですね。先輩たちの距離感がやけに近いと感じたので、少し気になっちゃいました。すみません」


 晴菜は少し驚いた後、俺たちの顔を見ながら謝る。


 まぁ普通に考えればそう思うよなぁ。

 色々と勘違いする人も本当に多いし、俺もこんな事で怒ったりはしない。


「琉生と松家さんは昔からの仲だし、茜はこんな感じだもんな」

「ひどいよ兄貴! 私を何だと思ってるのさっ?」

「超絶陽キャモンスター」

「そこは超絶美人な完璧人間って言って欲しかったな」

「茜のどこが完璧なんだよ。まずは宿題をやる事から始めような」


 俺が晴菜にフォローを入れると、茜が俺に絡んでくる。


 茜が美人なのは認めるけど、勉強面は俺と大差ないだろうが。今度から茜に宿題見せないでおこうかな。


「逆にですけど、晴菜さんは恋人とか好きな人とかいないんですか?」


 今度は松家さんが晴菜に問いかける。


 俺としても思うところはあるが、晴菜がどういった事を思っているのかについては、正直興味がある。

 ラブコメ大好き人間の性ですかねこれは。


 それに、自分は恋愛できる人間だとは思っていない事も影響しているのかもしれない。

 する事はできないけど、見てはいたい的な?


 本当につくづく諦めきれない人間だな俺は。夢を持つというのが無駄だと分かっているのに。


「私もいないですね。というより……恋愛感情があまり分かってないかもです」


 晴菜は少し考えた後、難しい表情をしながら俺たちに向けて口を開いた。


 恋愛感情、か。それもまた難しい問題の一つだよな。


 晴菜は誠一と凄く仲が良さそうだし、もしかしたら少し特別な感情を持ち始めているのかもしれない。

 

 ただ友達の兄という事もあるし、彩夏ちゃんもかなり誠一の事を慕っているみたいだからなぁ……これもまた難しい問題だ。


 

 ――ま、どこもかしこもラブコメの世界が広がってて、見ている分にはめちゃくちゃ面白いけどな。



 その後、俺たちはしばらく雑談し、明日も学校があるので夜遅くまでにならないよう、早めに解散した。



 今日は勧誘活動に始まり、俺たちのグループに晴菜も加わって、親睦もかなり深める事ができた良い一日になったと思う。



 なんだかんだで、俺の学校生活も順調に進んでいるな――


 

 


 


 

 

 

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