第13話 ボディーガード
今日、俺は新聞部の手伝いで新入生にチラシを配る仕事を任されていた。
入学式なども終わって、正門付近には新入生がなだれ込んでくる。
とりあえず、俺は人が近くに通るたびにチラシを配っていく。その中で詳しく新聞部の話が聞きたいと思った子がいた場合は、琉生たちにパスする流れとなっている。
要するに俺の仕事は、ひたすらにチラシを配れって事だな。なんか当選するために頑張っている政治家みたいだなこれ。
ただひたすらにチラシを配っていく俺。松家さんや琉生の方に少し目をやると、個別に新入生に対応している姿が見えた。新聞部も順調のようで一安心だ。
そうして少し時間が経って人の流れが落ち着いてきた頃、誠一たちが手を振りながらこっちに来る姿が見えた。
誠一の他には二人いて、妹の彩夏ちゃんと……あと一人の可愛い女の子は誰だろう?
「拓海は新聞部の手伝い?」
「おう。暇だったから働いてるぜ」
「なるほどね。拓海がいたから幻かと思ったよ」
「ひどいぞ誠一。俺はそんなレアキャラじゃねぇよ」
まずは誠一がいつものように俺に話しかけてくる。
いや幻て。
まぁ……自分を少し変えてよく見せている今はともかく、中学時代だったら絶対にありえなかったけどな。そもそも友達も少なかったけどね!
「あ、あの……水城さんこんにちは」
「おっ、彩夏ちゃん。入学おめでとう。新聞部のビラも一応渡しておくな」
彩夏ちゃんは少し下を向いて小さい声ながらも、俺に挨拶をしてくれる。
内心では距離感がまたリセットされているのでは? と思っていたりもしたが、俺が彩夏ちゃんに自分の事を打ち明けた事もあって、信頼はしてくれているらしい。
彩夏ちゃんとはほどよい距離感で接して、徐々に彩夏ちゃんのトラウマや不安な気持ちがなくなっていくといいな。
そして……あと一人の女の子は誰なんだろうか。俺はその謎の女の子に質問することにした。
「それで誠一と彩夏ちゃんは分かったけど……君は誰?」
「私も彩夏と同じ新入生の、
「あっ、ど、どうも」
「気軽に
俺のコミュニケーション力の低さが露呈されるところだったが、何とか後輩のコミュニケーション力の高さに救われた。
だってよ、俺、初対面の人と話すの苦手なんだもん。
てか俺の周り、陽属性多くね?
その明るさに耐え切れずにもう消滅しちゃいそうなんだけど?
あと彩夏ちゃんもそうだけど、この後輩もめちゃくちゃ容姿が優れている。
彩夏ちゃんのボブの髪型も似合ってるし、この後輩……晴菜のミディアムヘアも凄く似合っている。
あれ? 俺だけレベル違いすぎない? 不良品でゴミ扱いされないよね?
「晴菜は彩夏の友達でね。前にも拓海に少し話をしたと思うんだけど、彩夏のボディーガード的な役割をしてくれているんだ」
「あぁこの子なんだ。だから誠一とも面識があるのか」
「ですです。彩夏から誠一先輩とも仲良くなったんですよ。よく家にもお邪魔しますし」
誠一と晴菜が、彩夏ちゃんを含めた三人の関係について簡単に説明する。
彩夏ちゃんにはボディーガード的な友達がいると確かに聞いていたが、まさかこんなにも早く出会えるとは思っていなかった。
うん……ちょっと待てよ? よく家にもお邪魔する?
「誠一先輩も意外とだらしないですからねぇ。彩夏も困っちゃうよね?」
「え、えっ!? 私はそんな所もあっていいとは思うけど……」
「彩夏はそっち派かぁ。ま、その方がイジリがいあるもんね」
おい誠一。まさかお前もラブコメの主人公か?
義妹にあざとい後輩とは……琉生と松家さんとはまた違った感じだな。これはこれで尊いからヨシっ!
いやーどいつもこいつもラブコメしてんなぁ。
俺が異常なのか? 普通に俺以外の奴らは恋愛してるのか?
「あっ。誠一、今日の夜に皆でご飯食べに行かないか? 琉生たちは行けるみたいだぞ」
「ごめん拓海。今日は彩夏の入学祝いで、家族でご飯を食べに行く予定がもう入ってるんだ」
「あ~それがあったか。そりゃしょうがないな。それはそれで楽しんでくれ」
後輩の登場で忘れていたが、俺は今日の夜に皆でご飯を食べに行く予定を思い出して誠一にも声をかけた。
彩夏ちゃんとも少し仲良くなったことだし、せっかくなら兄妹で……とも思ったが、家族の用事があるなら仕方がない。入学祝いは大事なイベントだろうしな。
「拓海たちは気にしなくていいよ。僕たちは僕たちで楽しむから、拓海たちは拓海たちで楽しんできて」
「ありがとな。また今度誘うわ。というか、茜が黙ってない」
「間違いないね」
それでこの話題は終了……と思ったのだが、晴菜が勢い良く手を挙げてハキハキとした明るい声で話し始めた。
「はいっ! ご迷惑じゃなければ、私が参加したいです!」
この展開は俺も予想していなかったので、急いで思考を巡らせながら晴菜にどう返事をすればいいか考える。
「ほ、本当にいいの? 誠一たちもいないわけだし、知り合いもいないよ?」
「何言ってるんですか! 拓海先輩とはもう知り合いですよ!」
「いやっ、まぁそれはそうなんだが」
もしかしてこの子、外交的で活発な茜タイプかもしれない。
それについさっき会った人を知り合いって言ったらダメだよ? 簡単に人を信じるのは危険だからね?
「わ、分かったよ。俺以外だと松家さんとかが参加するんだけど……。えと、あそこで話してる女子なんだけど」
俺が松家さんの方に指を差して晴菜に説明する。
松家さんも俺たちの視線に気づいたようで、笑いながら軽く手を振ってくる。相変わらず可愛くてヒロイン力が高いな、おい。
「松家さんの話も少し聞いたことがありますよ。というか、めっちゃ美人さんじゃないですか! 拓海先輩の彼女さんですかっ?」
「そんなわけなかろう。俺は主人公じゃない」
「どういう事ですか?」
「役者が違うって事だよ」
「んん?」
晴菜は俺の話す事がいまいち理解できないといった様子だった。
そうだ、それでいい。
ラブコメのヒロインたるもの、鈍感な方が可愛さも増すってもんだ。
やけに自分の立ち位置を理解してたりしたら、それはそれでめちゃくちゃ怖いもん。
俺とは違って持ってる奴は勝手にラブコメして、持ってない俺はそれを眺めて楽しんでいるだけでいい。
幼馴染、同じ部活、先輩後輩……そんな関係をただ見ているだけで、俺は楽しめるから。
属性を持ってる奴らは持ってる同士、楽しんでくれ。
「ん―拓海先輩も話に聞いてただけあって、とても面白そうですね。学校生活がまた一段と楽しくなりそうです」
「誠一、彩夏ちゃんの時もそうだったけど変な事言ってないだろうな?」
誠一は、俺の追及を何の事か分かっていないような様子で笑ってごまかす。下手な演技しやがって。
いったい、俺について何の話をしてるのやら。悪い事は言ってなさそうなので、別にいいはいいんだけど。
「あと拓海先輩と連絡先交換していいですか? よければ私もグループに入りたいです!」
「全然いいよ。それにまた後で集まった時、俺の友達の茜にも色々と伝えとく」
「……意外と先輩って、女の子の扱い慣れてます?」
「どこをどう見てそう思ったのか、全く分からない件について」
晴菜は俺に疑いの眼差しを向ける。
疑われるも何も、俺にそんな要素なんてはなからないのだが?
「だって、接し方とか見ててそう思いますもん。名前で呼ぶのとかも慣れてますし、せっかくのイジリチャンスが……」
「イジろうと思ってたのかよ。俺の場合は何かと特殊だからなぁ。参考にならないかもしれない」
松家さんや誠一はともかく、琉生と茜というひたすらに突き進むぶっ壊れキャラがいるからなぁ。
運営さん、下方修正しなくて大丈夫ですか?
「イジろうとしてたのは冗談ですよ。まぁこうやって色々と話しましたけど、改めてよろしくお願いしますね、拓海先輩っ!」
こうして、部活にも入っていない俺だったが、ひょんなことから後輩とのつながりができた。
誠一が俺の事をどう思ってどう話しているのか、彩夏ちゃんや晴菜の反応を見てより気になったけど……。
今の俺ってどういうキャラになってるんだ?
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