第8話 新聞部にお邪魔します
学校を一通り回った後、俺たちは誠一の提案で新聞部の部室に向かっていた。
部室に向かっている時に彩夏ちゃんが少し不安そうな表情をしていたので、俺は彩夏ちゃんに少し安心してもらうために声をかけた。
「大丈夫だよ彩夏ちゃん。今から会う琉生や松家さんも、俺や誠一と仲が良くて二人とも優しいから。ドーンと構えておけばいいよ」
「ドーンと、ですか?」
「そうそう。琉生は苦手かもしれないけど、馬鹿な男だと思ってたら問題ないから」
琉生も俺や茜と同じで、勉強はあまりできないタイプである。
ただあいつ、意外と効率よくこなして補習からはいつも逃げ切ってるんだよなぁ。主人公補正働いている?
「僕が言うならまだしも、琉生とあまり成績が変わらない拓海が言うのはダメじゃない?」
「あ~優等生のコメントは聞きたくないですよっと。お前は何で勉強できるキャラやねん」
「多少の勉強はしないとね。それで話を戻すけど……琉生も悪い奴じゃないよ。彩夏も最初は苦手なタイプだと感じると思うけど、最初の印象だけで判断しないで欲しいな」
琉生はただのチャラいイキリキャラじゃなく、本物の陽キャ主人公だからこれまた恐ろしい。
もういい奴すぎて怖いもん。琉生と仲良くなってから、俺の読んでいるラブコメの主人公が霞んじまったじゃねぇか。どうにかしてくれよリアル主人公。
「あっ、ここだね。拓海も彩夏もドア開けるけど準備はいい?」
「おうよ。俺は全然大丈夫だぜ」
「……大丈夫」
新聞部の部室に着き、誠一がドアの前で俺たちの様子を確認する。
彩夏ちゃんは少し緊張している様子だが、俺たちの会話も聞いたからか先ほどよりは少し落ち着いている雰囲気に感じた。
それと俺は俺で、琉生と松家さんの圧倒的ラブコメ陽キャ空間に入るので覚悟を決める。
だってあの幸せな空気感、見てて楽しい時もあるけど自分の事考えて辛くなる時あるんだもん……。
だってよぉ……あの二人見てると時々自分が悲しくなるんだよぉ……。
そして、覚悟を決めた俺たちを確認した誠一が新聞部の部室のドアをそーっと静かに開ける。
ドアを開けると新聞部の部員たちは『どうした』といった表情で状況が分からずに困惑している様子だったが、俺と誠一を見て安心したのか琉生と松家さんが俺らの方に近づいてきた。
「おぉ! 拓海に誠一にどうしたんだよ! お前らも部活する気になったかっ?」
琉生は俺らに近づきながらそう話しかけてくる。
いや琉生の陽のオーラまぶしっ。サングラス誰か貸してくれない?
「意外なお客さんですね。それと、拓海君と誠一君の後ろに隠れている可愛らしい子は誰ですか?」
松家さんは俺と誠一の後ろに隠れていた彩夏ちゃんを発見し、軽く笑いながら俺たちから彩夏ちゃんの方に視線を移す。
「えっ、拓海と誠一だけじゃなくて可愛い子もいるのか? どしたどした」
「詳しい事情は後で説明する予定だけど……この子は僕の妹の彩夏。明日から正式にこの学校の一年生になるね」
兄である誠一がまず琉生と松家さんの二人に簡単に説明する。
彩夏ちゃんは琉生と松家さんの勢いに少し押されたのか、後ろに下がって誠一の制服の腕の袖をギュッとつかんでいる。
「えぇえぇぇぇ!? 誠一に妹がいたのか!」
「それは知りませんでした。改めてですけど、本当に可愛らしい子ですね」
琉生も松家さんも誠一に妹がいた事にはとても驚いたようだ。まぁそりゃそうだよな。
「てか誠一はともかく、拓海は何してるんだよ?」
「俺は誠一たちの付き添い。妹の彩夏ちゃんのために学校見学で色々と学校回ってたんだけど、せっかくなら琉生たちに会おうという流れ」
「なるほど! それなら大歓迎だ。新聞部の方も見学していってくれよ」
そういや、一年生は最初に必ず部活に入らないといけないんだったっけ。
俺みたいにすぐに部活を辞めるっていうグレーな技もあるけど、琉生や松家さんがいる新聞部なら彩夏ちゃんも楽しんで部活に取り組めるかもしれないな。
あとは彩夏ちゃんの裏の事情について、か。
新聞部には他の部員もいるわけだし、センシティブな話題でもあるのでなかなか話すのは難しいか。
こういう時は松家さんに頼ろう。どこか少し掴めない雰囲気もあるけど、松家さんは何か相談事や困った事があった時に一番頼れる存在だ。
『彩夏ちゃんはちょっと男性に苦手意識持ってる。助けてあげてくれ』
俺は松家さんに、スマホで彩夏ちゃんについての裏の事情を伝える簡単なメッセージを送った。
すると松家さんも俺のメッセージに気付いたのか、手を素早く動かしながらスマホを操作し始める。俺のメッセージを見て、返信のメッセージを素早く入力してくれているのだろう。
『了解です。また詳しい事は後で。隠れた連絡、何か秘密の関係みたいでワクワクしますね』
松家さんから返ってきたメッセージを確認する。メッセージの後には可愛い熊のキャラのスタンプも送られてきていた。
……何か松家さん少し楽しんでない?
チラッと松家さんの方を見ると、松家さんはフフッと笑って俺にだけ分かるぐらいに小さく手を振ってくる。ヒロイン力高すぎないですか?
「でもマジで誠一に妹がいたとはなぁ! 彩夏ちゃんって呼んでいい?」
「は、はい。それはご自由に」
一方、彩夏ちゃんは琉生の圧倒的主人公の陽キャオーラに押されていた。
わかる、わかるよ彩夏ちゃん。人見知りとかコミュニケーションが苦手な人にとって、このタイプは非常にきつい。
慣れるとどうってことはないし、何ならこいつすげぇっていう尊敬の気持ちになるんだけどな。初対面じゃ流石に厳しいか。
「ちょっと琉生君いいですか? これ見てください」
そして少し会話の流れが途切れたタイミングで、松家さんが琉生に自分のスマホの画面を見せる。
おそらく見せているのは俺とのトーク画面だろう。これなら自然に声を出さずに琉生にも情報を伝えることができる。流石松家さん、仕事ができる。
琉生もこういう時の察しはいい。すぐに情報を把握して自分の中であれこれと考えている様子が、傍から見ていた俺にも分かった。
「まぁいつでも力になるから、何でも気軽に言ってくれよ! 遠慮とかしなくていいからさ」
「……は、はい! わかりました」
よしよし。これで彩夏ちゃんも何とか上手く学校生活を過ごせていけそうだ。
実際に琉生や松家さん、茜などのスクールカースト上位と言われる人物の力は本当に凄いからなぁ。
えっ、俺はどのぐらいの位置だって?
俺は琉生たちの力を借りまくっているから……まぁ真ん中ぐらいかな。
安定して学校生活を送れているから全然満足しているけどね。本当に運が良いというかついているというか。
「彩夏さんもそうなんですが、拓海君も新聞部どうですか? とても楽しいですよ?」
俺のいたところに松家さんがスススッと静かに近づいてきて、俺にだけ聞こえるぐらいの声のボリュームで話しかけてきた。
彩夏ちゃんは琉生や誠一、そして他の新聞部の部員の人たちと少し話しながら新聞部の見学を始めたらしい。
「抜け目がないね松家さん。俺まで勧誘してくるとは」
「何しろ部員が多くないもので。制作の時は大変で大変で……」
新聞部は大体月に一回のペースで学校新聞を作っている。先生のインタビューや学校の行事、時事問題など様々な記事があるが、確かに制作はとても大変そうだ。
「拓海君ならそつなく仕事をこなしてくれそうですし、新聞部の即戦力かなぁと。十年に一人の逸材かもしれません」
「それちょっと嬉しいけど、プロ野球とかのドラフトとかで結構よく使われる奴!」
「ふふっ。やっぱり拓海君は面白いです」
松家さんともだいぶ仲良くなったとは思うけど、まだイマイチ掴みきれないんだよなぁ。謎も多いんだよなこのヒロイン。
新聞部を見学する彩夏ちゃんグループを見ながら話す、俺と松家さん。
――改めて考えるとこれどういう状況?
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