第7話 攻略するのに裏技は有効
「彩夏も拓海もお待たせ。ちょっと話が長くなっちゃって」
彩夏ちゃんと話し始めてからしばらくして、誠一が俺たちのもとに走りながら帰ってきた。
俺の予想通り、事務室のおばちゃんに捕まっていたらしい。
「どうせ入学がどうとかから話が広がったんだろ。あのおばちゃんは厄介だから」
「拓海の言う通りだよ。入学の事の話をしていたのに、最終的には理想のお弁当の話になってたんだから。というか拓海もあのおばちゃんの事を知ってたなら、教えてくれても良かったのに」
「ごめんって誠一。気を取り直して学校回ろうぜ」
事務室のおばちゃんのトーク力、テレビで見る大御所司会者ぐらいに凄いんだよなぁ。歳を取ってもずっと変わらずに元気なわけだ。
ま、俺としてはこれが一番良かったけどな。
彩夏ちゃんの事も知る事が出来たし、少し話しすぎたけど彩夏ちゃんに伝えたい事も話せた。二人きりになれるのも、なかなかないかもしれないし。
俺って相変わらずねじ曲がってるよなぁ。これも俺が人生に上手く馴染めなかったせい……か。
それに彩夏ちゃんは俺と似ている分もあるから聞いてくれたと思うけど、誠一や琉生たちにこんな事を話したら引かれる事間違いなしだろう。
まぁ、彩夏ちゃんも俺の話を聞いてどう思ってるかは分からないけどね?
流石に学校生活で孤独になるのは、本当に厳しいからなぁ。これは彩夏ちゃんとの内緒の話という事で。
俺はアニメでいうところのサブキャラみたいなものだから、これでいいはずだ。輝くのは琉生たちの主役キャラだけでいい。
どうせサブキャラにはスポットライトは当たらないから。
俺はそれなりに人生を過ごす事ができればいい。
幸せになろうとしてはいけない。
俺なんかが夢を抱いてはいけない。
こんな俺を全て受け入れてくれる人なんていないんだから、素の自分を抑えて人生をそれなりに生きろ。
それが……俺の生きる道なんだから。
「ただ言い訳じゃないけど、僕が長く話していた事でいい事もあったのかもしれないね。彩夏と拓海の距離感も縮まったというか、二人の雰囲気が良くなっている気がする」
「そうか? 彩夏ちゃんとはさっき出会ったわけだし、誠一の気のせいじゃないか?」
「どうかな。僕は拓海の事、結構やる男だと思ってるんだけどな」
「全くそんな事ないぞ。誠一は勘違いしてるぜ」
確かに彩夏ちゃんとは話しやすい雰囲気になった気もするが、そうはいっても出会ったばっかりで簡単に距離感も縮まらないだろう。
それに誠一は俺の事を主人公か何かだと思っていそうだが、俺はただ彩夏ちゃんに自分の事を中心に話しただけ。
俺は誰かを変える主人公にはなれない。
俺はただ主役を輝かせるだけのサブキャラだ。主役キャラの彩夏ちゃんが輝いてくれれば、俺はそれでいい。俺と違って皆は輝くべきなんだから。
「話してて長くなっちゃったのは仕方ないけど、結果オーライだったってことかな」
「おい待て誠一。まさか俺に任せて何か期待してたんじゃないだろうな?」
「さぁ、どうだろうね?」
「……ったく、誠一も馬鹿な事言ってないでさっさと学校回るぞ」
「そうだね。じゃあ行こうか」
そして俺たち三人は、図書館や教室など様々な所を見て回った。俺も入学した時は見慣れない光景に色々とワクワクしたけど、見慣れてしまった今は普通の光景になっちゃったなぁ。
「拓海はさ、学校の図書室利用した事ある?」
「いやないな。ラノベとかは普通に自分で買うし、わざわざ借りて読まん。それにカップルのイチャイチャ空間になってるから、勉強とかするのもおすすめはしないぞ」
という話をしたり……
「拓海とか琉生は、この体育館横の自販機をよく利用してるよね?」
「おう。体育館裏にもパンの自販機があるんだけど、こっちの自販機のサンドウィッチの方が美味いぞ。品揃えも充実してるし」
という話をしたり……
「拓海は何かおすすめの学校の設備とか施設とかある? アドバイスとかでもいいけど」
「色々あるぞ。旧校舎は昼休みに人が来ないからおすすめとか、新校舎の一階のトイレが一番綺麗とか、体育館裏の水飲み場が一番良いとか」
「何か拓海の話す事はニッチだね」
「アドバイスとかも色々あるぞ。職員室は無視されると傷つくから、何か用がある時は優しい教頭先生がいる時に行くといいぞ」
「確かに無視されるのあるあるだけど」
一年も通えば学校の事も大体わかる。結局のところ、こういう少し裏技みたいな話題の方が盛り上がるし、めちゃくちゃ役に立つからな。
職員室で無視されるのとか本当に傷ついちゃうからね。先生も仕事とかで忙しいから仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ。
ちなみにの話、一年生の時に今のクラスの担任の新井先生に職員室で会った事があるが、その時は新井先生の机を見るに完全に競馬の予想してたんだよな……。
新井先生が美人なのは間違いないと思うけど、心はただのおっさんだから恋人ができないんじゃないだろうかね。
あれ? 何だか寒気が……。この話はもうやめておこう。
「これで大体は回ったかな。彩夏も何とかやってけそう?」
「うん……ありがとう」
何だろうこの既視感。琉生と松家さんを見た時と似たようなものを感じる。
本当に親密で仲も良い兄妹だと思う。これが義理の兄妹関係なんだもんなぁ……。いいなぁ。てぇてぇなぁ。
「ここで僕に一つ提案があるんだけどさ、ちょっといいかな。拓海も時間とか大丈夫?」
学校を一通り回った後、誠一が俺たちにそう話を切り出す。学校は一通り回ったはずだが、まだ何かあるのだろうか。
「どした誠一?」
「せっかくだしさ、琉生たちにも会いにいってみない? 部活をまだやってるとは思うから、邪魔をしない程度ぐらいになると思うけどさ。」
「あ~確かにそれはありかも」
「でしょ。拓海を見てて思いついたんだよね」
琉生は苦手意識があるとしても、茜や松家さんは彩夏ちゃんの大きな力になってくれそうだ。
茜とか松家さんは学校でも大きな力を持っているわけだし、彩夏ちゃんのボディーガードとしても良いかもしれない。
「じゃあ琉生たちにも会いにいこうか。新聞部の部室の方がここから近いから、まずは琉生たちだね。拓海もそれでいい?」
「おう。でも松家さんは大丈夫として、俺は彩夏ちゃんと琉生の相性が心配だ」
「うーん、危険だと思ったら拓海が琉生を押さえつけといて」
新聞部は確か三階の進路相談室の近くで活動しているんだっけ。俺も何回か行ったことがあるけど、琉生と松家さんの空気に押されるんだよな。幼馴染の空気、いと強し。
琉生は優しくて陽キャでイケメンのザ主人公キャラだが、彩夏ちゃんとはちょっとばかり相性が悪そうなんだよなぁ。グイグイ来るタイプだから、彩夏ちゃんも琉生に対して恐怖感を抱いてしまうかもしれない。
琉生もスクールカースト最上位の圧倒的強キャラなのは間違いない。彩夏ちゃんと繋いで仲良くなることができれば、彩夏ちゃんのトラウマも克服できるかもしれないよな。
となると、俺が頑張って押さえつけるしかないねこれ。
「任せろ誠一。琉生の扱いには慣れてるからな」
「流石だね。じゃあ二人とも行こうか」
こうして俺たちは学校の施設を一通り回った後、新聞部の部室へと向かった――
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