第3話 新学期スタート

「それにしてもさ、私たちって神に恵まれてないっ? もう神の御加護を受けちゃってるよねこれ。もはや私が神だよね」

「勝手に神を名乗っちゃダメだぞ」


 俺は茜の言葉にツッコミを入れながら、改めて新しいクラスの事について考える。


 館山みたいな一部苦手な奴もいるが、基本的には仲が良い琉生たちと一緒になれたわけだし、これなら良い学校生活をまた送っていけそうだ。

 体育祭や文化祭、それに二年生は修学旅行など学校の行事も多い。修学旅行の班決めとか争いの火種にしかならないからな。不要物扱いされて、俺の事で揉めていた中学時代は軽くトラウマだ。


 学校生活は集団生活なわけで、まず集団でいないと人権がないんだよなぁ。そういった事からも、高校でこうして仲良いグループができたのは本当にラッキーだった。


 俺、琉生、松家さん、茜……それと実はもう一人いるんだが、そいつは俺よりも夜型人間なので、いつも遅刻するかしないかのギリギリの時間で登校してくる。


 新学期の初日で遅刻は流石にヤバいぞ? と思いながら、俺はチラッと時計を見る。茜たちと話していたらいつの間にか時間も結構経っていたらしく、始業時間の五分前ぐらいの時間になっていた。


 そんな事を思っていたら、微かだが階段を勢いよく上る音が聞こえてきた。何とか今日は間に合ったみたいだな。


「はぁっ、はぁっ……間に合った。おはよう皆……」


 教室まで全速力で走ってきた後、教室に入ってきて俺たちに瀕死状態ながらも挨拶をしてくるこの一人の男子こそ……俺たちのグループの最後の一人だ。


 名前は、只野ただの 誠一せいいち


 誠一は琉生とは違って物静かなタイプの男子で、俺の一番のオタク友達でもある。 

 ただ俺とは違って、誠一は勉強ができる優等生タイプ。あと眼鏡もかけているが……眼鏡は勉強のしすぎではなく、ゲームのし過ぎで目が悪くなったらしい。なんじゃそりゃ。


「大丈夫か誠一? どうせまた深夜までゲームしてたんだろ?」


 俺は少し瀕死状態から回復しつつある誠一に質問を投げかけた。誠一はゲームが特に好きで、ソシャゲなどのイベントは不眠不休で頑張るぐらいにガチ勢だ。


 何でそれで勉強ができるのかは俺もよく分かってないが……塾に通っている事、それに授業でだいたいは理解はできるので、勉強の方は全然問題ないらしい。

 確かに誠一の集中力は物凄い。流石は不眠不休でゲームのイベントを走るだけの事はあるって感じだな。


「昨日は塾もあって日中はあんまりゲームをやる事ができなかったから……深夜にやるしかないよね」

「なるほど。それでいつも通り遅刻するかギリギリだったんだな」

「でも流石に新学期の初日は焦るね。また皆と一緒のクラスになれたのは嬉しいけど、拓海も僕だけハブかないでよ」

「誠一が学校に来るのが遅かっただけ定期」


 一年生の頃、俺はたまたま席が近かった琉生や松家さんと仲良くなることができ、その流れで茜とも仲良くなることができた。

 

 そんな仲良くなった時に、俺たちはクラスにまだ馴染めていなくて一人でいた誠一を見つけた。そんな一人でいた誠一を俺たちが誘うようになり、どんどんと仲良くなっていったという流れだ。

 茜のフレンドリーな性格や琉生の明るさ、それに俺も少し昔の自分と重なった事など……色々な要因が重なったってのもあるだろう。


「でも拓海や琉生とかならともかく……僕なんかが一人になればボッチ確定だから、本当に助かったよ」


 そんな事を言いながら自分を卑下する誠一の肩を琉生がガシッと掴み、グワングワンと誠一の身体を揺らす。


「そんな悲しい事言うなって! 俺も拓海もクラスが違ったとしても絶対一緒にいるし、クラスでも上手くやれてたって!」

「ほ、本当……?」

「おうよ。その世界線なら、俺たちが誠一を迎えにいってたに決まってるじゃんかよ」

「眩しい……本当に眩しい」


 少し言葉にすると恥ずかしい事もストレートにハッキリと言えるのが、琉生の凄い所だなぁと改めて思う。


 分かるぞ誠一。こんなポジティブで本物の陽キャでイケメンの琉生は、本当に太陽のように眩しいよな。そりゃ松家さんのような美人の幼馴染もいるわけだ。


「た、拓海も僕を見捨てない?」

「どいつもこいつも俺を何だと思ってるんだよ。誠一は俺としても数少ないオタクトークを出来る仲だし、見捨てたりなんか絶対しないって。あ、てか茜」

「どしたよ兄貴」

「誠一は俺みたいに良いあだ名案とかないのか?」


 俺の事を「兄貴」とあだ名で呼んでいる茜だが、誠一も俺と同じオタク仲間でもあるし、俺と同じようにあだ名で呼ぶことはないのかと俺はふと気になった。


 茜はそんな俺の問いを受け、うーんと唸りながらあれやこれやと色々考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「うーむ……兄貴の場合はピッタリだったし、本当にミラクルだったからねぇ。じゃあ……兄貴二号機!」

「あっ、普通に僕は名前呼びでいいです。誠一で」

「んー残念! やっぱあだ名呼びは兄貴だけの運命なのか!」


 どうやら誠一の場合は、しっくりくるあだ名が思いつかなかったらしい。

 むしろ何で俺の「兄貴」はしっくりときてるんだよ。別に俺は全然不快じゃないからいいんだが、俺ってそんな兄貴みたいな感じなのか?



 そしていつものように話していると、始業時間のチャイムが鳴って先生も教室に来たので、俺たちは出席番号順に席に座る。名字の関係で俺の前の席は松家さん、後ろの席は琉生だ。


「あ~今年の二組の担任の新井あらい理奈りなだ。一年間よろしく。担当教科は数学だから、授業でも結構会う事になるか」


 担任の先生が軽く自己紹介をすると、教室内は少しザワザワとして色々なクラスメイトの声が聞こえる。


「なぁなぁ拓海。俺らの担任の先生、大当たりの理奈ちゃんじゃん。やっぱめちゃくちゃついてるぞ俺たち」


 後ろの席から、少しボリュームを落とした声で琉生が話しかけてくる。


 理奈ちゃんこと新井先生は、生徒指導として厳しい一面もありながらも、授業が分かりやすくて面白い事から人気のある先生だ。 


 俺たち学生の要望とかも出来るだけ汲み取ってくれるし……それにめちゃくちゃ美人な事からも学生人気はめちゃくちゃ高い。

 新井先生本人は恋人がいない事を自虐的に言っている時もあるけど、まだ二十代後半だからチャンスはあるはずだ。たぶん…‥いやきっと……ま、まぁおそらくね?


「はいはい静かに静かに。私が担任なのを喜ぶのは結構な事だが、二年生になった自覚を持ってこの一年をしっかりと頑張るように。じゃあまずは今後の予定について話していくから、筆記用具出してメモの準備な」



 ついに始まる新学期。


 新しい教室やクラス、そして高校二年生になって色々と変わる事や大変になる事もあるだろう。


 ただもう辛い学校生活を送らないようにするためにも……頑張らないといけないと俺は改めて思った。

 




 


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