第2話 マネージャー
俺はピロティで会った琉生と松家さんと共に、二階の教室に向かっていた。
一年生の時は教室が一階だったが、何か教室の階が一つ上がるだけでも二年生になったんだな、と実感させられる。
一年前の俺は、高校生になって中学のような悲惨な学校生活を送らないんだ! って強く意気込んでたなぁ。
大丈夫だぞ過去の俺。今のところは楽しく学校生活を過ごす事ができてるから。
「あっ、ここが私たちの教室ですね」
俺たち二年二組の教室の扉の前に着くと、松家さんが小さな声で呟いた。
ここから一年間はこの教室で勉強するんだなぁ……。高校二年生の学校生活もどうか何事もありませんように。学校生活ってのは、些細な事で急に壊れるものだからな。
そんな事を神に少し願いながら、俺は教室の扉を開けた。まだ半分ぐらいしか教室にはいないが、知らない同級生の子もチラホラいて少し心拍数が上がる。
慣れるとどうって事はないのだが、人見知りの俺は初対面とか顔合わせみたいな時がとにかく苦手だ。琉生や松家さんも今は普通に話せるものの、出会った頃は緊張して何を話したかもあまり覚えていない。
とりあえず席に荷物を置くか……と黒板に書かれている席順表を見て、自分の席へと向かう。最初の席順は分かりきっていた事だが、出席番号順らしい。
ちなみにの話だが、俺の名字は水城で『み』。琉生も名字が宮本だから『み』だし、松家さんは『ま』なので自ずと席が近くなる。
一年生の頃も席が近くて、そこから琉生と結構話すようになって仲良くなったみたいなところもあるし……席が近かった人と仲良くなるのは学校あるあるだよな。
そして自分の席に荷物を置き、まだ時間もあるしゆっくりするかぁと思っていたら、後ろからドンッ! と強く肩を叩かれた。
「いてえっ!」
「ごめんごめん。兄貴おーはよっ。琉生と玲奈ちゃんもおっは~!」
「挨拶だとしても力強すぎるって。本当に茜は相変わらずというか、いつでも元気だな」
「えへへ~ちょっと張り切り過ぎちゃった。私はいつも元気だよっ!」
俺たちに絡んできたのは、野球部のマネージャーでいつも明るい元気っ子、
まぁ琉生や松家さんとはまた違って、茜の場合はフレンドリーでフランクな人だからなぁ。茜は誰とでも仲は良いみたいなイメージもあるし、初対面で会った時から名前で気軽に呼んでと言っていたが、俺には絶対言えない言葉だ。
そんな友達も多い中で何故か俺たちの事が特に気に入ったらしく、よく絡んでいるといえばよく絡んでいるんだが。
「そういやさ、何で茜は拓海の事を兄貴って呼ぶようになったんだっけ」
「おぉ琉生君! それはいい質問ですねぇ! ならばお答えしましょう!」
「なぁ拓海。何で急に某ジャーナリストみたいになってるんだ?」
「茜はボケたがりな性格だからな」
確かに茜と仲良くなってから最初は名前で呼ばれていたけど、いつの間にか茜が「兄貴」って言う呼び方を気にいって定着したんだよな。俺もその辺の記憶は曖昧だし、琉生が気になるのも無理はない。
「えーとね、兄貴こと拓海がアニメやスポーツを見るのが好きな事を知って……それで結構話が広がったんだよね」
「あー思い出した。それで俺の知識量に驚いた茜が、兄貴ってふざけて呼ぶようになってから定着していったんだよな」
「そうそう。何となく拓海はあだ名の方が良いかなって」
「俺だけあだ名呼びなのはちょっと納得いってないぞ」
「だって拓海は面白いもん。好きなお笑いも合うし、芸名みたいなものだよ」
何だよ好きなお笑いが合うって。コンビ組む時のお笑い芸人じゃないんだから。あと勝手に芸名決めないで?
でも実際に茜とは色々趣味や好きな事も合うし、茜と話すのはかなり楽しい。ほとんどは茜がボケて、俺がツッコむみたいな感じだけどね。
また茜はフランクな事から距離感が近い。俺もたまに茜と付き合ってるんじゃないかみたいな事を言われるぐらいだ。
でもそこについては考えて欲しい。茜は野球部のマネージャーであり、誰とでもフランクに接して性格も良く、おまけに美人ときた。
そういった色々な点からも、茜は男子から絶大な人気を誇るアイドル的存在になっている。
それにフレンドリーな性格という事は、それに応じて友達と多いという事。野球部のマネージャーという事からも、ライバルはめちゃくちゃ多いはずだ。
俺も勘違いはしない……というより、既に恋人や好きな人がいるみたいな噂も聞くし、別に俺自身も恋愛しようとは思わない。
そもそも友達だからといってプライベートで話したくない事もあるだろうし、付き合っていたとしてもわざわざ改まって言わない事がほとんどだしな。
ちなみに茜の彼氏筆頭候補として言われているのが……野球部のエースの
俺が嫌われている理由はほぼほぼ予想は出来ている。どうせ茜と仲良くしているのが気に食わない、みたいな感じだろう。
それに茜から館山への好意は不明だが、館山から茜の好意は分かりやすいぐらいに溢れ出ている。茜は鈍感だから全く館山の好意には気づいてないみたいだけど。
とまぁ噂をしていたら何とやら。俺たち二組の教室に館山が入ってきた。仲良い奴もいれば、仲が悪い奴もいるのがクラス替えというものである。
「そういや健吾も同じクラスだったね! 二年間よろしく~!」
「おう。茜もよろしくな」
館山は茜の挨拶に少しそっけなく返していたが、俺からしてみれば好意をバレないように隠そうとする一人の可愛い男の子にしか見えない。
いじめられていた経験からかよくアニメを見るからか要因はあまり分からないが、人を観察することはかなり得意だと自分では思っている。
そんな俺の心に気付いたのか、はたまた茜と仲良くしている俺に腹が立ったのかは分からないが、館山は俺を目の敵にして一瞬ではあったが睨みつけるような表情で俺を見ていた。
こういった事にはもう慣れている。中学時代に散々と経験したし、あの時に俺をいじめてきた奴らと同じ顔だった。
俺が気にいらないならいっそのこと素直に俺に直接言えばいいとも思うが、俺と茜が仲良くしている手前、うかつに行動ができないんだろうな。
俺は実際に館山はあまり好きじゃないが、容姿としてはかなり優れている方だと思うし、茜とは同じ部活でエースとマネージャーという関係……スポーツ漫画の王道展開じゃないが、恋人関係になったとしても納得はできる。
そう思うと茜もラブコメ属性持ってるなぁ……。琉生と松家さんは幼馴染の関係、そして茜と館山は野球部のエースとマネージャー。
ラブコメ好きで恋愛には無縁な俺は、今後どうなるかを楽しみにしながら見守らせてもらうとするか。
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