第26話【臨パ】裏切り【動物園D】

さて問題です。

此処は動物園ダンジョンの何層でしょうか?

ヒントは周囲の竹林です。


10、9……2、1、0――


はい。時間切れです。

正解は下層第3層の121層から149層の何処かでした~。


「うーん。まさか上層8層から下層121層以下に飛ぶとは思わなかったよ……」


テヘ。


事の発端は動物園ダンジョンでの臨時パーティだ。

そこで、オレは因縁のあるプレイヤーと再会した。

オレがまだ男だった際、一服盛られて昏倒している間にダンジョンクローズに巻き込まれ、オレの胴体が真っ二つになって、師匠に助けられた結果、身体が女の子になった。

その原因を作ったプレイヤーの1人と邂逅したのだ。

勿論、あの時のオレは男だったので相手はオレをオレと認識していないし、オレもオレで、やり直して別の身体になったのだから過去の事は綺麗サッパリ清算――とはいかなかった。

やはり、あの時の事をオレは忘れ去ることは出来なかったのだ。

だから、あの時、何があったのか知りたくなった。

ついでに少しばかり驚かせて、怖い目に遭わせてやろうと思った。

言わば、興味本位と復讐心だ。

そして、今のオレにはそれを簡単に実行出来るだけの力があった。


「正直やりすぎたか。レベル11の盾使なんて此処じゃ肉壁にもならない」


オレはBPバックパッカー兼盾使の少女へ視線を向ける。

当人は、転移罠の影響でただいま気絶中だ。

周囲にモンスターの反応がないのでまだ良いが、プレイヤーとして危機感が無さすぎると言わざるを得ない。

ま、転移罠を仕込んだのはオレなんだけどな。ハハハッ。


――罠設置クリエイトトラップ


レベル99と特定のステイタスが一定値を超えることで習得可能な闇属性魔法。

これを使ってBP少女とオレを巻き込む形で転移罠を設置し、タイミング良く発動させた。

臨時パーティには悪いことをしたが、BP少女のバックパックとポーチを置いてきたので勘弁してほしい。


「う、ううぅぅぅ……」

「起きた?」


うなされているかのような声の後、BP少女の瞼が開き――


「ヒッ!? ほ、ホワイトバンシーッ!?」


また意識を失った。

えー。そんなコントみたいな展開本当にあるのかよ……。

寝起きにこの姿はインパクトあり過ぎなのか?

ちなみに、今のオレの姿は制限解除状態だ。つまり真っ白。

流石に下層第3層をレベル9のままではBP少女まで守り切れないからな。


「おーい。起きなさい」


ペシペシと軽く頬を叩く。

全力で叩きはしない。そんな事をしたら、たぶん重症判定で脱出アイテムが作動してしまうからね?


「うぅぅ……。ひぃッ!?」

「はい。気絶しようとしない。意識をしっかり持ちなさい」


また気絶しそうな気がしたのでBP少女の頬をギュッとして顔を見る。


「大声を出すとモンスターに見つかるかもしれませんので静かにお願いしますね」


優しく声を掛け、ウィンクして笑顔を作る。

オレの言葉に、目の端に涙を浮かべながらもコクコクと頷くBP少女。

なんだか逆効果になって余計怯えさせているような気もするが気にしない。たぶん、気にしたら負けだ。


「よろしい。素直に話せば何もしないから」


BP少女の頬から手を離し、肩へと移動する。


「ひぃ……」


肩に触れたら小さな悲鳴が上がった。

オレとしては優しく触れている――ただし逃がしはしない――つもりなのだが……。


「半年ほど前に、あなたたちがダンジョンに置き去りにした男の事を覚えていますか? その後、ダンジョンクローズが起きたあのダンジョンでの事を」


オレの問いに震えながらコクリと頷くBP少女。

そうか……。覚えてはいるのか……。


「その男が死んだことも?」


コクコクと震えながら頷くBP少女。

そして――


「うあ……。あぁぁぁ……。そっか……、死んだあの人の代わりに私を……殺しに……。グス……。ううぅ……、もうヤダよぉ。あいつらの……言いなりは、ヤダよぉ……。お願い。私を殺してよぉ……うあああぁッ」


急に泣き出すBP少女。

え、えぇ……。なにこれ? 拉致したオレが思わずドン引きなんですけど?


「あ、ちょっと、そんな大声で泣いたら」


というかですね。そんな大声で泣かれたら周囲のモンスターに気付かれて――


『ミャァァァッ!!』


竹林の中から1体のパンダが残像を残しながらオレたち目掛けて走ってくる。


「ああ、もう言った傍から。――ッ。風弾ウィンドバレット


風弾でパンダの上半身が消滅する。

そして、未だ泣き続けるBP少女……。


「はぁ……。仕方ない。――ッ。聖封セイクリッドシール


オレは聖封を展開して引き籠りモードへ移行する。

泣いてる子をぶら下げてモンスターから逃げ回るより、こちらの方が安全なのだ。

そういうことで、オレはBP少女が泣き止むまで見守る事にした。

泣き始める前の言葉が気になったのだ。

それに、他のパーティメンバーは気付いていなかったが、BP少女はドロップアイテムを収納するバックパックとは別に時々腰のポーチへアイテムを収納していた。

事前の挨拶ではバックパック以外の収納方法は言っていなかったし、そもそもポーチそのものがバックパックで隠れるような位置に装備されていた。

言ってみれば、ドロップアイテムの横領というヤツだ。

もしかすると、あの一件で何かがあったのかもしれない。


しかしまぁ、あんな目に遭ったというのに、オレもお人好しだなぁ。


オレは泣き続けるBP少女を落ち着かせようと、その震える頭を優しく撫でた。


集まってきたストライクパンダたちが聖封を破壊しようと躍起になって攻撃しているのを尻目にして。

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