第24話【過去】まだおっさん【回想】

『キシャァァァッ!!』


大鎌状の前脚を振り上げオレを追走するキラーマンティス。


「うぉぉぉ。無理無理無理無理ぃッ!」


逃げるオレ。


「あのぉ……」

「黙ってろ! 舌噛むぞ!!」

「むぅ……」


小脇に抱えた幼女が何か言いたそうに口を開くが怒鳴って黙らせる。

この幼女は途中の広場で拾った。

正確には下層モンスターに囲まれていたところを攫って来た。

なんでこんな処に女の子が? と思ったし、最初は見捨てようとした。


プレイヤーは自己責任。


それが不文律だからだ。


――だが、見捨てられなかった。


なけなしの閃光弾を使ってモンスターの目を奪い幼女を救出した。

まぁ、1体を振り切れなかったので現在逃走劇の真っ最中なんだがな。


ハハハ……。


「チッ。しつこいな。だけど確かその先に……」


丁字路を右折した先に小部屋。

そこへ駆け込む。


「いいか。此処でじっとしてろ! ダンジョンが再オープンすれば脱出アイテムが使えるようになる筈だ。それまで絶対に動くな。いいか。絶対に動いちゃ駄目だ! 動きさえしなければ此処のモンスターは気付かないから!」


幼女を入り口の死角へ座らせて隠蔽ハイドアイテムを使用。

オレの視線の先から幼女が消える。

これでヨシ。

後は再オープンまでオレが逃げきれば良い。


じゃあな幼女。生き延びろよ!


小部屋から出る。


「こっちだカマキリ野郎ッ!」


拳サイズの石をキラーマンティスに投擲。

カツンとキラーマンティスの腕に石が命中しキラーマンティスの複眼がオレを捉えた。

後は全力疾走だ。

探知でモンスターの居ない場所を選択しながら、ひたすら逃げる。逃げる。逃げる。


『キシャッ!!』


「うおッ!?」


――ズガンッ!


振り下ろされた鎌状の前脚がオレの背中を掠めて床に突き刺さる。

砕けた地面が礫となってオレの背中に当たる。


「危なッ!?」


こっちは全速力で逃げてるってのにもう追いつかれたのか?

キラーマンティスの適正レベルって確か40だったか?

レベル15のオレじゃどう足掻いても太刀打ち出来ない。

同レベル帯なら敏捷力には自信のあるほうだったんだが、下層モンスターからしたらレベル15のプレイヤーなんてドングリの背比べだったようだ。

まったくもって相手に出来そうな気がしない。

というかマジで一発当たったら死ぬ。


『シャァァァッ!?』

「のわぁつ!?」


鎌をぎりぎりで回避したと思ったところで蹴りを食らって吹っ飛ばされる。


――トシュ。


壁に激突する前にオレの腹から鎌が突き出ていた。


「ッ!? ――カハッ!?」


吐血。


「ば、馬鹿なッ?」


『キシャシャシャ』


何時の間にか出現していた別のキラーマンティスの鎌がオレを貫いていた。

そんな。だって反応は無かったのに?


『『『『『シャシャシャシャ』』』』』


直後、床から這い出てくる大量のキラーマンティス。

10、20――いや、それどころの数じゃない下手をすれば100を超える?


「ハハ……。カハッ。そりゃ無理だ……。クソぉ……が」


鎌が振り抜かれオレは床に落ちた。

ドシャ。と視界にオレの下半身が落ちてきた。

天井を向くとキラーマンティスの鎌が振りあげられていた。


「終わ……り……か……」


全く、私生活は別れた嫁によって滅茶苦茶にされ、心機一転プレイヤーになってみれば姫プレイヤーのせいでダンジョンクローズに巻き込まれ。と、本当に女運の無い人生だったな。


「次があるなら男は御免だな……」


鎌が振り下ろされる。


『――。聖封セイクリッドシール聖域サンクチュアリ


――バキャン!!


キラーマンティスの鎌が何かに遮られ、直後、視界に映っていたキラーマンティスが消えた。

消えた。というよりは何かに吹き飛ばされたと言った方が正しいのかもしれない。

そして、遠のいていた意識が徐々に明瞭になってくる。


「生きてますか? 生きてますね?」


ニュッ。と、視界に見覚えのある顔が現れる。

小部屋に匿った筈の幼女だ。


「まさかお迎えまで女の子だなんてつくづく女運が無い……」

「何言ってるんです? ――本当は助けるつもりは無かったのですが少しばかり興味が湧きました。あなた人生をもう一度やり直してみる気はありませんか?」


何を言っているんだと思った。

胴体真っ二つの状態から回復なんて出来るわけが無い。

死の間際に希望を持たせてオレの反応を楽しんでいるのか?


「オレを弄んでるのか? クク。意地の悪い死神様だ……」

「死神じゃありませんよ。でも、あなたにその気が無いならこの場で殺してあげますけど」


ニッコリと笑顔を作る死神幼女。

こんなに可愛い死神になら最後に騙されても良いかもしれない。


「わかった。やり直しを希望する」

「承りました。あ、でも流石にこのままは難しいので手は加えさせて貰います」

「良いさ。もう未練も無い……」


笑みを浮かべる死神幼女にオレも笑みを浮かべて答える。

そして徐々に意識が落ちていく。


――ベースは……。え? こっちにする?

――個人的には身体能力特化の方が……。え? ダメ?

――んー。大丈夫なのかなぁ?


何か不穏な声が遠くに聞こえたが、抗議の声を上げることも出来ず、オレの意識は完全に闇の中に落ちた。

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