第23話【過去】在りし日の【回想】

最近、なんだか色々あってすっかりプレイヤー稼業がご無沙汰だった気がする。

なので、本日は久々の臨時パーティだ。

場所は上野駅近くの動物園ダンジョン。

此処は材料系のアイテムがたくさんドロップするので上層でも結構稼げる美味しい場所だ。

収納係たるバックパッカーを用意出来ればなおヨシ。


「本日はよろしくお願いします」


集合した臨時パーティのメンバーへ挨拶する。

勿論、笑顔は忘れない。

リーダーの弓使さん他、メンバー全員を確認して――な? なんで?

メンバーの1人を見たオレの頭の中が真っ白になる。

いや、臨時パーティをしている以上その可能性は有り得た。

単にオレが無かったことにしようとしていただけで、結局、ソレを深層に深く深く沈めることが出来なかっただけなのだ。


――それは、オレがおっさんだった時の最後の記憶。


「りのちゃん。どうしたんだい? まさか気分が優れないのかい?」

「あ……。いえ、大丈夫です。――はふぅ」


深呼吸して気持ちを落ち着ける。

うん。大丈夫だ。大丈夫。

もう一度その人物を視線に入れる。

あの時と比べて随分と表情に暗い影が落ちているが、その人物は確かにあの時オレと臨時パーティを組んでいた盾使兼バックパッカーの少女。

オレを裏切り、ダンジョンに置き去りにした内の1人だ。


――半年ほど前のこと。


その日の臨時パーティは、姫治癒使、従者剣使、従者魔法使、バックパッカー兼盾使とオレおっさんの5人。

中層に入ってから早々に希少レアアイテムがドロップしたことで、その日は大幅黒字になる筈だった。

そう。なる筈だったのだ。


だが――


――ガリゴリガリガリ。


鈍痛が左腕に走る。


「痛ッあッ!! のあッ!?」


振り払おうとして逆に振り払われた。

一瞬の浮遊感の後、地面に落ちたオレはみっともなくゴロゴロと転がる。

痛む身体を強引に起こしてソレを確認。


――グレートアント。


このダンジョンでは上層に棲息するモンスターだ。

中層に出現するわけがない。

何がどうなってる?

そもそもオレは何故倒れていてモンスターに齧られていた?


『キュアアア!』


グレートアントがオレに向かってくる。

とりあえず迎撃を――って短剣が無いッ!?

突進を回避しつつグレートアントの横腹に蹴りをお見舞いしてひっくり返す。

横転したグレートアントが起き上がる前に首の付け根を踏み砕く。


「あっぶねぇ……。武器を落としたのか? それよりパーティは……。は? 未所属?」


ライセンス証を表示させて状態を確認したらパーティに所属していないことになっていた。

これ、パーティから除籍キックされたってことだよな?


確か、休憩中に飲み物をもらってそこから記憶がない……な?


まさか謀られた?

軽く装備を確認したらいくつかの装備が無くなっていた。


「確定かよ。クソがッ!!」


怒鳴る。だが、それ以上に気が滅入る。

使えない姫な治癒使とその従者だったが、どうやら休憩中に一服盛られたようだ。

で、オレが昏倒している間にドロップした希少アイテムと、さらにオレの装備まで持ち去ったようだ。

幸いだったのは、治癒使のプレイヤースキルが余りにも低くて、自衛のためと耐久力上昇と継続治癒ロングヒール錠剤タブレットを飲んでいたことだ。

だからこそグレートアントに噛み噛みされても大したダメージにならなかった。


「クソ……。流石に、今のこの状態でダンジョンに留まるのは悪手だな」


まずは外に出るのが先だ。

あいつらを追い詰めるのはそれからで良い。

二度とプレイヤーが出来ない程度には懲らしめてやるさ。フフフ。


脱出アイテムを使用。


――が、何も起きなかった。


「……ん?」


もう一度使用する。

しかし、何も起きない。

何時もならダンジョン外のポータルエリアへ移動する筈なのにそれが起きない。

一瞬、嫌な予感が脳裏を走る。


「まさかな? ――我に行く道を示せよ。探知サーチ


状況を確認するにはまず探知だ。

フロアマップを確認――何か違和感のある構造? いや、歪と言った方が良いだろう。

最後に探知した時と構造が変わっていた。

そもそも繋がりが絶たれている場所がいくつかある。

背中を冷たいものが流れ落ちる。

幸い上へのルートは無事のようなので一度上層へ戻ってみる。


「な、んだと……」


上層へ出た筈なのにそこにいたのは下層に出現するモンスター。

オレはすぐに元居た階層へ戻る。

戻った筈だったのだが……。


「嘘だろ。マジかよ……」


戻った筈の階層は全く別の階層だった。

これ、あれだ。ダンジョンクローズだ。

生存率1%未満のダンジョン特定災害。


「やっと運が向いてきたかと思ったんだがなぁ……」


私生活の破綻。

メンタルもボロボロになってしまい長年勤めた会社も辞めてしまった。

出来た時間を有効に使おうと子供の頃憧れていたプレイヤーのライセンスを取得して再起をはかった。

レベルも15になりプレイヤー稼業も安定し始めた頃合いだったのだが……。

ついてない。


「とはいえ、再オープンまで生き残れば良いんだったか……」


ん? 今、自分でフラグを立てたような気がするが……、とりあえず、それは忘れよう。


「まずは隠れられそうな場所を探して後は奥の手の隠蔽ハイドアイテムで凌いでみるか……」


探知を使用して隠れられそうな場所を探す。

勿論、モンスターの配置もしっかり記憶する。

これまでの状況を考慮すると、おそらく階層関係無しにモンスターが出現している。

脱出アイテムが使用不可である以上、今のオレのレベルと装備では中層か下層のモンスターと遭遇すれほぼジ・エンドだ。


「隠れられそうな小部屋は……。あった。此処にしよう」


ルートを確認し、オレは生き残るため慎重に移動を開始した。

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