第20話【ダンジョン】仕掛け【見学会】

ダンジョン見学会開催期間中、会場となるダンジョンへは一般プレイヤーの入場が制限される。

そのためオレたちの居る第1層はイベント参加者だけだ。

貸し切りというのはなんというか新鮮だね。


この見学会、既に終了した月、火、水曜日は、空聖、弓聖、槍聖がそれぞれ引率と警護に当たったが何も起きなかった。

最終日の金曜日は剣聖が対応するので本日のみ四聖が不在となる。

そのため、おそらくテロは今日実行される筈だ。

しかし、周囲に変わった様子はない。

第1層に入った直後にこっそりと全体を探知サーチしてみたが、特段おかしな点はなかった。


――空振り?


いやそんな事はない筈だ。なら何か見落としがある?

そもそもどうやってこの護衛と監視の中で決行する?

周囲をキョロキョロしている間にも見学会の一団はフロア中央へ向かって進んでいく。


「りのさんも興味深々?」

「はい。目に見えるものが全て新鮮です」


小川さんのキラキラした目にちょっと引きながらも笑顔で答える。

てか、この娘たち距離が近くない?

最近の中学生ってこんな感じなのか?

もう君たちの新鮮な反応にオレがジェネレーションギャップ感じて素が出ちゃいそうだよ。


「はーい。みなさん注目ー!」


パンパンと手を叩いて皆の注意を引く案内役。


「これから皆さんお待ちかねのモンスターとの戦闘体験を始めます。各班のリーダーを務めるプレイヤーがモンスターのヘイトを取りますので、タイミングを見計らって攻撃に参加してみてください。倒せばレベルを獲得できますよー」


「うぉー!!」

「やったー!」

「うぉぉぉ!!」

「やぁってやるぜー!」

「漲ってキター!」


次々に上がる中学生たちの声。


「「いえーい!」」

「が、頑張ろうね。りのさん!」

「うん」


秋葉さんと神田さんはテンション上がってるし、小川さんもやる気は十分だ。


「みんな。これからモンスターを引っ張って来るからちょっと待っててね~」


治癒使さんがオレたちから離れていく。

他の班も同様にして引率役の中級プレイヤーが離れていく。

ん? 待て、これじゃ中学生の護衛が……。

ちらりと職員へ目をやる。

2人とも動揺したのかワタワタしている。


「さぁ皆さん楽しんでください。――残り短い生をねッ!」


――キィィィン。


案内役の声色が変わるのと同時に耳障りな音が響いた。


「ぐあッ!?」

「な、なんでッ!?」


直後、案内役の撃った水弾ウォーターバレットが管理省職員2人を撃ち抜いた。

恐らく致命傷。しかし、何故か2人はその場から消えない。


「――ッ? まさかッ!?」


オレは直ぐに自分の状態ステイタスを確認する。

案の定、脱出アイテムの項に“無効化ロック”の表示。

なるほど、これで退路は断たれたか……。

直後、周囲に10個の紫色の魔法陣が出現。

そこから異形クリーチャーが這い出して来る。


――召喚獣サモン・クリーチャー


使用者のレベル相当の異形を呼び出し戦闘に参加させる事が出来るマジックアイテム。

ただし、召喚できるのは1アイテムで1体のみ。


ハハハ。そういう事か。


「お、お姉さん! これ何がどうなって!?」

「ふふ。安心して、レベルの無いあなたたちなら痛みも感じない筈よ」

「――え?」

「死ぬ前に教えてあげる。私。子供って嫌いなの」

「ひッ!?」


笑顔のまま殺気の込められた視線に射抜かれた秋葉さんが腰を抜かした。

治癒使のお姉さんは召喚された異形の背後へ移動する。

それだけではない。

他の班のプレイヤーも同様に異形の背後へ移動した。

そう、つまりこの場にいた案内役とプレイヤーがテロの実行犯だったのだ。


「そ、そんなことして管理省の人たちが黙ってる筈無いだろ!」

「そ、そうだ! そうだ!!」

「それに映像で」


「あらぁ。上の人たちは差し替えられた映像を見ているわぁ。今頃、あなたたちは元気にモンスターと戦っている最中よー」


「う、うわぁぁぁ!?」


1人の少年が出口目掛けて走り出す。


「おっと、逃がさねぇよ。っと」

「ふべッ!?」


逃げようとした少年をテロリストの男が蹴飛ばした。

蹴り飛ばされた少年は勢い良くゴロゴロと転がって駆け出した位置へ戻っていく。

あー。あれは折れてるな。でも生きてはいるな。

あくまでも異形に殺させるつもりか。

すまん。少年よ。後で治すから今は耐えてくれよ。


「いやぁぁぁ!?」

「キャァァァッ!?」

「ひぃッ!?」


怯えた中学生たちが逃げるように一所へ集まる。

まるでペンギンの押し競饅頭だ。

ま、でも周囲を異形とテロリストに囲まれているしそうなるよな。

個人的にはばらけるよりまとまってくれた方が守り易いので僥倖だ。

将来プレイヤーを目指すのなら失格だけどな。


「り、りのちゃん。わ、私たち殺されちゃうの?」


秋葉さんが目に一杯の涙をためてオレの裾を引っ張っていた。


「大丈夫。きっと助けが来ます」

「ふぇ」


秋葉さんの頭を撫でてあげる。


「ほんと?」

「はい。本当です。なのでちょっと手を離してくださいね」

「う、うん?」


「さぁ。素敵な素敵な屠殺ショーの始まりよ!」


案内役が愉悦交じりの表情で号令する。

それに応じて下卑た笑みを浮かべるテロリスト。

使役された異形が触腕を突き出し。


『シャァァァッ!!』


異形が吠えた。

触腕が伸びてオレたちに迫る。

そして、子供たちの悲鳴が上がり。


――触腕が叩きつけられた。

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