第19話【ダンジョン】潜入【見学会】

平日昼前からダンジョンに入るなんていつ以来だろうか?

たぶんオレがおっさんだった頃以来な気がするな。


「はーい。ではこれからダンジョン第1層へ入場します。ここから先はモンスターが出現します。1層でも油断すればケガをしますので、みなさんは担当プレイヤーから離れないようにしてくださいね」


案内役のダンジョン管理省職員が号令する。


「はーい」

「わかりましたー」

「うひょー」

「き、緊張する」


周囲からは興奮と緊張の入り混じった様々声が上がった。

オレの周りにはオレを含めた中学生が40人。

それから案内役を含めた管理省職員が3人と中級プレイヤーが10人。


今、オレは中学生のダンジョン見学会に潜入中なのだ。


――数日前。


「それで中学生に混じって何かあれば対処して欲しいと?」

「ええ。そうなるわ」


珍しく苦虫を嚙み潰したような表情で彼女は言葉を吐き出した。

疲れているのか少々機嫌も悪そうだ。


「ふむ。いいですけど。これ実質囮ですよね? よくこんな作戦の許可が出ましたね?」

「他に二案あったのよ……。なのに、事前に破棄した筈の第三案の認可が降りたの。他二案はもっと堅実だったのに色々言われてね。はぁ……」

「なるほど」


不可解な作戦案の採用。

成功したら御の字。失敗したら大惨事。

つまり、上の方にダンジョン管理省を失墜させたい輩がいる可能性があると言う事だ。

となると、以前話した技術漏洩もその辺りなのかな……。


先日確保した男は、やはりオレが以前壊滅させたクランの残党だった。

で、自白させたらテロ計画が明るみになった。

その標的がダンジョン見学会。

ダンジョン見学会に参加した大勢の中学生を殺戮することで強制的にダンジョンクローズを発生させるというもの。

方法までは突き止められなかったそうだが、これが現実に起きれば間違いなく大惨事だ。

安心安全のダンジョン神話は地に落ち、ついでにダンジョン管理省の信用も失墜するだろう。

クラン残党が考えるにしては妄想に近いテロ計画だが、どこかのお偉いさんが噛んでいるというのなら現実味を帯びてくる。


「それでワザと警備に穴を開けてピンポイントでテロを実行させる。と」

「ええ。情報が洩れているなら四聖が同行するタイミングでは絶対に仕掛けて来ない筈よ」

「彼らはそれで一度失敗してるからね……」


あの時、ボスフロアに侵入した実行犯はオレが全員始末した。

その後、ダンジョン内に残っていたクランメンバーの掃討戦に参加した四聖が表向き最大の功労者となっている。

だから、確実を期すなら四聖が居る時に行動は起こさないだろう。

それに仮に起きたとしても彼らなら守りきれるだけの実力がある。

レベル3桁は伊達ではないのだ。

レベル2桁とは世界が違いすぎる。

例えるなら高尾山と富士山くらいは違う。


もし5日間あるダンジョン見学会の内、1日だけ四聖が居ないとしたら?

情報が筒抜けなら尚更そこを狙うだろう。

そこで隠匿されているオレの出番というわけだ。


「で、全員ぶっ殺しても?」

「構わないわ。それだけの事をするんだから覚悟くらいしているでしょう? ――でも、もし主犯格が居たらそいつの情報は抜いて来て欲しいの。もう少しで糸が繋がりそうなのよ」

「了解。しかし、当日の参加者にとってはトラウマになりそうだな……」

「そこはこちらでケアするわ。だからお願い。みんなを守ってあげて」


「……任された」


オレは珍しく弱さを見せた彼女の頭を撫でたのだった。


――


ダンジョン見学会とはライセンス取得可能年齢になった中学生を対象にして行われる中学校とダンジョン管理省の合同イベントだ。

言ってみれば社会科見学かな。

実際、本日のイベントでレベルを獲得しそのままライセンス講習へ進むものもいたりする。

なので、中学生たちは皆レンタル品の棍棒と小盾を装備している。


中学生は4人ずつAからJまでの10班に分けられていて、各班に中級プレイヤー1人が引率という形でついている。

オレはF班に割り当てられた。

なお、他のメンバーは担当のプレイヤー含めて全員女の子だった。


くそ。中学生男子諸君の純情をちょっとだけ弄んでやろうと思ったのに……。


ダンジョンの第1層は草原エリアになっていて所々に木々が生えていて、外周を木々が覆っている。

空には天井には太陽と青空が広がっていて一見すると此処がダンジョンの中とは思えない。


「地下なのに空が広がってる!」

「うおー。マジか。これがダンジョンかよー」

「モンスターは? モンスター何処だ?」


初めてのダンジョンに興奮を隠せない中学生たち。

わかる。わかるよ。オレも初めてダンジョンに入った時は興奮してテンション上がったもんなぁ。

まだ1年くらいしか経ってないけどな。


「ね。ね。凄いね! まさかこんな場所が地下にあるなんて!?」


ツンツンとオレの肩をつつきながら話しかけてきたのは同じF班の秋葉さん。

健康的に日焼けした肌とショートカットが印象的な少女だ。


「そうだね。凄いね。私もびっくり」


驚く素振りを見せながら相槌を打つ。


「空とかお日様とかまるで本物みたい」

「うん。凄い。こんな場所が地下に広がってるなんて……」


前者は髪を二つ結びにしている神田さんで、後者は癖っ毛気味の小川さん。


「はい。草木は本物ですが、空や太陽は全て幻影です。植生やモンスターの生態はある程度解明されていますが各層を構成する構造体の仕組みは未だに分かっていないそうですよ」


説明してくれたのは、オレたちの班を担当する中級プレイヤーの女性治癒使さんだ。


「珍しくて目移りするのはわかるけど、私から離れないようにしてください。モンスターは手加減してくれませんよ~」


直後、草原の中からポヨンポヨンと近づいてきたスライムを治癒使さんがメイスをスイングさせて粉砕した。


「すごッ!!」

「うわー」

「おおぉ!!」


秋葉さんたちがそれぞれ歓声を上げていた。

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