第18話 悪党退治は突然に

本日は日曜日。

何時もならダンジョンで臨時パーティに勤しむところなのだが。


悪いが今日は休暇だ。


何故なら昼飯を奢ってもらうからだ。

先日の深遠アテンドの件で、骨折情報の漏洩先と思われる人物を問い詰めたらあっさり白状した。

なので、お高い昼飯お寿司で手を打つと言ったら了承された。

それはもう呆気なく。

すんなり了承されたのでオレが拍子抜けしたくらいだ。

そんなわけで今日は高級ネタをバッチリいただくのだ。

故に朝も抜いてきた。準備は万全だ!


「で、その格好で来たと?」

「仕方ないじゃないですか。正装なんて言われても前に貰ったこれくらいしかなかったんですよ」

「普段どうしてるのよ?」

「ジャージかTシャツですかね」


はぁ。と軽く溜め息を吐くのは、ダンジョン管理省秘匿部門所属の若手ホープ――つまり、何時も仕事でお世話になっている彼女である。

そして、骨折情報を漏洩してくれたのも彼女だった。


そんな彼女の溜め息に含まれているのは怒りというより呆れだろうな。

なぜなら、本日オレが着ているのは戸籍と住居を用意してもらった際に念のためとダンジョン管理省から支給された学生服だ。

なお、ブレザーだ。セーラー服ではない。

あの時、中学生生活をもう一度。なんて答えていたら今頃は毎日これを着ていたのだろう。

まぁ、鏡を見たら意外と似合っていたし、これはこれでなんて思ってテンション上がりかけたのだが、冷静になったところで恥ずかしさが込み上げてきたのは言うまでも無い。

やはり、学生生活はオレには無理だ。


あと、ヒラヒラのスカートがちょっと落ち着かない。


「まぁ、いいわ。行きましょうか。――服の方は昼食の後でどうにかしましょう」

「はい。――ん?」


何か最後にポツリと呟いていたような気もしたが聞き逃してしまった。


「おおぉー。回ってないお寿司!」


やはりスーパーのパック寿司やお手頃回転寿司とは段違いだ。

板前さんが握って出してくれるお寿司。

滅茶苦茶美味しい。

そんなオレの食い意地を微笑ましく眺めつつ、板前さんにお子さんですか? と言われガチ否定していた彼女であった。

なお、何時の間にか親戚の子になっていた模様。


そして、美味しいお寿司を堪能し大変満足したオレは気付けば試着室の中に居た。


――ん?


「待て、何をどうしたらこうなる?」


「はい、次はこれとこれね」

「あ、はい」

「こちらも似合うと思いませんか?」

「はい。わかりました」


カーテン越しに渡される女子向け衣類。

というか、何時の間にか槍聖まで合流しているし……。


2人の威圧によってオレは借りてきた猫よろしくとっかえひっかえ服を着替えていく

でも、女ものの服ってデザイン重視だと着るのも脱ぐのもちょっと大変だよね。

なんて考えていたら、何時の間にか2人とも試着室に入ってきて着替えさせられた。

しかし、こうやって見ると素が良いから何着ても存外似合ってしまうな。

いや、彼女たちのセンスが良いんだろうけど。

数時間の着せ替え人形タイムを終えたオレは勢いに流されて何着か買ってしまっていた。

痛い出費――いや、何故か彼女たちが支払ってくれた。


「少しは普段から女の子らしくしなさいよね」

「ふふ。今度、お化粧教えましょうか?」

「確かに、良いかもしれないわね。素が良いから栄えそうだし」


店を出て通りを歩く。

槍聖と彼女が化粧の話で盛り上がっている。


「いや、流石にそれは遠慮します。これはありがたく頂戴しますけどね」


両手に持った衣類を腰のポーチへ突っ込む。

このポーチはダンジョンでゲットしたアイテムボックスだ。

見た目と裏腹に家一軒くらいの荷物を収納できる優れ物。


「それ便利よね」

「下層ボスクラスが稀に落としますよ。容量はピンキリですけど」

「なんというか、その見た目でその発言はちょっとどうかと思うわ」

「良いじゃないですか。可愛いんですし」


ニコニコと笑みを浮かべる槍聖。


「「――いや」」

「それは関係ないでしょ」「それは関係ないわよ」


何故か二人でハモるオレと彼女だった。


「ふふ――りのさんッ!」

「ッ!?」


不意に槍聖に抱き寄せられる。

と、さっきまでオレが居た場所を男が駆け抜けた。

槍聖が抱き寄せてくれなかったらぶつかっていたところだ。


「ありがと。まったく危ないなぁ。 ――ん?」


ふと、男に違和感を覚えた。


「――邪なる魔を払えよ。解呪ディスペル


こっそりと男へ解呪を使用する。と、男の顔が変化した。

やはり幻惑イリュージョン効果のあるマジックアイテムを使ってたのか。


「「あッ!?」」


オレと彼女が同時に声を上げた。

その特徴的な顔をどちらも覚えていたからだ。

ソイツはオレがダンジョンクローズ案件で壊滅させたクランの残党。

つまり指名手配犯。


「なッ!? ――クソッ!!」


オレたちの声で男は自身の顔に手を当てると脱兎の如く走り出した。


「確保します。手伝って」

「わかりました。りのさんはここで待っていてください」


男を追っていく2人と、置いて行かれるオレ。


うーん。なんか心配だから追いかけるか。

衣類の礼もあるしな。

ポーチから隠密ローブを取り出し羽織る。

これで周囲の人間にオレはほとんど認識されなくなる。

チョーカーへ魔力を流し制限解除。


「とうッ!」


跳躍してビルの屋上へ移動。


――ダンジョン外ではレベルによるステイタス補正が効かない?


それはレベル上限99のプレイヤーに限った話だ。

レベル3桁になるとちょっと事情が異なってくる。

だから日本政府は表向き四聖はレベル99と公表しているし、ダンジョンの深遠は秘匿しているのだ。


探知サーチで逃げた男を探す。


――見つけた。


って、2人とも逃げられてるじゃん。仕方ないなぁ。

ビルの屋上を移動して男の前に降り立つ。


「どけ! ガキィッ!!」


隠密ローブとは言え、目の前に立てば流石に気づかれる。

しかし、男はオレをその辺の子供としか認識しない。

隠密とはそういうものなのだ。


「やだね」

「――ッ!?」

「はい。確保っと」


オレに投げ飛ばされた男は地面に背中を強打し、そのまま意識を失った。


そして、追いついた2人にオレは感謝されることもなく怒られた。


解せぬ……。

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