第10話【臨パ】探索2【江戸D】

御江戸ダンジョンは江戸時代の街並みそのものを再現しているのかダンジョンは碁盤目構造になっている。

戸口が開かれている建物には入ることも出来るが1フロアに1、2軒あれば良い方でそのほとんどが閉ざされた破壊不能オブジェクトだ。

一応、破壊出来ない事はないのだが労力に見合ったリターンは無い。

なお、建物の中にはアイテムの入った宝箱が定期的に出現するので探してみるのも手だろう。

巧妙に偽装されているのでなかなか見つけにくいがな!


「破ぁッ!!」


剣使くんが化猫や化傘を切り倒していく。


「――水よ穿て。水弾ウォーターバレット


魔法使さんが水弾を放ち、毛玉が桶を被っているモンスターの桶毛おけを吹っ飛ばしていく。

オレはというと、剣使くんへ筋力ストレンジス敏捷アジェイル支援バフをして、魔法使さんへ知力インテリジェンスの支援をした後は快進撃に追随しているだけのお気楽モードだ。

この2人、普段からペアで活動しているだけあって連携が上手いのだ。

おかげさまで大変楽をさせていただいております。てへ。


「息ピッタリですね!」

「ありがと。なんだかんだで長いから……。腐れ縁ってやつかしらね?」


そう答えた魔法使さんはちょっと嬉しそうだ。

ただ、一瞬だけ憂いの色も見えたような……。

気のせいだろうか?


「おし! 誰も居ないな」


14層の北東広場に出て周囲を確認した剣使くんが言う。

12層は先客がいたので14層まで降りてきたのだが運が良かった。

駄目なら更に16層まで降りなければならないし、それが駄目なら18層を目指すことになる。


「りのちゃん。支援お願い!」

「はい」


言われて、剣使くんへ筋力、敏捷、ついでに守護プロテクションを掛ける。

たぶん、剣使くんのレベルだと守護はあまり意味がないかもしれないが一発KOの保険くらいにはなる筈だ。

でも、途中で1体倒しているから被弾については大丈夫だろう。

希少種レアなんて早々出現しないのだから。ハハハ。

ヤツがリポップする前にオレと魔法使さんは壁際へ移動する。

魔法使さんは背中を壁にピッタリと付け、オレは背中を魔法使さんへくっつけるように陣取る。

これは後衛が取るヤツ対策の常套手段だ。


ヤツとは御江戸ダンジョンの中層以降の偶数層に出現する特殊なモンスター。

1体しか出現しない代わりに出現ポイントがほぼ固定されており場所をキープできればほぼ独占することが出来る。

ただし、それは倒せるだけの技量があればの話だ。

中層の適正レベルは15からだが、レベル15が挑めばまず間違いなく返り討ちだ。

最低レベル20、そこへある程度のプレイヤースキルがあって初めて勝ちが見える。

そこへ支援が加われば勝利は堅いだろう。


「後ろッ!」


魔法使さんが叫んだ!


「オーケイッ!」


振り下ろされた刀の一撃を剣士くんは振り向きながら剣で受け流す。

更に1撃、2撃と互いの剣が交わり離れる。

そして、何撃目かの末、一瞬のスキをついた剣使くんがヤツの首を跳ね飛ばした。


――辻斬り。


それがヤツの正式名称。

高速で移動しプレイヤーを背後から襲う闇討ち系鬼畜侍だ。

しかも一撃の威力が高いので、警戒を怠ると背後からバッサリやられて一発で脱出アイテムが発動したりする。

バックアタック大好きな関係上、防御力の低い後衛が餌食になり易く、そのままパーティ全滅もあるのだ。

かく言うオレもおっさんだったときに一度経験している。

何時の間にか後衛が全滅し、その日の臨パは終了。結果、赤字だった。

しかし、その強さもあってドロップの換金率が良いのだ。

特に希少レアドロップは結構な額になる。ま、ほぼ出ないが……。


「おしッ!」

「やるぅ~」

「おめでとうございます」


グッ! と親指を立てる剣使くん。


復調リカバリーは必要ですか?」

「いや。まだ大丈夫だ。必要になったら言う。支援だけ切れないようお願い!」

「まったく。可愛い子の前だからって張り切って。ボロ出さないでよね!」

「おう。任せろッ!」


再び剣を構える剣使くん。

暫くしてリポップする辻斬り。

そして、剣使くんは危なげなく辻斬りと刃を交えていく。


「アレ出ると良いですね」

「そうねぇ。確かにアイツにとってアレが手に入れば一段上のプレイヤーになれるし、今より探索範囲も広がって稼ぎも良くなると思うけど……」


ふと、魔法使さんの声のトーンが落ちた。

そして、オレの肩に置かれた魔法使さんの手に少しだけ力が入る。


「心配ですか?」

「ん? そんなことは……。――いえ、やっぱり心配なのかしらね?」


プレイヤー稼業。

安全だなんだと言われてもケガをしないわけでは無い。

そもそもプレイヤー人口に対して専業は3割に満たない。

そこからクランやパーティに所属せずに食っていけるの1割も居ないし、大金稼げるソロなんてほんの一握りなのだ。

医療技術が進歩してもその恩恵を受けられるのはやはり一部の裕福層だけで、ダンジョン探索で大ケガして引退ってのはよく聞く話だ。


そっと魔法使さんの手にオレの手を乗せる。


「ですが、信じてあげるのも一つの手だと思いますよ?」

「え?」

「それでダメなら鉄拳制裁です。でも、たぶん――。あ、そろそろ支援掛け直しますね」


はぐらかす形になってしまったがそれをオレの口から言うのも憚られたので、効果時間が切れそうになった支援を言い訳にする。


丁度、剣使くんは3体目の辻斬りを倒し終えたところだった。

肩が上下に動いていたので、支援ついでに復調も使っておく。

爽やかな笑顔を浮かべたのでまだまだいけそうな感じだ。

まぁ、でも剣使くんの視線はオレでは無く魔法使さんに向けられていたのだが、果たして彼女は気付いているのだろうか?


「ん?」


ふと、魔法使さんがオレを抱き寄せる。


「それで、りのちゃん。さっきの続き。なんて言おうとしたのかな?」

「あ、えーと、それは――」


優しく耳元で囁かれて思わずビクンッドキンッとしてしまう。

不意打ちはいけない。

おっさんはそういう耐性そこまで高くないのだよ?


――ヒュッ。と風が流れた。


「不味ッ!?」


辻斬りのリポップを確認したオレは思わず声を出していた。

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