第9話【臨パ】探索1【江戸D】

ポヨンポヨンと気の抜けるような音を出しながら3体の化傘が前衛の剣使くんへ迫る。


「――彼のものを守護せよ。シールド


ポヨ――ベチッ!!


しかし、化傘はオレの発動した盾に激突し停止した。


「サンキュー。りのちゃん!」


『ブニャアァァァッ!?』


剣士くんはウィンクしながら対峙していた化猫を切り伏せて化傘へ向かっていく。

そのまま化傘1体を切り伏せる。

2体目の化傘に取り掛かろうとしたところで、風弾ウィンドバレットがその化傘を両断した。

唖然とする剣士くん。それに釣られて動きの止まる3体目の化傘。


「――風よ穿て。風弾!」


オレの後方から放たれた風弾が最後の化傘を吹き飛ばした。


「ふふん。どんなもんよ!」


そう言って自慢気に胸を張ったのは剣士くんの相棒の魔法使さんだ。

ちなみに魔法使さんは女性だ。

すらりとした長身。端正な顔立ちに掛けられた眼鏡が知的さを醸し出している。

いうなればクールビューティというヤツだ。

まぁ、可愛さならオレの方が上だがな。――たぶん?

なお、魔法使さんの眼鏡は伊達だ。

ダンジョンから産出されるアイテムで医療技術が大いに発展した結果、視力矯正用の眼鏡はマイナーになりつつある。

最早、純粋な眼鏡っ娘は希少価値でありステイタスともいえるのだ。


と、話が脱線したが、本日の姫活――もとい臨時パーティは、レベル20の剣士くんとレベル22の魔法使さん。それとオレの3人パーティだ。


ん? なぜ女性プレイヤーがパーティに居るのか?

姫を目指すなら逆ハーレムが基本?


そんなの簡単な話だ。

姫をやるのにパーティメンバーが男である必要性はない。

オレの目的はパーティメンバーからチヤホヤされて楽する事だからな。

そこに性別は関係無い。

むしろ綺麗なお姉さんはウェルカムである。


「って、あっぶねーな! 俺に当たったらどうすんだよ!?」


剣士くんが魔法使さんに文句を言っている。


「あら。そんな下手は打たないわよ。――それにちょっと掠めたってりのちゃんが居るから問題ないでしょう?」

「はい。治癒ヒールはお任せください! でも誤射フレンドリーファイアはほどほどにお願いしますね?」

「んー。りのちゃん可愛い。妹にしたいくらい」

「えへへ」


魔法使さんはオレの肩に手を置くとそっと抱き寄せた。

ポヨヨン。と後頭部に柔らかいものが当たる感触。

うーん。役得役得。

年上の美人なお姉さんの包容力。最高だ。

いやまぁ、中身おっさんの年齢で考えると剣士くんも魔法使さんも歳下になるけどな。

しかし、そんなことは些細なことだ。

だって、今のオレは表記上13歳なのだから。


「おいおい。可愛いのはわかるがあんまり甘やかすなよ?」

「はぁーい」

「ハハ……」


苦笑いを浮かべる剣士くん。


「あ、そこの角に豆腐小僧2体。――来ます」

「オーケー任せて。――風よ穿て。風弾!」


魔法使さんが放った風弾が角から飛び出してきた一つ目の豆腐小僧の頭を吹っ飛ばす。

続けて放たれた風弾は、2体目の豆腐小僧を掠めただけで大したダメージにはならない。


『――キャッキャ!』


豆腐小僧は持っていた皿から豆腐を掴んで魔法使さんへ投擲した。


「――彼のものを守護せよ。盾」


ガキィン!!


豆腐が直撃した盾が鈍い金属音を響かせ、豆腐もろとも消滅する。

どう考えても豆腐が出す音じゃないんだよなぁ。

投擲速度も含めて、たぶん豆腐の角が頭にヒットしたら死ぬんじゃないかと思うレベルだ。


『キャーッ!?』


再び豆腐を投擲しようとしていた豆腐小僧を剣士くんがぶった切っていた。


「ナイスフォロー! りのちゃん」

「ありがとッ」


魔法使さんにギュッとされるオレ。


「えへへ」


思わず口元が緩んでしまう。

うーん。いけないいけない。気をしっかりしなければ。


本日の臨時パーティで訪れたのは御江戸ダンジョン。

某江戸な博物館の地下に出現したダンジョンだ。

なお、上層の展示会場は今でも絶賛営業中。

とても商魂逞しい。

御江戸ダンジョンは全40階層で、ダンジョンとしては中規模に相当する。

ダンジョンの規模はだいたい30層以下が小規模、50層前後が中規模、100層を超えると大規模になる。

出現モンスターは江戸の怪異的な妖怪系モンスターだ。

どこぞのアンデットオンリーで物理攻撃無効のダンジョンと違い、此処は妖怪系なので物理攻撃が効く。

そのため此処は多くのプレイヤーに親しまれている。

それに最寄り駅からのアクセスも良いからね!

交通の便が良いのは大事なのだ。

ま、都内のダンジョンは総じて交通の便が良いのだけど。


「和やかムードも良いが、ここから先は気を抜くと痛い目に遭うぞ?」

「わかってるわよ。あなただって気を抜かないでよ。前衛が落ちたら総崩れなんだから」

「はい。気を付けて行きましょう。私も精一杯サポートしますので!」


胸の前でグーを作って頑張るアピールだ。


「りのちゃん。可愛い!」


魔法使さんには効果抜群だ。

剣使くんはちょっと苦笑いを浮かべていたけど。


既にオレたちは10層の上層ボスを撃破して11層を踏破、12層に到達していた。

ここからが御江戸ダンジョンの本番と言えるだろう。

そして、本日の目的となるモンスターが出現するのが此処なのだ。

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