第8話 平日は

朝8時を告げるアラームをスマホが奏でている。

いや。これはそんなお上品な曲ではない。ただのベル音だ。

耳障りなスマホのアラームを停止させ、ベッドから上半身を起こししばしばボーっとする。


「ふわぁ~あ」


大きな欠伸を一つ。

朝は気怠いのだ。

3回に1回は上半身を起こすのも億劫になって二度寝モードへ移行することもあるくらいには……。

そう眠気には勝てないのだ。

だって女の子だから。

おっさんだったときは朝6時に起きて7時には家を出ていたのだが、今は8時にアラームをセットしている。

しかし、身体が違うとこうも変わるものかと最初は変化に驚いた。今は慣れたが。


「起きるか……」


いつのまにか30分過ぎていた。

だからと言って慌てることはない。

普通の13歳なら中学生なので遅刻を覚悟する時間だが、オレは慌てない。

そもそも、オレの今の職業は専業プレイヤー。

言わば自営業だ。かっこよく言うとフリーランス。

13歳だけどな!


――15歳までは義務教育?


確かにそうだが、漫画じゃあるまいし40過ぎたおっさんがまた中学生やるのもどうなのよ?

そもそもそんな状況になったら絶対に話題が合わない。

若人たちとのジェネレーションギャップに精神を切り刻まれること間違いなしだ。

つまり、絶対に浮く。

後、着替えとかどうするんだ?

見た目女の子でも中身はおっさんだぞ?

女の子とのキャッキャウフフは大歓迎だが中学生は不味い。ロリコンになってしまう。

きっと事案臭しか発生しない。バレたら社会的に死ぬ。

そうなったらダンジョンに引き籠るしかないじゃないか。

それは嫌だ。オレはチヤホヤされたいのだ!

ということでキッパリと辞退させていただいた。


顔を洗ってさっぱりして、寝間着から部屋着へ着替える。

ロンTからジャージに変わっただけだがな。

なお、どちらも大きめサイズなので裾は膝上くらいまである。

故に下はブラトップとパンツだけだ。

別にこれで出かけるわけではないので必要十分。

女の子になった際に一度はやってみたい格好だったのだが予想以上に楽だったのだ。

新たな境地である。


朝食の準備をしてテレビをオン。

丁度ダンジョン関係のニュースがやっていた。

ただし、先日のお台場ダンジョンでぶっ殺したプレイヤーの所属クランや救助したプレイヤーについてのニュースは無かった。

情報規制だけはしっかりとやっているようだ。

まぁ、こればかりはデリケートな問題だからなぁ。


「はぁ~。朝のカフェオレ美味し」


インスタントのカフェオレに牛乳をちょい足しすることで飲みやすい温度になるし、まろやかさがプラスされて良い塩梅になる。

程よい甘さのカフェオレにバターの効いたクロワッサンも良く合う。


美味しい……。


TVのチャンネルを変えてみるがダンジョン関連で目立ったニュースは無かった。

強いて挙げるとすれば、どこかの大手クランが未踏破ダンジョンの下層到達数を更に伸ばしたくらいか。

一般プレイヤーが深遠に到達するのはまだ先だろう。


朝食の後、タブレット端末を起動してプレイヤーズネストのアプリを開いた。

確認するのは臨時パーティの募集だ。

オレは13歳なのでプレイヤー活動は土日祝日に集中している。

平日は16時以降からしか動けないからな。

そもそも13歳が平日の昼間から臨パに参加していたら怪しまれる。

場合によっては補導か、運が悪ければ児童相談所に報告コースだ。

悪目立ちはしたくない。


「うーん。やはり平日だと美味しそうな案件は朝に集中してるなぁ。夕方からだとビギナーや初級、もしくは社会人か」


ポチポチといくつかの案件を見て、取り合えず良さそうなものへエントリーしていく。

治癒使だとレベル9でも意外とOKだったりするのだ。

後、レベル9でも採用してくれるパーティはプレイヤー側に余裕がある場合が多いので探索で苦労することが少ない。

楽できるのだ。

ちょっときつかったら段階的に制限解除すれば良いんだし。


ちなみに、ライセンス証でオレはレベル9になっているがこれはフェイクだ。

チョーカーの色が白――つまり髪が黒い時のオレは制限状態になっている。

この状態でのデフォルトはレベル9でステイタスもレベル相応だが、状況に応じてレベルとステイタスを弄れるのだ。

常識の範囲内で、ではあるがな。

制限解除状態ではチョーカーの色が黒になり全身が真っ白になる。流石に悪目立ちが過ぎるので基本お仕事以外では封印している。


実際のレベル? それは乙女の秘密だ。


TS直後はレベル1と振り出しに戻っていた。

その後、師匠との地獄のレベリング難易度ルナティックによって滅茶苦茶レベルは上がりプレイヤースキルも上がった。

正直な話、何度死にかけたか……。

いや。たぶん死んでたのかもしれないが死ぬより前に師匠に治癒ヒールされて全快。

からのゾンビアタックの如く戦わされた。

スパルタ?

そんな優しい次元は遥か後方に忘れてきてたよ。主に師匠が……。

おそらく、プレイヤーの姫を志したのはその反動も多分にあるのではなかろうか?

だって、自分は手を汚さずに周りを使うなんて、こんなに愉し――楽なことは無いのだから。


――ポン!


プレイヤーズネストからの通知音がタブレットから聞こえた。

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