第11話【臨パ】探索3【江戸D】
ガキィン!!
金属のぶつかる鈍い音が響き渡り、オレの左腕に重い衝撃が走った。
4体目の辻斬りが出現したのは剣使くんの背後では無かった。
ヤツが出現したのはオレと魔法使さんのすぐ近く。
辻斬りの攻撃動作を見た瞬間、オレは咄嗟に魔法使さんを押しのけ左手の
受け流す余裕が無かったので辻斬りの切り上げをもろに受けてしまったのだ。
結果、軽いオレの身体は呆気なく宙を舞った。
なにせ装備込みでやっと40kgを超えるかという体重なのだ。つまり凄く軽い。
うひゃー。あっぶねぇ。
吹っ飛ばされながら内心で叫ぶ。
小盾が無かったら今頃は身体が上と下で泣き別れしているところだった。
危ない。危ない。
流石に今の姿で
大ケガはご法度だ。
慢心駄目絶対なのだ。
ドシャ――。
地面に落ちる。
受け身を取ろうとしたら左手に違和感があってうまく着地出来ずに顔面から落ちた。
痛い……。
というか、これは折れてそうな気配。
いや。観測し事象が確定するまでは折れてない。そう折れてないのだ。
確定するまでは耐えられる。
これぞシュレディンガーの骨折理論だ!
「このぉ!!」
剣使くんが猛烈ダッシュで辻斬りへ肉薄しヘイトを取っていた。
「お前はりのちゃんを回収して通路へ。立て直す!」
「ええ!」
剣使くんはこんな状況でも冷静に対応していた。
そして、実は剣使くんが指示するより前に行動に移していた魔法使さんは既にオレの近くまで駆け寄ってきていた。
阿吽の呼吸というヤツかな。うんうん。素晴らしいね。
オレは魔法使さんが到着する前に何とか起き上がって状況を観察し始める。
だって、辻斬りの攻撃が予想より強力だったんだもの。
あ。こいつ、もしかして……。
「りのちゃん。いったん退くわよ」
「待ってください! ――彼の者を癒せよ。治癒」
剣使くんへ治癒を使う。
「クッ!? コイツさっきまでとッ」
圧されているのだ。先ほどまでと違い明らかに実力差がある。
いや、この場合はレベル差か。
「――其を開けよ。
走査で見えた辻斬りのレベルは31でした。
ですよねー。そりゃレベル20の剣使くんが圧されるわけだ。
これだと今のオレの支援だと剣使くんだけじゃ厳しいな。
って、それ以前に強個体じゃねーか!
誰か道中でフラグとか立ててないよな?
「私たちも加勢しましょう。一人では無理です」
「え? でもそのケガじゃ」
「大丈夫です。こう見てもプレイヤーですから」
後衛ポジだからな。左腕くらい使えなくても魔法さえ使えれば問題は無い。
魔法使さんと軽く打ち合わせてから剣使くんの支援を行う。
「――彼の者を守護せよ。
剣使くんと辻斬りの間に盾を割り込ませる。
辻斬りの刀が盾に当たり剣使くんから大きく逸れた。
「このッ!!」
その隙へ剣使くんの一閃が辻斬りを捉える。
だが、辻斬りの回避の方が早い。
「もう一度行きます!」
「ええ。わかったわ。――合わせなさいよ!」
「ん? お、おう!」
魔法使さんの声に、焦りながらもしっかり応答する剣使くん。
よし、意思疎通はバッチリだ!
『――!!』
って、あれ? 辻斬りのヘイトがオレに!?
「させねぇよ!」
剣使くんが辻斬りの前に立塞がり剣を振るう。
剣と刀が交わり火花を散らした。
更に二の太刀が剣使くんを襲う。
そこへ盾を合わせる。
再び逸れる辻斬りの刀。
「――今ッ!」
「――邪なる者を束縛せよ。
魔法使さんの発動した呪鎖によって地面から無数の鎖が飛び出す。
しかし、辻斬りはその鎖を華麗なステップで避ける。避ける。避ける。
――ドン!
何もなかった筈の辻斬りの背後に突然出現した障害物が辻斬りの動きを停止させる。
それはオレがこっそり展開した盾だ。
「おおッ!!」
剣使くんが気合と共に辻斬りへ肉薄。
切り上げた剣と振り下ろされた刀がぶつかって、刀が弾かれた。
そりゃそうだ。
辻斬りは呪鎖と盾の連携でバランスを崩していたからな。しっかり踏み込んだ剣使くんの方に地の利がある。
刀を弾かれよろけた辻斬りへ追撃の呪鎖が絡みつく。
「破ァッ!!」
剣使くんの剣が辻斬りを捉え、その首を飛ばした。
『――オ!?』
辻斬りが消滅する。
直後、カラン。コロン。と、辻斬りが所持していた刀と鞘が転がった。
「え?」
「あ……」
「おっしゃーッ!!」
それを見た剣使くんが思いっきりガッツポーズを決めていた。
これこそが本日の臨時パーティの目的。
通常なら辻斬りと一緒に装備品も消滅してしまうのだが、極稀にこうやってドロップするのだ。
その名も妖刀“斬捨御免”である。
一見ふざけた名前だが
なお、付随効果にもよるがショップなんかで買おうとすると3桁万円くらいになる業物だ。
まさか本当に落ちるなんてな。
左腕を犠牲にしただけはあったということだ。あ、思い出したらちょっとどころじゃなく痛くなってきたかも……。
「ちょっと、喜ぶのは後! それ回収して! 一度撤収よ!」
「お、おう!」
魔法使さんに叱咤された剣使くんがドロップアイテムを手早く回収する。
その間にオレは魔法使さんにお姫様抱っこされていた。
わお。お姫様抱っこなんて深遠特訓でぶっ倒れた時に師匠にされて以来だ。
良いよね。なんか姫っぽくて。後、楽だし。
「りのちゃん。軽いわね。ちゃんと食べてるの?」
「小食なので」
「でも、もう少しお肉付けないとダメよ」
うーん。確かにそうなのだが、この身体って食べても全然太らないんだよ。
というか体形が全く変わらないし……。
「あはは。善処しま……うッ!? ――我を癒せよ。治癒」
落ち着いてきたら左腕の痛みが酷くなってきたので治癒を使う。
というか、なんだか右脚にも鈍痛があるぞ。
ううむ。今のステイタスの治癒じゃ無理そうだな。
思ったより酷いのかもしれない。
魔法使さんにお姫様抱っこされたオレは安全地帯の商屋へドナドナされていく。
商屋は入口が土間になっていて、その先は20畳ほどの広間になっていた。
言ってみればダンジョン内にあるプレイヤーの憩いの場だ。
駆け込んだオレたちを見て先客たちがギョッとしているが、今は状態確認が優先だ。
結果、ダメでした。
左腕、折れてました。
それと右脚には裂傷。
おそらく防御したときに斬られたのだろう。
そりゃ着地も失敗するわけだ。
トホホ。
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