第5話 悪党退治
ダンジョンクローズという言葉が知られるようになったのは此処2,3年のことだ。
そもそも、そんな現象はそれまで確認されていなかったのだ。
それまでのダンジョンにおいては命を落とす可能性と言えば、脱出アイテムを忘れたとか譲ったとかで所持していなかった時に運悪く致命傷を負ったとか、災害級指定の
だからダンジョンで死ぬことなんて滅多に無かったのだ。
それを一変させてしまったのがダンジョンクローズだ。
ダンジョンクローズはその名称から想像出来るように、ダンジョンが閉鎖状態になることを示す。
つまりは、ダンジョンの出入口が閉じてしまい中と外との出入りが出来なくなってしまうことだ。
これによってダンジョン内のプレイヤーはダンジョンが再び開くまで閉じ込められることになる。
脱出アイテム?
それが使えなくなるから閉じ込められるのだ。
ダンジョン管理省の発表ではダンジョン内と外との空間の繋がりが完全に遮断されてしまっているからだという。
一応、このダンジョンクローズには兆候があるので、それに気付いた時点でダンジョンから脱出すれば回避することが出来る。
しかし、そのタイミングを逃せば後は死を待つのみだ。
最初のダンジョンクローズが確認された後、ダンジョン管理省はダンジョンクローズを特定災害に認定した。
ダンジョン管理省は、ダンジョンクローズ発生の兆候が現れた場合、プレイヤーはただちにダンジョンから脱出するよう通達している。
これはプレイヤーライセンスを取る際に口酸っぱく何度も教えられる。
なぜなら、ダンジョンクローズに巻き込まれた場合、プレイヤーの生存確率は1%未満なのだから……。
かく言うオレもダンジョンクローズで死にかけた。
いや、師匠に会わなかったら死んでいたのだ。
それとダンジョン管理省は表立ってダンジョンクローズの原因は究明中という立場を取っている。だが、それは正確ではない。
彼らは発生原因をある程度把握している。
しかし、それを公表しないのはプレイヤーが人為的にダンジョンクローズを発生させないための措置だからだ。
ダンジョンクローズは何も悪い事ばかりではない。
再オープンしたダンジョンは内部構造や入手アイテムが変化し、それまで無かった未知のアイテムや高品質アイテムが入手できるようになる。
言ってみればリニューアルオープンだな。
つまり、スタートダッシュでそれらを一早く入手出来れば一攫千金のビッグドリームチャンスなのだ。
ズズズ――
視界を覆う闇が崩れ周囲の状況が見えてくる。
武装したプレイヤーが9人。
捕縛されボロボロの衣服を身に纏ったプレイヤーが16人。
「――ッ。
無属性魔法の走査でプレイヤーのステータスを表示させる。
武装しているプレイヤーは7人がレベル80台で、残り2人がレベル90台。
捕縛されているプレイヤーは16人全員がレベル10に満たない。
レベル一桁のプレイヤーなんて、ここの本来のボス――先ほどオレが倒したドラゴン――と戦えば一発オーバーキルだ。
運が良ければ身体が真っ二つ。それ以外は肉片コースだろう。
むしろ道中を考えたら何人かは脱落している可能性が高い気がするな。
事前資料でも20人前後の可能性ってあったし……。
そして、その16人という数は贄としてダンジョンクローズを引き起こす切っ掛けになるのだ。
「なんだ? 人型なんて聞いてないぞ!?」
「もしかして
オレの出現にザワザワしているプレイヤーたち。
「――其を開けよ。
直後、ゾワッ。とした感覚が全身を巡った。
これ。走査の使用者が走査対象よりレベルが低いと起きるのだ。
覗かれているという事に身体が反応しているということなのだが、このムズ痒い感覚は何時まで経っても馴れない……。
ちなみにプレイヤー相手に使用した場合、バレたらぶん殴られることもあるので注意だ。
走査を覚えたてのプレイヤーはだいたい
「レベル9
「チッ。クソ雑魚じゃねーか」
「おい。さっさと片付けて本命をお迎えするぞ!」
「こいつらを本命に喰わせてクローズを発生させれば一攫千金だぜ」
「おう!」
「はぁはぁ。親方ぁ! こいつ顔は上物だ。ぐひひ。ぶっ殺す前に遊んで――」
パシュンという音の直後、いかがわしい発言をしたプレイヤーの頭が飛んだ。
クルクルと宙を舞う頭。
そこに
頭部が爆散する。
おおっと、気持ち悪かったので思わず殺してしまった。
ま、言質は取った――というか、勝手にしゃべってくれた――ので問題ない。
それにだ。見た目は
男の相手をするなんて真平御免である。
イチャイチャするなら可愛い女の子一択だ。
「――なにッ!?」
「な、なんだと……」
「――ッ。
残り8人となったプレイヤーの真下から土槍が出現する。
足元からの不意打ちに4人が串刺しになり、4人が回避した。
「は? 無詠唱だと!?」
「ぐあッ!? こいつ魔法発動の予備動作も無しに!?」
「
「――ッ。炎弾」
8個の炎弾がプレイヤーを襲う。
串刺しになった4人の頭部に炎弾が命中し爆散させる。
回避した4人は、土槍で負傷していた1人だけが被弾するも軽症。
ちッ。まだ避けるか。なら――。
「――ッ。
「なッ!?」
「ぐあぁぁぁッ!?」
「――アッ!?」
「むぐッ!?」
「――ッ。
呪怨で動けない3人を炎槍で焼却。
脚とか手とか端っこの部位がちょっと残ったが他は骨すら残らず消し炭となった。
残りはリーダー格のプレイヤー1人。
「き、貴様ァ」
おや。あれだけ一方的な殺戮を前にして心が折れないのか。
なかなか肝が据わっているな。
「誰の命令?」
頭を掴んでグイッと顔をこちらに向けさせる。
「知るかッ! クソがッ!!」
キンッ!
甲高い音が響いて
簡易動作で発動できるマジックアイテムの暗器か。
しかし甘いな。奥の手をオレが予見していないとでも?
まぁ、当たっても致命傷にはならないだろう。
でも痛いの嫌だから防御。
「化け物がッ! ――は!? まさか貴様があいつらをッ――ギャアッ!?」
「うるさい。黙れ」
潰さない程度に頭を掴んだ手に力を入れた。
「ま、どうせ口で割らせる必要もないし。――ッ。走査」
「オギャアァァァッ!?」
走査で直接頭の中を覗かせてもらう。
ふむ。情報源は――、なるほど、この前壊滅させたクランの奴らか。
となると取り逃がしがあったか。
いやだねぇ。1匹居たら50匹は居ると思えってか?
まぁ、オレ自身この手の輩の根絶は不可能だとは思ってるよ?
それでも行動に移さなければ死ぬ事もなかったろうに。
まったく、
人間とはつくづく強欲なものだ。
おっといけない。オレも人間だった。
うーん。でもほんとに人間なのかなぁ?
「アヒャ、アゲヒアアヒ……」
「壊れたか。さよなら。――ッ。炎弾」
ボンッ! と頭部が爆ぜた。
これでお仕事完了。
ミッションコンプリートである。
さて後は――
視線の先には16人のプレイヤーたち。
殆どは気絶していたり失禁していたりと散々な状態だ。
ただ、中には恐怖に震えながらもジッとオレを見ているプレイヤーも居た。
おそらく彼らはSNSか何かで、低レベルプレイヤーでも高額収入~♪ とかそんな感じの話に飛びついて、待ち合わせ場所かセミナーに行ったらそのまま拉致監禁みたいな感じだろう。
流石にダンジョン内での拉致は色々とリスクが高いからねぇ?
「――ヒッ!?」
オレの事を睨んでいる青年プレイヤーへ触れる。
「――ッ。
彼の状態が頭の中へ表示される。
脱出アイテムの項目を確認すると予想通り
となるとこの前のクランの生き残りが関わっていそうだな。
ま、そこはオレの仕事の範疇じゃないので他所にお任せだ。
「――ッ。
オレは転送を使って残されたプレイヤーをダンジョン外へ強制送還させる。
五体満足なんだし心が折れてなければやり直しも出来るだろう。
さて、終了報告っと。
イヤリング型ヘッドセットを操作して師匠へ電話する。
呼び出しを告げる音が聞こえる事十数回……。
『はぃ~。もひもし……』
「ん? もしかして寝てました?」
『ふわぁ。やだなぁ。そんなことはありませんよ~』
あ、これ寝起きのテンションだ。というか欠伸したよね? いま。
「まぁいいですけど。仕事は終わりましたので終了報告です。報告書は後でメールします。とりあえず転送をお願いしま――ふわぁ……」
思わず欠伸が出てしまった。
ぐぬ。師匠の眠気が伝播したっぽい。
『ふふ。お眠ですか?』
「それ人の事言えないですよね? というか眠気をオレに感染させてきてませんか?」
『そんなこと出来ませんよ~。では転送しますね』
師匠が応答すると周囲に無属性魔法の光が現れる。
もう今日は帰ったら寝よう。絶対昼まで寝てやる!
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