第4話 臨時パーティの後は
「んふふー。大漁~大漁ぉ~♪」
本日のダンジョン探索は
やはり希少種のドロップ品は換金率が良いね。
それにジェネラル討伐後に前衛くんたちの闘志に火が付いたのか中層で凄い頑張ってくれたおかげだ。
「今日の夕飯はスーパーでお寿司買っちゃおうかなー」
~♪ ~♪ ~♪
と、スマートフォンから着信を知らせるメロディが響いた。
本体は出さずにイヤリングタイプのヘッドセットを操作して応答する。
『もしもし』
ヘッドセットから聞こえてきたのは幼さの残る女の子の声だった。
「うへ」
『あ、なんだか嫌そうな――』
「いいえ。そんな事はありません。はい!」
師匠の言葉に条件反射で背筋を伸ばしてしまう。
まぁ、最初から分かってはいたけどさ。
オレのスマホに連絡してくるのなんて師匠くらいしかいないし……。
男だったときの知人とか?
いや、おっさんだったオレはもう死んだことになってるからね。
それが生き延びる条件だったし。
故に、オレのスマホの番号を知っているのは師匠含め限られた人物だけだ。
それはもう片手で数えても余るくらいに……。う、悲しくなってきたからこれ以上考えるのは止めよう。うん。
『ダンジョン帰りのところ申し訳ないのですが、今夜お仕事してもらっていいですか?』
「あ、はい。それは勿論。ご指示とあれば」
『ありがとうございます。状況的に23時頃から待機してもらう事になると思います』
「うあ……。徹夜ですかね?」
『開始のタイミング次第でしょうか? でも、尻尾が確認出来たら人数的に直ぐだと思いますけど?』
ん? そうなると始まれば時間はそこまで掛からない程度ってことか? いや、でも最後疑問形になってなかったか?
師匠の想定って結構ザルだからなぁ。
いや、師匠からしたら問題無いんだろうけどさ。師匠とオレのレベル差と言うものを少しは考慮して欲しいところだ。
「わかりました」
『よろしくお願いします。詳細はメールで送っておきます。時間になったらこちらで
「グハッ!? だ、大丈夫です。流石にあんな恥ずかしい思いは二度とご免ですので」
というか、この前のは師匠が予定時間を間違えたのが原因じゃないか。
いや、オレもまだ30分あるから風呂入ろうなんて思って、ゆったり湯船に浸かっていたら予想外に時間過ぎてたんだけどさ。
とりあえず、早く帰って風呂と飯にしよう。
夕飯は有りものでパスタかな。さらばスーパーのお寿司。グスン。
そんなわけでさっさと帰宅してお風呂と夕飯の準備。
その間に師匠からのメールを確認する。
なるほど。確かにこの規模なら尻尾さえ掴めば1時間くらいか?
うーん。ほんとに?
等と、お仕事を脳内でシミュレートしながら夕飯を食べ、風呂に入り、そして、全ての準備を整えて自室のソファーに腰を下ろした。
ソファーへ全体重を預けて脱力する。
「うーん」
お腹は一杯だし、お風呂で身体も温まったし、もうこのまま寝てしまいたい。
しかし、本日はお仕事である。
「――っと。いけない。これ変更しないと」
重く閉じかけた瞼を強引に開いてソファーから背中を離す。
テーブルの上に置かれた鏡を見ながら首のチョーカーに魔力を流した。
魔力に反応し白のチョーカーが黒に変化する。
と、同時にオレの身体も変化する。
色白な肌はより色素が薄くなり真っ白に、黒髪も雪のように真っ白になる。
そして、暗い赤銅色の瞳は彩度が上がりはっきりと赤みがわかるほどに変化していた。
ついでに犬歯が通常より長くなっている。
八重歯というよりは純粋に伸びた感じだ。
「うーむ。普段からこの姿だった100%浮くよな」
まるで洋画に出てきそうなアルビノの吸血鬼だ。
なお、吸血衝動は無いので吸血鬼ちっくな見た目ではあるが本職では無いと言う事だけは断言しておく。
そして、この姿こそが今のオレの本当の姿だ。
普段は悪目立ちしないようマジックアイテムのチョーカーで偽装しているのだ。
「これはこれで神秘的で可愛いけどさ……。やはり日本人としては黒髪の方が落ち着くな。そもそもこんなんでプレイヤーしてたら絶対に浮く。SNSで晒された日には外も歩けないわ!」
その代わりに師匠からのお仕事依頼ではこちらの姿の方が都合が良い。
まぁ、悪い意味でだが……。
「っと。呼び出しだ」
周囲に魔法陣が展開され、オレを淡い白色の魔力光が包み込む。
無属性魔法の
ダンジョン内で使用すれば範囲内の対象をダンジョン外のポータルエリアへ移動させる効果を持つ。
おそらくこれをダンジョン外で使用出来るのは師匠だけだ。
そもそもダンジョン外での魔法の行使というのは特定の非殺傷系魔法を除きほぼ不可能なのだから。
――直後、周囲の風景がオレの部屋から一瞬で変化する。
「よっと」
何もない灰色の空間に着地する。
「さて本日のお相手は、――我を守護せよ。
背後からの一撃を光魔法の盾を展開して防御する。
「なんだ。ドラゴンか」
振り向いた先に居たのはファンタジーものとしては定番モンスターのドラゴン。
サイズは大型トラックくらいだろうか。
まぁ、翼を広げたら横幅はもっとあるし、尻尾の先までいれたらもっと長いだろうけど。
つまり、今回はお台場ダンジョンというわけか。
あそこ夜間は人も少ないしなぁ。
職員を買収して入念な準備をすればそれも可能だろう。――胸糞悪い話だが。
「残念。君と遊んでる暇はないだ。――切り刻め。
『――!?』
風属性の範囲魔法が発動しドラゴンを覆いつくす。
直後、無数の風の刃がその巨体を切り刻んだ。
『ギャッ!?』
堪らずドラゴンは翼を広げ飛翔して風陣から逃れようとしたが、肝心の翼は切り刻まれて使い物にならい。
飛行手段をつぶされたドラゴンはオレ目掛けて突進を行うが、風陣の外側へ展開した盾に阻まれた。
『ギ――ッ!?』
やがてドラゴンは力尽き風陣の中で崩れ落ちた。
「さぁて、悪人退治と行きますか!」
徐々にオレの身体を包み込む闇へ身を任せながら口端を歪ませたのだった。
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