第3話【臨パ】ボス戦【ゴブD】

このダンジョンの上層ボスはゴブリンキャプテン。

適性レベルは15。

キャプテンの名の通り5体のゴブリンを取り巻きとして引き連れている。

まぁ、キャプテン自体は通常のゴブリンよりちょっと強化された程度なのだが、取り巻きが居るのでソロの場合は速攻を意識しないと集団でボコボコにされてしまう。

今回は前衛3人なので、取り巻きを前衛が引き付けている間に、後衛の魔法使くんが魔法を連発すれば簡単に勝利できるだろう。

みんなが上手く立ち回ればオレの出番は無い筈だ。

うむ。これほど気楽なことはない。


ボスフロアへ侵入したオレたちに反応したのか中央から黒い沁みが這い出してきた。

それはやがて人の形を成していく。


「来るぞ! 取り巻きをさっさと倒して俺たちでボスも食っちまおうぜ」

「了解!」

「うん」

「ハハハ。それよりも先に僕が倒すさッ!」


パーティメンバーは気合十分だ。

これなら何の問題も無い。


『グギャギャギャッ!!』

『『『『『ギャギャッ!』』』』』


――はい。そう思っていた時期がオレにもありましたさ。


眼前に出現したゴブリンキャプテンを見てオレは期待を一瞬で投げ捨てていた。

それはもう助走をつけて全力投球する勢いで。だ。


ゴブリンキャプテンの体躯は通常よりも二回りは大柄だった。


通常なら装備は剣の筈だが、その手に持つのは剣と言うには明らかにデカかった。

つまりは大剣だ。それを片手持ち。

更に左手には大盾まで装備という気合の入れようだ。

そして、取り巻きのゴブリンは粗末なものの兜と鎧を身に着けている。

勿論、武器もゴブリンが持っているような短剣や石斧ではなく剣だ。


いや、これ希少種レアのゴブリンジェネラルじゃん!

取り巻きも通常のゴブリンじゃなくて中層に出るゴブリンウォリアーだよ!!


時々あるのだ。

コンマ以下の確率で出現する希少種ボス。

そして、この希少種ボスは通常ボスと比べてもはっきり言って強い。

本来の適性レベルであるレベル15のパーティならまず間違いなく全滅する程度には強いのだ。

例えるなら上層ボスフロアに中層ボスがうっかり参上みたいなものだ。

まぁ、ドロップ品は中層ボスより希少種の方が断然美味しいのだけれど。


「お、俺の知っているゴブリンキャプテンじゃない……」

「え? 違うの? まさか強個体とか言うヤツ?」

「ち、違う。噂で聞いた事がある。こ、これは希少種のゴブリンジェネラルだッ!?」

「ん? んん?」


盾使くんと魔法使くんはボスに怖気づいているのか明らかに腰が引けてしまっていた。

ま、そうそう出ないからね。彼らのレベル的にこのダンジョンの中層ボスは経験無いだろうし仕方ないよね。

逆に何故か剣使くんはテンション上がってる。俺より強い奴に的なアレかな。いや、まともにやったら一発KOだよ?

斧使くんは、状況が掴めていないのかクエスチョンマークが浮かんでいそうな顔をしている。でもこの中では一番落ち着いているかもしれない。将来大物になりそうだ。

でもまぁ、何と言うか空気感としては良くないなぁ……。


「どうしますか? 撤退し――」


『グガァーッ!!』


撤退を提案しようとしたタイミングとほぼ同時にゴブリンジェネラルが吼えた。

威嚇するような咆哮の直後、ゴブリンウォリアーが突っ込んでくる。

状況に流されるようにして応戦する前衛くんたち。

盾使くんと剣使くんがそれぞれ2体、斧使くんが1体を受け持つ形だ。

しかし、間の悪い事にこちらは機先を制された形になってしまった。

これでは撤退も難しい。


「くッ。仕方ない当初の作戦通りにいく。僕がボスを集中攻撃する! ――火よ穿うがて。炎弾ファイアバレット


それは悪手だよ。と指摘するより前に魔法使くんが炎弾をジェネラルへ撃つ。

飛来した炎弾を、しかしジェネラルは持っていた大盾で防ぐ。

盾に直撃した炎弾が爆発して爆炎が広がった。


『グルァッ!!』


ジェネラルが吼え大盾を構えて突っ込んでくる。

狙いは勿論魔法使くんだ。

まぁ、でもウォリアーの相手で手一杯の前衛にヘイトが向かなくて良かったと内心安堵する。

今の彼らじゃ、突進に巻き込まれたら一発退場もあり得るからな。

さて、魔法使くん回避は――、あ、腰が退けてる。こりゃ駄目そうだ。


まったく……。


オレはお手軽気楽な姫プレイを堪能したいだけだったのに、なんで出てくるかねぇ?


「――はぁ。仕方ない」


魔法使くんとジェネラルの間に割って入る。


「り、りのちゃんッ!? 君じゃ無理だ!!」


後ろから魔法使くんの震えた声が届くが今は無視だ。


ジェネラルが大剣を振り上げる。


確かジェネラルの適性レベルは30だったかな。

レベル9じゃどうあがいても一撃貰えば確実に重症判定で脱出アイテムのお世話になるだろう。

でも、それは実際のプレイヤーがまともに戦えばの話だ。


「――我を守護せよ。シールド


振り下ろされる大剣に対して光魔法の盾を発動する。

盾はオレと大剣の間に斜めに展開され――


――ズガンッ!!


ジェネラルの大剣が盾の表面を滑って大地へ激突した。


『ウゴッ!?』


「え――?」

「今です! 炎弾をジェネラルへッ!!」

「――わ、わかったッ!」


一瞬思考停止していた魔法使くんへ攻撃の指示を出す。

遅れて放たれた炎弾が攻撃を弾かれて硬直しているジェネラルへ直撃した。


『ギャッ!?』


顔面に炎弾が直撃したジェネラルの巨躯がよろめく。

そこへ魔法使くんが追撃の炎弾を撃つが、流石にそれはジェネラルの盾によって防がれてしまった。

再び振り下ろされた剣を先ほどと同じように盾を展開して逸らす。


『ゴゥッ!?』

「今ですよ」


再び出来た隙へ魔法使くんが再び炎弾を撃ちこむ。

よろけるジェネラル。だがまた大剣で攻撃してくる。

それを盾を展開して逸らす。

ふふふ。こんな単純なパターンにハマるなんて、希少種とは言え所詮は上層ボスか。

本来ならこの場に居る全員を重症判定で病院送りに出来るだけの力はあったのだろうが……。

ま、オレが居た事を後悔するが良いさ!


『ゴッ!? ガ――ッ!?』


そうして、攻防を繰り返すこと十数回目にしてジェネラルは斃れたのだった。

同時に盾使くんたちが戦っていた取り巻きのウォリアーも消滅する。


「や、やった……」

「はい。やりましたね!」


へなへなと腰を下ろす魔法使くん。


「おう。お疲れさま!」


そこへ合流する前衛くんたち。


「やはり魔法は凄いな」

「くっそー。ゴブリン倒すので一杯一杯だったぜ」

「うん。取り巻きがこんなに強いなんて思わなかった……」

「それは取り巻きが適性レベル15のゴブリンウォリアーだったからですね」


勘違いしていそうなので補足しておく。


「え!? ウォリアー? 道理で強いわけだ。つか、もしかして俺、盾借りてなかったらやばかった?」

「うん。たぶんね。でも――」


斧使くんは剣使くんの発言を肯定しつつオレへと視線を動かす。


「りのって本当にレベル9?」

「あはは。何を言ってるんですか? パーティ組む時にちゃーんとステイタスの確認したじゃないですかー。アハハー」


ソウダヨ。表示上はレベル9ダヨー。


「でも、ボスの攻撃を防いでいる間も治癒ヒール飛ばしてた」

「確かに、いいタイミングで回復してもらっていたな!」

「それは治癒使ですから、それくらい出来ないと。ね?」


目の前の敵を相手にしながらパーティの支援と回復くらい出来なければ治癒使とは言えないのだ。

そう。治癒使なら出来て当たり前なのである。


――と、滅茶苦茶怖い笑顔で師匠にしごかれたからな。


「なるほど?」

「ありがとう。りのちゃん。君が居なかったら今頃僕たちは揃って病院送りだったよ」


魔法使くんが感謝しながらワシッとオレの左手を両手でつかんだ。


「いえ。治癒使として当たり前の事をしただけですから」


ハハハ。もっと感謝しても良いんだよ。ついでに報酬上乗せしてくれてもOKだ。

でも何時まで手を握ってるんだい?

いい加減離そうな? 魔法士くん?

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