第29話 不穏


 破壊神の力に汚染された魔物を倒したのでヴァルの転移魔法で国に用意してもらった家に帰り、僕の部屋のベッドに横になる。

 クソ。まだあの考えが消えない。まさかそんなことがあるはずが……。


「ジェロア。入るわね」

「っ!?」


 シュテルの声だ。奴は僕の了承を待たずにドアを開け、笑顔を見せた。


「ふふ。どうしたの?さっきからずっと挙動不審よ?」

「……お前には関係ないよ」


 横になっていた体を起こし突き放すように言う。だがシュテルはベッドに腰かけ、僕に近づいてきた。


「関係ないことはないでしょう?本当のことを言って」


 目の前の女は笑みを浮かべているが命令するような支配者の目をしていた。

 僕はこの目をしたこいつには昔からなぜか逆らえない。もし逆らったりして嫌われてしまうのが怖いからなのかもしれない。

 なのでべらべらと自分の考えを喋ってしまう。


「お前さっき、自分の計画したことが全部うまくいった時の目をしてたでしょ。だから、考えたんだ……」

「私が破壊神の力を貰ってて、さっきの狼もドラゴンも私が操ってたって?」

「……その通りだよ」


 僕の考えを全て当ててくる。これだからこいつは怖いんだ。

 なにも考えてなさそうな演技をしてても頭はいつも回っている。

 でもまあ、こんな突拍子もないことあり得るはずがない。


「はは。僕らしくないよね。こんな根拠もない考えを言うなん」

「その考えが正しいって言ったら、どうする?」

「……え?」


 は?こいつは一体、なにを?


「だからジェロア。正しいって言ったらどうるするの?私を殺す?」

「はぁ?お、お前、殺すって、なに……」


 シュテルは動揺している僕の手をとり、白く細い自分の首に当てる。その瞳は加虐心に満ちていた。


「ほら。私は世界の破壊する貴方の敵よ。ならこの首をギュッと絞めて殺さなくちゃ。ああ、安心して貴方に殺されるのは本望だから。もしかしたらルエールの代わりに勇者の役目を果たしたジェロアのことを両親は褒めて、愛してくれるかもしれないわね」

「……」


 言葉が出ない。頭が回らない。こいつを、殺す?僕が?そんなこと……。


「ふふ!」


 シュテルが笑う。おかしくてたまらないという風に。


「あはは!冗談よ冗談!ちょっとからかっただけよ!」

「……あ。な、なんだ冗談か。びっくりさせないでよ」


 いつもの僕なら怒髪天を衝いてもおかしくないが今は安堵で心がいっぱいなのでそうはならない。


「うふふ。私の命が関わるだけでこんな風になるなんて。ジェロア、貴方って私のこと大好きなのね!」

「……好きじゃない」

「照れちゃってー。本当に可愛いわぁ」


 手を離しそっぽを向いた僕をシュテルは抱き締めてくる。するとなにかを思いついた顔をした。


「あ、そう言えばこのあとお出かけしましょ!もうお昼だから昨日行けなかったお店に!」

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