第27話 クロフ

「ねえねえ!私頑張ったよ!だから褒めて!頭撫でて!」

「待て」

「え?」


 近づいてきたクロフに少ない言葉で拒絶の意を伝える。キョトンとし、止まったことを確認するとすぐさま命令を出す。


「ヴァル」

「はい」


 そう答えるとフラムのローブについていた生臭い血が全てなくなる。流石だ。仕事が速い。それをされたクロフは不満そうに顔を膨らませた。


「むー。なにするの!せっかくあったたかったのに!」

「もう冷たかっただろ。それにその状態で近づいたら僕は怒ってたよ」

「あ、確かに」


 クロフがはっとした顔をしていると、さっきまでなにかを考えていたシュテルが近づく。


「ねえクロフちゃん」

「む。なに、泥棒猫のお姉ちゃん」

「ふふ。嫌われたものね。実は聞きたいことがあるの。いいかしら?」

「え?別にいいけど……」


 ありがとう、とシュテルがいいその質問とやらをする。


「貴方の血液操作魔法、だったかしら。凄いわね」

「そう!?ありがとう褒めてくれて!」

「ふふ。いいのよ。それで聞きたいことっていうのはね。貴方のことなの」

「え?」


 クロフが意味が分からないといった様子で固まる。それを見たシュテルは補足の説明をした。


「ほら、魔法の能力は本人の才能によるのものと、その人の気持ちと願いが関係して決まるって言うじゃない?だから血液操作魔法っていう珍しい魔法ができた経緯を知りたいなって思っちゃったの」

「……そうなんだ」


 クロフは複雑な表情をする。シュテルがなんで気になったかは分からないが、もし嫌がったらすぐに止めに行こう。


「うん。いいよ。話す。お姉ちゃんのジェロアお兄ちゃんが好きってとこだけは気が合いそうだから」

「うふふ。ありがとう」


 その言葉に周りの連中が聞き耳を立てていた。血を浴びたいとかいう発言と血液操作魔法のせいで奴らも気になっていたのだろう。


「えっと、お父さんとお母さんはね。ずっと私に酷いことしたり言ったりしてきたの。だからいつも怖くて、危なくなったら包丁をいつでも取れるように隠し持ってたんだ」


 その話が進むと僕とフラムは真顔になり、周りで聞いていた奴らは顔を歪ませ、質問をしたシュテルは笑顔を絶やさなかった。本当にこいつの気持ちが分からない。


「それでね。いつもみたいに酷いことされた時に本当に死にそうだって思ったから、その包丁をとってまずお父さんを刺したんだ。そしたらね」


 笑顔になる。この話には似合わない子供特有の無邪気な顔。


「血が私にかかったんだ!それがとっても暖かくてね!お父さんが初めてくれた温もりでとっても嬉しかったんだ!だからもっと他の人の血でもいいから浴びたいと思ったの。そしたらこの魔法が使えるようになってたんだよ!」


 話が終わる。空気は最悪だ。自分とルエール以外はどうでもいいと思っているクリュスでさえ顔を伏せていた。

 だが話の最後までシュテルはニコニコと笑顔を保っている。


「そう。それが貴方の愛の形なのね」

「愛?うーん……そうかも!だって私、血を浴びせてくれたなら人間じゃなくても好きになっちゃうもん。あ、でも一番はジェロアお兄ちゃんだからね!」

「うふふ。そう。素敵だわ」

「わっ!なに!?くすぐったいよー!」


 シュテルがクロフを抱き締め撫でる。それをされたクロフは一瞬驚いた顔をするがすぐに笑顔になる。それを邪魔しないように見守っている。すると。


「ガァァァ!!!」

『っ!?」


 敵意が含まれた咆哮が聞こえ、全員が反応する。それを合図に空中からバサバサと翼の音を立てながら現れ、降り立ったのは巨大な。


「黒い鱗のドラゴン。新手かよ。どうやら空気が読めないみたいだね。本当に」

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