第26話 血液操作魔法
「えー?また森?せっかく王都に来たんだからもっと見たことないところに行きたーい!」
「まあまあ。これが終わったらそういうとこ行きましょうよクロフちゃん」
移動した瞬間に文句を言い始めたクロフをフラムが宥める。僕はそれを無視してさっさとこの件を片付けようとする。
「それで。例の魔物はどこにいるの?さっさと案内してよ」
「ああ。ついてこい。目撃情報があった場所まで行くぞ。ここからは徒歩だ」
そう言い騎士団長が移動を開始したのでついていく。数十分歩いて気づいたことは森だからしょうがないが人が歩くのに適していないということだ。
だから根をあげる奴も出てくる。
「み、皆さん待ってください!ここ歩きづらくて!」
「そうよ!皆が皆そう早く移動できる訳じゃないのよ!」
ティナとシュテルが文句を言って立ち止まった。はっ。
「なら、2人してそこで野垂れ死ぬことだね」
「ひ、酷い!」
「ついてこれない奴が悪いんだよ」
そんな会話をしていると騎士団長も立ち止まる。なんだ。まさかこいつも歩けないとかいうつもりじゃないだろうな。
「いや。もう歩く必要はない。見てみろ」
「ん?」
騎士団長が指を指した方向を見てみるとそこには。
「黒い、狼?」
そう。そこには涎を垂らして狂暴そうな狼が数十匹いた。これが破壊神の力を受けた魔物か。
倒そうと動き出そうとするが1つ気になったことがあるので聞いてみる。
「そういえば、こいつらって普通の人間でも倒せるんだよね」
「ああ。神の力を受けたと言っても少しだけらしい。かなり強くなっただけで奴らに特別な力はない。ある程度の実力があるなら倒せる」
「そ。なら」
「ちょっと待ってよ!」
僕が行こうと言おうとするがクロフが待ったをかけてくる。なんだよ。
「私がやる!今日はまだ血を一滴も浴びてないんだから!いいでしょ?」
「血?おいジェロア。この子は一体なにを……」
「はぁー」
出たよ。クロフの発作。騎士団長の質問に答える気力もないので無視して了承をする。
「いいよ。好きにしな」
「ホント!?やったー!ほら行こうフラム!」
名指しをされたフラムはキョトンとした顔をしていた。
「え?俺もっすか?」
「当たり前でしょ!ほら、フラムは私より弱いんだから命令に従うべきだよ!」
「へいへい」
会話のあとクロフは走って常人では出せないスピードで狼の群れに突撃し、フラムは対照的にゆっくりと歩き接近した。それを見たアンナとティナが心配そうな目をする。
「お、おい。大丈夫なのかあの子?」
「そうですよ!クロフちゃんはまだ小さい子供なのに……」
「僕が弱い奴と仲良くするわけないでしょ。黙って見てなよ」
狼は小柄な獲物が近づいたので狼共が敵意を示してワオーン!と数十匹の鳴き声が森中に響き渡った。
それを狩りの合図にしたのか狼が数匹噛みつこうとする。
「えい!」
それに対応したクロフは腰に装着していた2本の短剣を引き抜き、早業で襲ってきた狼を一回だけ斬りつける。傷はとても浅い。これで終わりだと普通なら思う。だが。
「ギャっ!?」
『……なっ!?』
「……へえ」
斬りつけられた狼が爆散する。大量の血をクロフと周りの草などに浴びせながら。それを見たシュテル以外のやつらが驚愕した。気持ちは分かる。本当に恐ろしい魔法だ。
「あははっ!あったかーい!もっとちょうだいよ!」
クロフは血を浴びたというのに無邪気な笑顔をして敵に襲いかかる。狼共は狩る側から狩られる側になったことを理解し距離を取るが、待ってよー!と小さな狩人は追いかける。
その状況を眺めているとシュテルが話をかけてきた。
「ジェロア。あれはなに?」
「血液操作魔法。クロフの魔力が一滴でも触れた奴の血を自由自在に操る魔法だよ。あんな風にね」
「……ふーん」
質問の答えを出すとなにか考え込んで黙ってしまう。そんなことよりクロフだ。奴はもう狼を数匹に減らし、血溜まりの中で横になり笑顔を浮かべていた。
「うーん満足した!あとはフラム。よろしくー」
「マジで勝手過ぎません?ま、やりますけど」
呆れながらも命令通りに従いフラムは狼に手を向け、炎魔法を使い焼却していく。最後には塵すら残らなかった。
「ジェロアお兄ちゃん終わったよー!」
クロフが笑顔で近づいてくる。子供らしかぬ血塗れの状態になりながら。
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