第25話 騎士団長
「うふふ!」
「はぁ……」
鎧を着ている人間が通りすぎる旅にこっちを見てくる状況にうんざりしてしまう。
まあこの国の王女様が見知らぬ男に抱きついていたら仕方ないとは思うがヒソヒソと話してる奴はなんなんだ。失礼だろ。礼儀がなってない。
そう思っていると皆が歩いている状況で急にアンナが立ち止まった。
「なんだ貴様ら!そんなに気になるなら騎士らしく正々堂々、直接聞いたらどうだ!」
「お前マジで殺すぞ」
「な、なぜだ!私は騎士のすべきことを……」
なぜもなにもない。そんなことを言うから勇気がある奴がこっちにきちゃっただろうが。
「し、失礼します」
「失礼するな。帰れ。仕事しろ」
「ひ、酷くないですか?い、いやだが聞きましょう!貴方とシュテル様は一体どんな関係なのでしょうか!」
そう好奇心に満ちた目をしている騎士の質問に僕は黙りを決め込もうとしたが、シュテルが笑顔で答えてしまった。
「結婚予定の相手よ。パパ公認のね」
「な、なんと!?」
「あーあ」
言っちゃったよ。ほら、騎士連中がもうザワザワし始めた。否定するのもめんどくさい。帰りたいなぁ。
「そ、それは本当」
「おい貴様」
「ん?なっ!?」
僕たちに話しかけてきた騎士が驚く。それもそうだろう。急に青髪で顔に傷をつけ、分厚い鎧を着た筋骨隆々の男が話しかけたきたのだから。
「き、騎士団長殿!ご苦労様です!」
「ご苦労様ですではないわバカ者!騎士ともあろうものが人の恋路の事情を
「も、申し訳ございません!」
そう言いそそくさとその騎士と周りの連中はどこかへ行ってしまう。やっとうざいのがいなくなった。
そう思っていると目の前の男が頭を下げる。
「申し訳ございませんシュテル様。来ると言って下さったなら全員下げたものを。うちの騎士とバカ娘がとんだ失礼を致しました」
「なっ!父上!私は!」
「ううん。いいのよ。そのお陰で私たちがどれだけ仲がいいか伝わったわけだし!」
「離れろ!」
シュテルが上機嫌になりもっと抱きついてくるので僕は手で顔を押し、離れさせようとするがびくともしない。クソが。
「ははは。どうやら本当に仲がいいようだ。よかったなジェロア」
「黙れ!」
「師匠に向かって黙れはないだろう。黙れは」
「数日だけの指南の癖に師匠面しないでくれる!?」
そう。僕は数日だけこいつの弟子をやらされたことがある。剣の才能がなかったのですぐにやめたが。
「それでぇ?なんでお前が来たんだよ。なに?もしかして考える頭が足りない娘の再教育でもしにきた?」
「なっ!?ジェロア貴様!」
「いや、それはとっくの昔に諦めた」
「父上!?」
アンナが驚愕していた。当然だろ。戦闘でも突っ込むことしか脳がないんだから。
「まあそんなことより。実は例の件。俺が同行し案内することになった。中途半端なものが行って死んでもしたら目も当てられんからな」
「ふーん。大丈夫なの?お前結構な年だけど。引退とかしないの?」
そう聞くと騎士団長がため息を吐いて、残念そうな顔をして答えた。
「ああ。俺もできるならしたいが、団長にふさわしい人材も育っていないしな。仕方ない」
「父上!それなら私が!」
「まだ早い」
「なぜですか!?」
その何度も見たことがある親子のやり取りを冷めた目で見ているとクリュスが僕の方へ近づいてくる。
「ジェロア。昨日は一体何があったのですか」
「……なんの話?」
「とぼけないでくださらない?」
そうクリュスが切羽詰まった表情で聞いてくる。おーこわ。
「ルエール様は家に帰ったあとずっと部屋にとじ込もってワタクシと話もしてくださらないのですよ?貴方。絶対になにかやらかしたでしょう」
「……別に。そんなに気になるならドア越しから聞いてみたら?僕を裏切って婚約破棄して愛すとか言ったルエールにさ。多分答えてくれると思うよ。ま、本当に愛されてるならだけど」
「貴方……!」
僕とクリュスの間に不穏な空気が流れる。もう少しで喧嘩が始まろうとした瞬間に。
「そこまでだ。そういうのは終わったらにしろ」
「……ふん」
騎士団長が止めてくる。するとクリュスはそっぽを向いた。ガキかよこいつは。
「全く……まあいい。それよりジェロア。お前の執事を少し使うがいいか?」
「いいよ。ヴァル」
「はい」
ヴァルが返事をし騎士団長と話を始めた。転移する場所を伝えているのだろう。すると終わったのかこちらを向いてくる。
「では皆様。例の魔物の目撃場所の近くまで転移いたします」
そう言うと視点が切り替わる。目に映った光景は一面に木が映えている場所。つまりは森だった。
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