第22話 就寝
「なんでお前がいるんだよ!」
「人肌が恋しいと思って」
「出てけ!」
マジでなんなんだこいつ!
「えー。いいじゃない。どうせ寝ようと思ってたところなんでしょう?なら」
「僕は一人で寝たいんだよ!」
「まあまあ、今日ぐらい」
僕はため息を吐いてしまう。こうなったシュテルは意地でも動かない。なら。
「はぁ。分かったよ。一緒に寝よう」
「ホント!?なら早く来て!寒くないように暖めてあげるわ!」
シュテルが腕を広げ待っている。仕方ないと思いながらベッドに座る。すると抱きついてきて無駄に大きい胸が僕に当たり不快に感じる。
「それ、小さくできないの?邪魔なんだけど」
「あら酷い。普通の男の人なら喜ぶのよ?」
「僕はそんな低俗な欲望に頭を支配されたりしないんだよ」
というか本当に大きいな。前より成長してる気がする。そんなことを思っているとシュテルが笑顔で声を発した。
「それで?どうだった?」
「最悪」
「あら可哀想。なら私が変わりにしてあげるわ」
「は?なに、を?」
シュテルの右手が僕の頭の上に乗った。そして。
「ジェロアは偉いわね。どんなに体と心が傷ついても、何度でも立ち上がる。とっても頑張り屋さんで惚れ直しちゃうわぁ」
「……やめろ」
頭を撫でて褒めて愛を伝える。僕が親にしてほしかったことだ。それをシュテルが今している。
拒絶の言葉を吐くが僕とは思えないほど弱々しい。
「ふふ。やめろって言っても、全然抵抗しないじゃない」
「……うるさい」
「アハっ。かわいい」
その言葉を最後に2人とも無言になりその行為を数分続ける。そうしたら急に撫でるのをやめて僕を見つめてきた。
「ねえジェロア、覚えてる?」
「なにを」
「私たちが初めて会った時のこと」
シュテルは大切な思い出すような優しい顔をして言う。確かその時は。
「10歳ぐらいの僕がルエールに負けて倒れてた時だっけ?」
「そう。でもちょっと前にたまたま貴方たちが戦っていた時に私はフェクシオの家に来てたの。それを初めて見たときは感動したわ。だって国に認められた魔法使いでも歯が立たない勇者様といい勝負をしている男の子がいて、そのあと酷い負け方をしても心が折れていない目をしているんだから」
シュテルは自分のことのように嬉しそうに笑い言葉を続けた。
「その時から私の心の中は貴方でいっぱいなの。皆が皆、ルエールばっかり見て褒めるけど私は違う。私の一番はルエールなのよ」
「……そっか。物好きだよね、お前」
僕は笑う。こんな直球に愛を伝えられるのは久しぶりだから心にきてしまう。
「ええ、そうよ。だから忘れないで。両親が貴方を愛さなくても、私がとっても愛してるってことを」
「……うん。ありがとう……でも、僕は、お父様とお母様に」
体の力が抜ける。安心してしまったせいか急に眠気が襲ってきたようだ。倒れる僕をシュテルが抱きしめ、受け止める。
「あら?眠いの?まあ、そうよね。今日は頑張ったものね。なら寝ちゃいなさい」
その言葉で目蓋が閉じる。今日は悪夢を見ないですむように願いながら。
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