第20話 親子

「……」


 僕は今、大きな屋敷の前にいる。懐かしくも苦しい思い出が甦ってくる。ここが僕が15年間過ごした家だ。

 本当は来たくなかった。だが呼んだってことはもしかすると、皆、変わっているかもしれないし。

 そんな淡い希望に引き寄せられ、僕はここに来てしまった。


「兄さん……」

「お兄様……」

『……』

「分かってる。大丈夫だよ」


 ルエールとナタリーが心配そうな声を出す。これから兄が喧嘩別れのようなものをした親と会うんだからこうなっても仕方ない。

 後ろにいるヴァルとレイラは無言だがジッと見つめてくる。心配してくれているのかもしれない。


「なんで呼んだかは、分からないんだよね」

「うん。ただ呼んで来いとしか」

「……そ」


 なにを考えているんだろうか。分からないが、ここまで来たんだ。会わないという選択肢はない。


「じゃ、行くぞ」


 そう短く呟いて、扉を開ける。すると中ではメイドと執事がズラリと並んでいた。


『ルエール様。ナタリー様。ジェロア様。おかえりなさいませ』


 そう言い僕たちの帰りを歓迎する。目の奥では僕だけ歓迎していないようだ。昔と変わらない。

 そんなことはどうでもいい。問題はその奥にいる2人。1人は金髪の機嫌の悪そう

なお父様で、もう1人は緑色の目をし、申し訳なさそうな顔をしたお母様だ。


「……もういい。下がれ」

『はい』


 命令を受け執事とメイドがどこかへ行く。仕事に戻るのだろう。そんなことを思っ

ているとお父様が近づいてきて。


「このバカ息子が!」


 手の平で僕の頬を叩いてくる。……は?


「貴様はなんという勝手な行動をしたんだ!貴様が家を出て行ったせいで他の貴族に舐められ!恥をかいたんだぞ!それを理解しているのか!」


 ……久しぶりに会う息子にその対応かよ。なら、いいよ。こっちだって!


「オッラアッ!」

「ガッ!?」


 僕はお父様の顔面を殴る。すると吹っ飛び、壁にぶつかる。それに近づき胸ぐらを掴んだ。


「恥をかいたぁ?なんで僕が出ていったか!お前分かってるのかよ!?」

「な、なにを!」


 どうやら分かっていないようだ。なら!


「分かってないなら教えてやるよ!お前ルエールと戦って僕が負けた時に目の前で言ったよなぁ!貴様のせいで派閥の連中がルエールとジェロア、どっちを後継者にするかで2つに別れた!」


 今までの思いをぶちまけるように言葉を吐き捨てまだ続ける。


「貴様が生まれて!ここにいなければ!こうして次期当主の問題で悩むことはなかったって!」

「それは、些細な、昔の、話だろう……」

「些細な昔の話ってなんだ!僕は今でも覚えてるんだよ!夢にだって何度も出てきた!親が言った言葉っていうのはさぁ!子供の記憶にはずっとこびりついちゃうもんなんだよ!それが酷い言葉ほどさぁ!!!」

「や、止めなさいジェロア!」

「ああっ!?」


 お母様が僕に近づいてくる。こいつだって!


「なにが止めろだ!お母様だってずっとルエールにばっか構ってさぁ!僕やナタリーには目を向けすらしなかったじゃん!」

「そ、そんなことは……」

「じゃあ僕とナタリーに愛してるって言ったことある!?褒めたことは!?頭を撫でたことは!?ないだろうが!」

「……ごめんなさい……」

「ごめんなさいじゃないんだよ!」


 だからこいつらは嫌なんだ!ずっと!


「ずっと!ルエール!ルエール!!ルエール!!!お前らはそれしか言えないのかよ!?一度ぐらいちゃんと僕たちのことも愛してくれよ!」


 絶叫に近い本心の暴露。僕は最中に涙さえ出てきてしまった。


「はぁ……!はぁ……!」

『……』


 それを見たナタリーは泣きそうな顔をし、レイラは珍しく表情を顔を歪ませていた。


「兄さ――」

「ルエールさま。あの2人が泊まっている宿はどこですか。今すぐジェロアさまを連れて行きます」

「……そうだね。分かったよ」


 僕に近づこうとしたルエールをヴァルが止め、どこかの場所を教えている。会話が終わると体が浮遊感に襲われる。転移魔法だ。

 視点が変わる。最後に見えたのはルエールの罪悪感に潰されそうな顔だった。

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