第19話 もう一柱の神
「まず神は直接この世界に強い干渉はできないから、勇者と聖女を人間の中から選んで魔物という化物から人類を守る使命を与えたのは知ってるよね?」
「ああ知ってる。それがどうかしたの?」
「実はそれとは別に勇者にだけもう1つするべきことがある。まあこれが本当の役目になるかな」
「もう1つ?」
なんだろうか。分からないがとんでもないことというのは分かる。
「うん。ボクとティナは女神アレルという神に力を与えられたけど、他にももう一柱だけ神がいて一人の人間に力を与えた。勇者はその人間を見つけ出して殺すために存在するんだ」
「は?神がもう一柱?」
今から頭から消し去りたい情報が聞こえてきた。だってそれは。
「確かアレル教って一神教でしょ?その情報流れたら宗教内がグチャグャになって聖国って滅びるんじゃない?」
「め、滅多なこと言わないで下さい!」
聖女のティナが声をあらげて僕を睨めつける。事実を言ってなにが悪いんだか。
「と、とりあえず。その神が人間に与えた役割がまずいんだ」
「……それは?」
ルーエルは深刻そうな表情をして少し沈黙し、質問の答えを言う。
「この世界の破壊だよ。アレルさまを創造神とするなら、その神は破壊神なんだ」
「……そいつは、見た目は?見つけた?どんな力を持ってるの?」
聞かなきゃよかったと後悔しているが乗り掛かった船だ。とことん聞こう。
「アレルさまが言うにはボクと同年代なんだけどまだ見つけられてないんだ。それ以外は……」
「……そ」
まあしょうがない。多分他の国も全力で探した結果なんだから。
「でもつい最近、動きが見られたんだ。倒したけど王都の近くで破壊神の力に汚染されて操られた魔物が見つかってね」
「ふーん。……ああ、なるほど。それで僕たちが呼ばれたんだ。またそいつみたいなのが現れたら倒して王都を守れと」
「話が早くて助かるよ。まだ一体だけだけど、これから増えたりする可能性があるからさ。ボクが対処できない時は兄さんたちでやってほしいんだ」
やってくれるかい?と問いてくる。正直、面倒ごと過ぎて断りたいが世界が破壊されるってことは僕が死ぬことを意味する。ならまあ、しょうがない。
「いいよ。やってやる。どーせ断ってもあの国王が王命だって言ってくるだろうしね」
「本当!?ありがとう兄さん!」
「はいはい。お前たちもやるよね。死にたくないだろうし」
僕は冒険者たちに目を向ける。するとクロフは楽しそうな顔、フラムは死にそうな顔をしていて対照的になっていた。
「うん!面白そうだからやるー!」
「い、いや俺は、そんなことに巻き込まれたら死ぬかもしれねぇし……」
「待ってても死ぬかもよ」
「そうなんだよなぁ。……仕方ない、やるっすよ」
「いい判断だね」
二人も了承したことだし、さっさとこの大人数がいる部屋から出たい。人込みは嫌いだからな。
「それで?話は終わり?」
「いや、あと1つだけ。兄さんたちには基本的に王都から出ないで命令があった時だけ動いてほしいんだ」
「え?それじゃあ冒険者として活動しちゃダメなんすか?金はどうしたら……」
「安心してよ。王都に冒険者制度は無いからお金は国からある程度は出してくれることになってるし、一軒だけだから4人で住むしかないけど家も用意してあるよ」
「マジすかぁ!?」
フラムは驚きと歓喜が混じった声を出した。まあ、命令があるまでは動かないでいいし、金が貰えて住める場所もくれるならこうもなるか。
そう思っているとシュテルが笑顔で僕に声をかけてくる。
「話は終わりかしらぁ?ならジェロア!一緒に美味しい食べ物でも食べにいきましょう!奢るわ!」
「行かない」
「あ、ズルい!私が先に約束してたのに」
「あら?そうなの?なら一緒に行きましょう!」
「だから行かないって!」
ご飯は一人で静かに食べる方が好みだ。そのことを知ってるのにこいつはいつも僕を食事に誘ってくる。嫌がらせか?
「……二人とも、ごめんだけど、今日は止めておいてくれないかい?
ルエールが急に真面目な顔をし、待ったをかける。一体どうしたんだろうか。なんだかさっきより嫌な予感が止まらない。
「兄さん……」
「……なに」
気まずい雰囲気になる。だが奴はそれでも止まらずに言葉を続ける。
「家に、一度だけでいいから戻ってきてくれないかい?父さんが、呼んでるんだ」
「……あ?」
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